第4話 S級認定するための試験、それは……

「試験の内容としては、こちらの指定する依頼をこなしてきてほしい」


 なるほど……。


「依頼……ですか」

「まさか、それって」


 横を見ると理央が驚いた表情をしていた。

 理央は思い当たるものがあるのか?

 鬼頭協会長は何か言おうとする理央を手で制した。

 俺だけなんか置いてかれてるんだが。そんな気持ちになる。


「去年の今頃、大阪でダンジョン災害が起きたのは知っているか?」

「はい。あの新大阪駅一帯がダンジョン化してしまったやつですよね?」


 新大阪ダンジョン――――それは新大阪駅を中心に半径3キロメートルの範囲が魔物で溢れ、人が立ち入れない場所になってしまった災害だ。


「そうだ」

「でも、あれは国が対応中では?」

「その予定だったんだがな……今は無期限凍結状態にある」


 無期限凍結……だと?


「危険すぎる!昔、対処しようと潜ったA級5人のパーティが全滅したところじゃないか!」


 理央が我慢できないと机を勢いよく叩き、立ち上がる。


「ああ、危険な依頼になるだろう。だから、受けなくても構わない」


 A級5人が全滅……か。


「それほどS級という証は重いのだ。A級とS級は隣り合わせだが、昇格できるものは極小数しかいない」


 鬼頭協会長は低い声で、言い聞かせるように言う。


「それに一般人がS級が来たと聞いたらどんな反応をする?」

「絶対安全……」

「そうだ。その期待を裏切ってはならないんだ。だからS級に上がるためにはこれくらいクリアしてもらわないといけない」


 そして協会長は二条へ視線を移し、


「二条。君が葛城君のことを心配しているのは分かる。だがこれは、充分やり遂げると判断した上での提案だ」


 と、説得するように告げた。


「それに君は些か過保護なのかもしれないな。ほら、可愛い子には旅をさせよと」


「……俺は受けようと思う」

「なっ……死ぬかもしれないんだぞ!」

「それはダンジョンに潜っていれば当たり前のことだろ?」

「今回のはレベルが違うッ」

「新武器のテストもしたいしな」

「ッ! はぁ……わかったよ。言って聞く奴じゃなかったな、お前は」


 呆れたように言う理央。

 そして鬼頭協会長は満足げな表情をしてに頷いた。


「よし、ではこの依頼を正式に君に任せる。この書類にサインをくれ」


 特に言っていたことと相違はなさそうだな。

 差し出された書類を読みサインする。


「よし、確認した。では準備が整い次第、連絡をくれ。足はこちらが出そう」

「それは助かります。飛んでいって不審者認定され、攻撃仕掛けられたら困るし」

「おまっ、飛べるのか!?」


 理央が反応すんのか。


「言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!」

「じゃ、今言った」


「はっはっは、仲良いのは良いことだね」


「「あ、すみません……」」


 協会長がいることを忘れて言い合ってしまった。


「何はともあれ、よろしく頼むよ」

「はい、それでは」

「ああ」


 協会長室を後にする。


「お前、本当に大丈夫なのか?」

「連れてきたお前が心配するなんてなぁ」


 嫌味っぽく言ってみた。


「なっ、私だってあんなことになるとは知らなかったんだ」

「分かってるよ。目見開いて、口あんぐり開けてたし」

「そんな表情してたのか!?」

「ああ、傑作だったぞ。あれは」


 羞恥に染まっていくのがわかる。

 ふぅ、スッキリした。引っ張って連れてきよった恨みはこれくらいでチャラにしてやろう。

 ……ん?


「おい、なんだその握り拳は」


 視界の端に拳が見えた。それも今からパンチを繰り出そうとしているかのような。


「これからお前に食らわすためのモンだよッ!」


 それが勢いよく、俺に向けて振りかぶられた。


「うわっ、あっぶねぇ。ここ協会だぞ! ぜってぇ怒られる」


 すんでのところで回避し、俺は理央に文句を言う。


「ならこの怒りと恥ずかしさはどこにぶつければいいんだァ?」

「俺に聞くなよ。自業自得だろォ? ダンジョンでも行ってこい」

「ああ? あんなの手応えが無くてストレス発散にならないよ」

「そうかい。じゃ、俺は準備したいから工房に戻るぞ」

「おい、待てって。私も行く」


 背後から理央の声が聞こえてくる。



「で、工房まで着いてきたわけだけど……何する気なんだ?」

「そりゃぁもちろん、ちゃんと準備するか監視するんだよ」


 腕を組みながら言ってくる。


「はぁ、好きにしろ。勝手には触るなよ」

「りょーかい」


 俺に続いて理央も工房に入り、壁にもたれかかってじーっと見てくる。

 作業机や壁には各種武器や素材が整然と並べられている。新武器の試作品もいくつかあるが、まだ実戦で試したことはないものの方が多い。

 アイテムボックスからスーツを取り出し、壁際の専用スペースに設置する。


《では、戦略戦術装甲:蒼鳴鉄騎の調整を開始します》

「頼んだ」


「……なぁ」

「どした?」

「それ、パワードスーツが名前じゃなかったのか?」


 理央が唐突にそう聞いてくる。

 

《正式名称が戦略戦術装甲:蒼鳴鉄騎です》

「長いから普段は言わないけどな」

「もったいない。かっけぇのに」

《ですよね》

「なら言える時は今度から言うか」


 確かに『戦略戦術装甲:蒼鳴鉄騎、起動ッ!』『蒼鳴鉄騎、敵を殲滅する』とか良いかも。

 決め台詞的な。


「で、新装備とか持っていくのか?」

「持っていくぞ」


 俺は壁に立てかけている武器の中から複数を選んで見せた。


「これとか」


 銃型の武器を目の前に差し出す。


「銃?」

「うん。弾丸の代わりに魔石が内臓されていて、それを消費するごとに属性が付与された魔法攻撃ができる」

「はえー」

「あとは保険にこれを」


 日本刀を取り、少し鞘から出して見せる。


「刀身が真っ黒じゃん」

「そう、こいつはとある魔物から作ったものでな。その影響で黒く変色したんだ」

「ほほう……」


 興味が惹かれたようでまじまじと刀を見る理央。


「銘は次元。付与魔法は次元斬、素材はブラックドラゴン」

「ブラックドラゴン!?!? お前いつそんな素材買ったんだ」

「この前貰ったんだよ。ドラスレさんから」

「あぁ……。あのドラゴン狂か」

「そうそう、ドラゴン関係でしかダンジョンに行かない人」


 理央も同じ人を思い出していることだろう。

 そんな可哀想な人……みたいに言ってやるなよ。ただ、好きが行きすぎちゃっただけだから……。

 ……いや、あれは行き過ぎか?


「この前も依頼が来たけど、ドラゴン関係じゃなかったから断ってたわ……。あっ、そういえばブラックドラゴン討伐した言うてたね」

「だろ? その素材利用した依頼の報酬として貰ったんだ」

「なるほどね」


 納得してくれたか。

 それじゃ、他の準備もちゃちゃっと終わらそう。

 俺は次々とアイテムボックスへ入れていった。


「あとは作るやつが何個かだな。数日かかるけど、どうする?」

「そうなのか? なら、帰ろうかな。あとで連絡してくれ」

「……まさか着いてくるつもりか?」

「当たり前だろ。……心配なんだから」


 なぜ目を逸らす……。


「……わかったよ。ただし、手は出さないでくれよ?」

「わーってるって、お前の試験なんだから、S級探索者のこの私が手を出したら意味無くなるだろ」


 自信満々に言うなぁ。

 見るからに自信ありげに胸を張って言う。

 まぁ、良いことか。自分の実力を疑わないのは。


「それじゃ、また」

「ああ」


 理央が工房から出る。

 ガチャンと扉の閉まる音が工房内に響く。


「それじゃ、作り始めますか! マーク」

《かしこまりました》

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