第3話 どうやら、バレていたらしい……
「この前、別れた後何してた?」
ダンジョンでレッドサイクロプスを倒し数日後、工房にて理央に問いただされた。
……いや、カマかけてるだけだろ。
ここはとぼけて誤魔化そう。
「ん?」
「いや、私がイレギュラーの対処に行った後、何してたってこと」
「工房にいたけど?」
やべ、バレてるのか? どこでバレた……?
「とぼけなくてもいいぞ。これ、蒼士だろ」
そう言って理央はスマホの画面を俺に見せてきた。
画面にはデカデカと『このイレギュラーを討伐したのは一体!?』と書かれた動画が表示されている。
「何これ」
「動画サイトに投稿されたやつ。最近はずっとこの話題で持ちきりだぞ」
え、なんでだ? あそこにいた人なんていなかったはず————あっ、一人いたわ。あの人が生配信していたということか?
考え込んでいると、理央が動画を再生して見せてきた。
そこには確かに俺が映っていた。
だが、遠距離からの撮影、逆光ということもありほぼ判別はできないような感じだ。
「で、なんで俺だと思ったんだ?」
「この影、お前の作ってたパワードスーツ……だっけ? それに似てるぞ。あと、現場にそのダンジョンコアと同じ魔力残滓を感じた」
なっ!? こりゃぁ……完全にバレてらぁ。
魔力の残滓なんてのがあるんだな……。
確かにコアの魔力を使ったし、そのコアはダンジョンに行く前に触れさせてあげたが……そこですでに覚えているとはね。
さすがS級探索者なだけはある。
「理央は別のイレギュラー対応に行ってたろ? なんでそのダンジョンにいたんだよ」
「そりゃ、正体不明の何かがイレギュラーを討伐したんだ。それに探索者登録もしてなかったらしい。だから、よからぬことを企んでないかの調査をな」
ジロっと俺を睨む目が鋭くなる。
「そんな危険な奴がいたんだなぁ」
「ああ、私の目の前にな」
「いや、だって————」
「だってもないぞ」
「はい」
「今度は私も一緒に行くからな」
「はい」
隠し通せると思ってたんだがなぁ……S級探索者は手強かった。
くそぅ……。
「それじゃ、ダンジョン協会に行くぞ」
「なんで?」
「どうせ、このまま何もせず普段通り過ごすつもりだろ? 塀の向こうに入って、大好きな機械弄りできなくなっても知らないぞ〜」
それは困る。
「よーし、行こう。今すぐ行こう!」
うん、弄れなくなるのは困る。数少ない趣味なんだから。
仕方ないから行ってやるかぁ。
ん? 首に手が当てられた感覚が……。服の襟首を掴まれた?
「あっ、ちょ、まっ。行くって言ったじゃん。引っ張らないでくれって」
「言うだけ言って行かないことだってあるだろ」
「行くって!」
「いや、このまま連れてく」
「そんなぁ」
そのまま強制連行され、ダンジョン協会へ着いた。
10階はあるビルだ。
外壁はガラス張りになっており、正面入り口から理央に連れられて入る。
「あれ、受付に行かないのか?」
中に入るが、理央は受付へ向かわず、エレベーターへ向かっていった。俺を引き連れて。
エレベーターの中で、理央は無言のまま階数ボタンを押した。表示された数字は「10」。最上階だ。
最上階ということ、これから会うことを考えてある予想が頭に浮かぶ。
「もしかして……」
「今から会うのは協会長だよ」
一気にトップの人とご対面だと!?
会ったことも無いから緊張するぞ、流石に。
「もっと段階的に行くもんじゃないのか?」
「それだけやったことがやばいってことさ」
そっかぁ……。
「ほら諦めて、行くよ」
エレベーターを降り、数ある部屋から両開きの一番大きな扉の前まで向かう。
部屋名は協会長執務室と書かれていた。
理央が三回ノックする。
「入れ」
部屋から威厳のある声が聞こえてきた。
「はーい」と返事をし、理央が扉を開く。
「連れてきましたよ〜」
気の抜けた、およそ偉い人に会う態度ではない声で話しかける理央。
中に入り、奥のデスクに座る人と目が合う。
スキンヘッドに黒縁のサングラス。鍛えられたゴツい肉体が服装の上からでもよくわかる。
厳つい人だぁ。
初見、俺はそう感じた。
頭の先からつま先まで、見定めるように視線を動かしている。
「その方が君が言うイレギュラーを討伐した人かな? 失礼ながら……とてもそうは見えないのだが」
部屋の中心にあるソファへ座るよう勧められつつ、理央に話しかけている。
渋い声が耳に届く。
この人が協会長なのだろうか?
「そうですよ。さっき本人も認めましたし」
「そうなのか。初めまして、協会長の
「初めまして、
互いに自己紹介をする。
「それで今回の要件としてはやはり……」
「ああ、先日の中央区ダンジョンにてイレギュラーが出現し、何者かが討伐したことについてだ」
ですよねぇ……。
「そこで二条君から聞いたんだがね、葛城君。君の魔力残滓が中央区ダンジョンにあったそうで。可能性が高いと」
視線を理央に向けつつ話す協会長。
「ただ私としてはね、君が生産職として登録されていることは確認済みだが、戦闘職でもなく戦闘系スキルも一切、持ってないのにそんな戦えるとは考えられんのだよ」
「そうですね。私は主にダンジョン産の鉱石や素材を使用したアイテム制作などをしてるので……」
「だろうね。二条からは最低でもB級、最高でS級の実力があると聞いた時は驚いたもんだよ」
理央が……。そこまで評価してくれていたのか。
「しかし、そんな大幅ランクアップは異例すぎる。それに生産職で言うと前例が無い。また、実力も不透明なのに容易に高ランクスタートさせることは出来ない」
「適正ランクで登録するって言ったじゃない!?」
二条が立ち上がり、抗議の声を上げる。
協会長の鬼頭は理央の抗議を冷静に受け止めながら、手を上げて落ち着かせようとした。
「わかっている。だが、例外を認めるには確固たる証拠と理由が必要だ。葛城君の能力を認めた上で、その適正ランクを決めるための手続きを踏むべきだろう」
「つまり……?」
「試験だ」
鬼頭協会長が短く述べる。
「試験……ですか」
「そうだ。実際に君の能力を目の当たりにし、評価を行う。その上で適正ランクを決定する。異論はないな?」
俺は考え込んだ。正直に言うと、戦闘職ではないし、こんな状況になるとは思ってもいなかった。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「はい」
鬼頭は微笑み、軽く頷いた。
「よし、では君には仮の探索者証を渡しておこう。それと……ここに電話番号と所持スキルなどを書いてくれ、登録する際の基本情報になる」
一枚の紙を俺に渡して、そう言った。
「分かりました」
「それで試験の内容なんだが————」
渡した紙を仕舞いつつ、話し始める鬼頭協会長。
さてその内容とは————
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