第2話 ちょっと威力強すぎたみたい
今日もいつも通りのダンジョン配信、そのはずだった。
目の前には魔力反応が複数。それも強大な。
恐る恐る顔を出し様子を伺うと、何体ものサイクロプスがいた。
「なんで……こんな場所にいるんだ」
サイクロプス————Bランクに位置付けられ、B級探索者の私でも一対一で戦い、なんとか倒せるくらいの魔物。
それが群れでなんて……厳しすぎる。
「それにあの赤いのなんて聞いたことも見たこともない……。みんな、知ってる?」
私は背後にいる配信用ドローンを通じて、観ている視聴者に聞いてみた。しかし、書き込まれる内容からして知っている視聴者はいないようだった。
そんな中、あるコメントが目に止まる。
:各地のダンジョンでイレギュラーが発生してるらしいよ
「イレギュラー? まさかあのサイクロプスも?」
:可能性はある。ただ、管理局の発表にはここは書かれてないんだ。
「てことは、まだ発見されてないのか。誰か通報できない?」
私は物音を立てるとバレてしまう。だから視聴者に任せることにした。
コメント欄では何人かが『わかった』と書いてくれている。
それを確認し、視線を戻すとサイクロプスへ向けて眩い光が走った。
周囲は土煙で包まれる
:なんだ!?
:何が起きた!?
:大丈夫?
「私は大丈夫」
焦げたような匂いが鼻に入る。
レーザーっぽいもの?
「焦げ臭いね」
:火魔法って感じではなかったよね
:もしかして討伐に来た人かな?
:いや、管理局が『先程、5体目のイレギュラーを確認。人員を集め、討伐に向かう』ってついさっき声明を出してたから違うぞ
:なら誰が……
:案外、人じゃないのかもな
「そろそろ、真剣に考えないといけないかもしれないね。どうやってこの場から離れるかを」
コメント欄を見てそんな考えが頭をよぎる。
瞬間、何十本もの光線がサイクロプスへ降り注ぐ。
「なっ!?」
:なんだこれは
:やばすぎ
:離れたほうがいいんじゃ……
爆風が周囲に吹き荒れる。
私は土が混じった風に目を開けていられず閉じ、手で顔を覆った。
しばらく轟音は続き、それが鳴り止むと私は視線を前に戻す。すると、ちょうど土煙が晴れ始めていた頃だった。
その光景に私は固唾を呑む。
なんと何十体といたサイクロプスが倒れているのだ。それも体中に穴が空き、見るからに致命傷だろう。
唯一、赤いサイクロプスだけが立っていた。しかし、全身傷だらけで満身創痍なのは明らかであった。
「取り巻きが全滅……」
:なんだったんだろう今のは
:つっよ
:ノゾミちゃんに当たってないし、イレギュラー討伐が目的っぽいけど……
「確かに、さっきから私にまで攻撃が来ることはないね」
書かれるコメントを見てある程度、腑に落ちるような感覚になる。それでも、なんなのかは分からないが。
その時、書かれたコメントで一つ目を引くものがあった。
:ねぇ、空中に人が飛んでない?
だった。
私は慌てて、視線を空に向ける。
逆光で見えにくかったが、確かに人影があった。
「ほんとだ」
そしてその人影は何やら武器を持ち、再び攻撃を仕掛けようとしているようだった。
刹那、人影が見えなくなるほど光に包まれ、一筋の光線が赤いサイクロプスへ進む。
私はそれを目で追いつつ、赤いサイクロプスへ視線を向けた。ちょうど回避行動を取ろうというところだった。
直撃するかに思えた光線は失敗に終わった。
そして、謎の人物と赤いサイクロプスが激闘を繰り広げる。余波が風となり吹き荒れる。
しかし、決着は一瞬だった。
地面に叩きつけられた赤いサイクロプスめがけて光線が放たれ、直撃する。
大爆発が起きた。
後に残ったものは一切なく、消し飛んでいた。
「あぁ……売れそうな部位多かったのに。勿体ない」
無意識のうちにそんな言葉が漏れていたことを、視聴者に指摘されて気がついた。
「あれ、もういなくなっちゃってる。なんだったんだろうね」
:ほんとだもう居ない
:なんだったんだろう
:討伐にしては素材も回収してないし
◆◆◆
俺はサイクロプスらを討伐するため、アイテムボックスから杖を取り出す。普通のありふれた杖だ。
そして視界に入るサイクロプスへ向けた。
「モードチェンジ、拡散砲撃モード」
《モードチェンジ、実行》
杖が変形。先端が二股に分かれ鋭利に尖る。その分かれる中心には赤い水晶玉が出現。持ち手部分が伸び、両手で構えれるようになる。
そして末端からパワードスーツへケーブルが接続、コアから魔力が供給され始める。
「カウントダウン開始」
《魔力収束開始。three……two……》
カウントダウンが進むにつれ、先端に魔力が収束し、拡大してゆく。
《one……zero》
そしてカウントダウンがゼロへ。
「————発射ァッ!!」
収束した魔力を前方へ放出する。それは一筋の光となり、突き進む。そして空中で何本もの光線へ分離、全てのサイクロプスへ向けて降り注いだ。
後に残るものはレッドサイクロプスのみだった。
「耐えたか」
《どうやら耐久力も強化されているようですね》
「コアとの回路接続」
《接続開始—————完了》
「魔力供給開始」
《杖への充填を開始します》
ダンジョンコアから発生する無限の魔力を、杖へ充填していく。
《魔力、規定量へ到達します》
「トリガー展開」
持ち手部分にトリガーが出現。それに指をかけ——————引く。
貯まった魔力が一筋の光線へ圧縮され、放つ。それはレッドサイクロプスへ近づくにつれ太くなり、到達する頃には全身を覆い尽くすほどになっていた。
「グォォォォォォォォッ」
地響きのような雄叫びが聞こえる。
肉体が蠢き、徐々に再生し始めるレッドサイクロプス。
「再生するのかッ」
そして一瞬で再生が完了し、正面から消えた。
レッドサイクロプスが回避したのを認識した時には、光線が地上へ到達していた。
後に残ったのはポッカリと空いたクレーターのみ。
「チッ」
消えたレッドサイクロプスを探すために周囲を見渡す。
しかし、いくら地上を見ても見つけることができなかった。
《後ろです!》
マークが居場所を感知し、警告を流す。反射的に俺は後ろを振り向いた。
その時、背中から叩きつけられるような衝撃が伝わってきた。それに抗えず、俺は地面と勢いよく衝突してしまった。
「くそっ、回り込まれていたのか……」
正面に着地するレッドサイクロプス。勝ちを確信したようなニヤけた面を見せてくる。
「マーク、
《かしこまりました》
マークへ指示を出し、光線を射出できるソーサラーステッキを複数、アイテムボックスから取り出す。
《ソーサラーステッキと魔力回路接続、遠隔操縦開始します。対象、レッドサイクロプス————ファイア》
複数の光線がレッドサイクロプスめがけて突き進む。
狙っているところが顔面だと分かったのか、急いで両腕で防御の姿勢を作るレッドサイクロプス。
奴の視線が無くなった隙を逃さず、俺は上空へ飛び上がる。
そし頭上へ。
「周囲の魔力を吸収。及び、コアとの魔力回路接続」
杖をレッドサイクロプスへ向け、構える。
《吸収用、制御用魔法陣、展開します。また、コアとの接続を開始します》
周囲の魔力が杖へと収束し始め、前方に三重の魔法陣が展開される。
さらに胸部コアが輝き、杖へと魔力が流れていくのが分かる。
地上では止まない集中砲火と耐えるサイクロプス。
《魔力充填120パーセント、チャージ完了。遠隔操縦を解除、バインドへ移行》
膨大な魔力を制御する都合上、複数制御することができない。そのため、何かしらで行動を止める必要がある。
そして完成したのが、行動を封じるバインド機能を兼ね備えた無線無人攻撃端末「ソーサラーステッキ」だ。
突然、攻撃が止み、困惑する様子が見て取れるレッドサイクロプスの四肢に突き刺さり、何十もの魔力で形成した鎖が巻き付く。
必死にもがくが微動だにしない。
「————ホーリーライト・ブレイカァァーー!!」
行動を封じたレッドサイクロプスへ向けて、収束した魔力を解き放つ。
三重の内、一つの魔法陣が発射口の役割を担い、方向を決定。
突き進む。
そして直撃。
周囲に土煙と暴風が吹き荒れる。
《対象、沈黙》
「よし」
《今度は威力が高すぎたようですね。跡形も無く消し飛ばしてしまっています》
「あちゃー、素材も無くなっちゃったか」
《はい》
「調整が必要か……。さぁ、バレる前に帰ろう。理央には止められてるからな」
《かしこまりました》
レッドサイクロプスを消滅させてしまったため、骨や魔石、売れる臓器を回収することができなくなってしまった。
勝負には勝ったが収入無しでは失敗だな。
そして帰るため、飛び立つ。
「そういえば、隠れてた人いたんだっけ?」
《ええ、まぁ大丈夫でしょう。あの後、生命反応が確認できましたので》
「ならいいか」
俺はそれ以上、その人に対して興味を持てず、忘れることにした。
ダンジョンから出ると、外は武装した探索者で埋め尽くされていた。
「ん? なんだこれ」
俺と入れ替わりでダンジョンへ傾れ込む探索者達。
《先ほどのイレギュラーを討伐しに来たのかも知れませんね》
「それは申し訳ないことをしたかもな」
《被害は出てませんし気に病むとはないでしょう》
「そうだな。帰ろう」
《はい》
アイテムボックスへパワードスーツを収納し、工房への帰路についた。
理央にバレないことを祈りながら。
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