ダンジョン専門発明家が潜るダンジョン探索。イレギュラー? いい素材になりそうだね

水国 水

第1話 蒼の鉄騎

「なぁ、ダンジョン行かないか?」

「なんだよ急に」


 俺の工房へ遊びに来ていた親友、二条にじょう理央りおにダンジョン探索へ誘われた。

 日本に5人しかいないS級探索者。そしてかなりの美人であることから世間からの人気も高い。しかし戦闘狂だ。

 あと胸がでかい。


「毎回、私に『素材取ってきてくれ』って依頼出すけどよ〜。行きたいと思ったことはないんか?」

「知ってるだろ。俺が戦闘スキル持ってないの」

「知ってるけどよ、なんか作ってるのも知ってるぞ。そこに布かけてるやつとか」


 バレてたか……。


 壁際に布を掛けて置いていたものを指して言う理央。

 そして近づき、布を外した。

 現れるのは人型鉄騎、パワードスーツだ。


「何これ」


 飛鳥は困惑した様子で問いかけてくる。


「パワードスーツってやつ。今まで作ったものを安全に使うためのスーツだ。あとはダンジョン内でのサポートとか」

「なるほど、やっぱ行く気じゃねぇか」

「まぁね」


 理央はまじまじとパワードスーツを見た後、こちらへ向き


「それであとどのくらいで完成しそうなんだ?」


 と聞いてきた。


「あと一つ揃えば完成する。多分、もうすぐくると思う」

「もしかして、ここに埋め込んだりするのか?」


 そう言うと飛鳥が、ポッカリと円形の穴が空いたパワードスーツの胸部を指差す。


「そうそう。そこに取り付けるダンジョンコアを取り寄せてるんだよ」

「はぁ!? そんなことができるのか?」


 信じられないとばかりに大袈裟に反応する理央。

「計算上ではできる……はずだ」


 その時、工房のインターフォンが鳴った。


「お、来たかも」


 俺は玄関へ向かい、宅配から荷物を受け取って戻る。


「でっけぇ荷物だな。言ってたダンジョンコアか」

「発送者見る感じそうだろう」


 発送者の欄には日本オークション協会と書かれていた。俺がダンジョンコアを競り落とした場所だ。

 ダンボールを開け包装紙を出すと、中から水色に輝く球体————ダンジョンコアが出てきた。


「これが……」

「ああ、ダンジョンコアだ。これを————」


 俺は早速、パワードスーツの胸部に取り付ける。


「マーク、起動。パワードスーツへ動力を接続する」

《かしこまりました》

「お、マークか。久しぶりだな」

《お久しぶりです。理央様》


 抑揚の無い合成機械音声が聞こえる。

 マーク————俺が開発した自己成長型サポートAI。

 俺は反応を確認し、胸部へダンジョンコアを埋め込む。


《接続状況、正常。続いて、全身への動力回路チェック、異常無し。魔力供給量、安定。成功です》


 と、次々と合成機械音声が流れる。


「よし」

「完成か!!」


 理央がキラキラとした目で見てくる。「これでダンジョンに行ける」とでも考えているのだろう。


「あとは細かい調整とかだな。ダンジョンに行けるのはそれからだぞ」

「分かってるって」


 装着すると伝え、理央に離れてもらう。


《では、装備シークエンスを開始します》


 目の前に吊るしているパワードスーツがそれぞれ分離し、自動で腕や足、胴体へ装着していく。

 手をグーパーさせ、屈伸や背伸びをし、可動域を確認する。また、頭部の視覚センサーが正常に作動しているかを確認。


「よし、いい感じだな」

「カッケェな!」

「だろぉ」


《全機能正常》


「了解。ディスプレイ起動」

《起動》


 視界が晴れ、真っ暗の画面が理央や工房が見えるようになる。


「周囲の地形データをインポート」

《チェック開始します》

「動作及び補助力をチェックしろ」

《了解。周囲の地形データを観測、完了しました》


 そして動くために必要な箇所、脚部、背部に取り付けられたスラスターの動作をチェックするよう指示を出した。

 それぞれが細かく動き、問題無いかマークが確認する。


《オールグリーン。続いてセンサー類のチェックへ移行します》


 ディスプレイにグラフやら波形が表示されていく。


《完了》

「よし、上手くいった」

「それじゃ、行こう! すぐ行くぞ!」


 調整が終わると行こうと凄む勢いで言ってくる。そして俺が承諾する間も無く、すぐにスマホを取り出し、どのダンジョンに行くか吟味し始めた。


「ここなんてどうだ?」


 理央がスマホの画面を見せてくる。

 そこには『日本初!? フィールド型ダンジョン!』との見出しが書かれた記事が表示されていた。

 フィールド型ダンジョンといえば、ダンジョンの中なのに草原や森などが広がり、太陽のような灯りがあると言われている場所か。


「動きやすそうだしありだな」

「準備は出来てるか?」

「ちょっと待ってくれ。確認する」


 俺は飛鳥にそう伝えると、 アイテムボックスを発動。中に入れた武器を確認していると何やら電話のコール音が耳に入ってきた。


「なんだ?」


 理央が疑問の声を上げる。

 横から俺も覗くとダンジョン管理局の局長————墨村すみむらごうの名前があった。


「もしもし? 今からダンジョンに行くんだが、急ぎの用か?」


 不機嫌さを隠す様子もなく電話に出る理央。


「なんだって!? 本当なのか、それは」


 突然、大きな声を出す。

 

「そうか……」


 かと思えば急に納得した声色になる。

 そして通話は終わった。


「何があったんだ?」


 疑問に思い、聞いてみた。


「各地のダンジョンでイレギュラーが発生したらしい」

《イレギュラー……特殊個体の魔物ですね。全国各地、ダンジョン協会の発表では4体のようです》

「その通りだ」


 マークの言葉を理央が肯定する。


 イレギュラーが4体……。しかも、今の感じからしてS級探索者に要請するほどの脅威度。

 やばそうだな。


「その内の一体を私が処理することになった。他のイレギュラーも動けるS級や他の探索者が協力して対処にするそうだ」

「そうか……。なら、ダンジョンはまた今度だな」

「ああ、非常に癪だが。この怒りはイレギュラーにぶつけるとしよう」


 そう言い、理央は拳を握る仕草をする。

 終わったなイレギュラー。


「あ、お前はイレギュラーに挑もうなんてこと考えるんじゃねぇぞ」


 そう言い残して、理央は俺の工房を後にした。


《バレてますね》

「だな……」

《ところで、5体目のイレギュラー反応を確認しましたがどういたしましょう。まだ、ダンジョン協会は気づいていません》

「まだ居たのか!? あいつは『行くな』と言ってたが……行きたくなるよなぁ。場所は?」

「中央区ダンジョン、フィールド型です」

「近くだな。協会も気づいてないとすれば、いずれ被害は大きくなる。行くか」

《かしこまりました。言い訳は考えておいてください》

「知ってるか? バレなきゃ大丈夫なんだぞ」


 

◆◆◆



「ここが中央区ダンジョンか」

《はい》

「フィールド型ダンジョン、画像では知っていたが……実際に見ると違った驚きがあるな」


 ダンジョンの中は青空が広がっており、風が吹いていた。まるで地上にいるかのような感覚に陥る。


「さて、イレギュラーはどこだ」

《北東方面、距離約4キロメートルです》

「離れてるな。向かうぞ」

《はい》


 俺はスラスターを噴かし、飛翔。イレギュラーがいると思われる地点へ向かう。


「あいつか」


 景色は変わり、平原に佇む巨人の群れ。

 よく見ると他とは体格が一回り大きく体表が他とは違い、赤色の巨人が一体いた。

 一つ目の巨人————サイクロプスだろうか。


《サイクロプスのようですね。しかし……あの赤いサイクロプスはデータにありません。ひとまずレッドサイクロプスと呼称します。それにサイクロプスが群れを形成するなど事例はありません》

「未知の魔物に現象だな。あの赤いサイクロプスが元凶だろうな」

《レッドサイクロプスです》

「ああ」


 空中に静止し、状況を確認していると『ピピピ……』と魔力センサーに反応が現れる。


「これは……探索者か?」


 それは人間の魔力反応だった。


「隠れているのか」

《おそらくそうでしょう。一方的に見つけたはいいものの、退けなくなったといった状況でしょう》


 マークが冷静に分析する。


「なら大丈夫そうだな。ただ一応、注視しておいてくれ」

《かしこまりました》

「よし、じゃあ始めよう」


 そして戦闘態勢へ入る。



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