第20話 勇者パーティー

 7Gまであげた時だった。

 新しい一団が登場しました。

 10人の集団で、白を基調とした僧侶っぽい衣装を着ています。


「お嬢さま、あれは?」

「さあ?私には新興宗教の集団に見えるけど。」


「わはは。お前たちの狼藉もここまでだ。我が国屈指の大神官様だぞ。」


 例の補佐官が叫んでいる。

 10人が一斉に呪文?を唱えると私たちとの中間に魔法陣が現れた。


「お嬢さま、あれは?」

「多分、召喚陣だと思うわ。ちょっと解析してみるわね。」


 私は集中して召喚陣を読み解き、呪文を解析した。


「無駄が多い術式ね。多分ここが召喚する対象で、ここが隷属の部分。あらっ、これだと相手に裁量の余地を与えちゃうじゃない。」

「お嬢さま、なんだか魔法陣が光っていますけど……。」

「無駄な記述が多いから、使われていない魔力が放散しているだけね。ねえ!まだなの!もう、魔法式の解析も終わっちゃったんだけど。」

「う、うるさい!10人の呼吸が乱れるではないか!」


 大神官とやらは肩で息をしている。

 

「えっと、ここを削除して、種類を高次に変えて……従属を強制に変更っと。ねえ、こっちも呼び出していいかな?」


 反応はなかった。

 ガキの戯言とでも思っているのだろう。

 だが、龍の魔力は、こうしたゲートを開くのに最適なのだ。


 私は無詠唱で術式を起動した。

 地面に30mほどの召喚陣が現れ、体高10mほどの白い犬が現れた。


「馬鹿な!」

「まさかフェンリル……。」


 集中を乱した神官たちの召喚陣が明滅している。


「ちょっと大きいわね。小さくなりなさい。」


 フェンリルらしい犬は1mのサイズに縮んだ。

 私は指先を少し傷つけて隷属の証となる血を滲ませた。


「ほら、お舐め。」


 フェンリルはそれにしたがって私の血をなめた。


「うん。今日からお前の名前はポチよ。」


 ワン!

 うん。これでこの子は私のペットね。


「あらっ、まだ終わってなかったのね。」

「グヌヌッ。」

「これって、私が同じものを呼び出すとどうなるのかしら?」

「お嬢さま、これ以上追い込むのは……。」


 フェンリルの召喚陣を消して、次の術式を起動する。

 また一瞬で召喚陣が展開し、今度は8mほどの灰色の犬が現れた。


「なぜだ!我々のオルトロスが……。」


 召喚の対象を失った神官の召喚陣は消えてしまった。

 魔力を召喚陣に吸われた神官たちは全員倒れてしまっている。

 私はオルトロスも小さくなってもらい、血をなめさせて名を与える。


「あなたはタマよ。」

「お嬢さま、それはネコの……ああ、手遅れみたいですね。」


「補佐官さま、これでネタ切れでしょうか?」

「ググッ、勇者様がいらっしゃれば……。」

「勇者……、そんなのまで呼び出してるの。無責任ね。」


 私は飛行敵の行く先をサーチし、ポチとタマを載せて南を目指した。

 海を超えた先の砂浜に飛行艇は着陸していた。

 私たちが近づくと中から40才くらいの男性が現れた。

 黒い髪は薄く、小太りで身長も低い。


「ああん、お嬢ちゃん、なんか用か?」

「その飛行艇の所有者です。カラータとの売買契約は破棄されましたので、回収にまいりました。」


 ミーシャがそう告げると男の目が吊り上がった。


「何言ってんだ、こいつは勇者である俺の玩具なんだよ。」

「ガーン……。」


 思わず口にしてしまった。

 それほど衝撃的な事実である。

 

「こ、これが召喚された勇者だなんて……神への冒涜よ。」

「うるさいわね、何騒いでいるのよ。」


 次に飛行艇から出てきたのはセミロングの茶髪で、化粧を厚く塗ったオバちゃんだった。

 杖と服装から魔法使いなのだろうと想像できる。


「バーバラ、こいつらがいちゃもんつけて来たんだが。」

「そんなの、海に放り込んでおけばいいじゃない。」

「ありゃりゃ、メイドちゃんは俺がもらっちゃおうかな。」


 そういいながら降りてきたのは、神官服をまとった爺さんだ。60才くらいじゃないか。

 脂ぎった顔と禿げ頭が気持ち悪い。


「まさか、これが勇者パーティー……。」

「ふん!」


 突然、3人がポーズをとった。


「俺たち!」 「カラータの!」 「3勇者よ!」


 私は、頭から血の気が引いていく気がした。

 

「勇者って……少年少女で……。」

「ふん。召喚されて25年も経つんだ。年もとるさ。」

「だったら引退して、城の仕事でもしてればいいじゃないの。」

「魔王が出現しないから、実績がないのよ。そんな状態で引退したって、楽な仕事にはつけないじゃない。」

「だからって、こんな醜態を……。」

「うるせえ!人の生きざまにケチつけんじゃねえよ!」


「そちらの事情など知りません。飛行艇は回収します。」

「聞き分けのねえ嬢ちゃんだぜ。こうして新しい大陸が見つかったんだ。俺たちはこの大陸を制圧して領主になってやるんだ。」

「クククッ、奴隷女は抱き放題よ。」

「まあ、そういうことだから、諦めて帰れ。」

「でも、メイド付きってことは、身代金がとれるんじゃない?」

「バカか。いいとこの嬢ちゃんなら、こんなとこへ出てくるわけないだろ。」


「はぁ……これ以上茶番に付き合うつもりはないわ。」


 私は飛行艇に近づいて倉庫に送った。

 兵士2名が転がり落ちた。


「俺の飛行艇に何をした!」

「回収しただけですわ。では用も済んだので……。」

「ふざけないで!ああ、私の宝石が……どこに隠したのよ!」

「そうだ。秘蔵の極楽本も入ってたんだぞ!」


「これと、これと、これね。お返しするわ。」

「ふざけるな!俺の飛行艇を返せ!」


 勇者の叫びと共に、周囲の雰囲気が変わった。

 勇者の髪の毛が逆立った……薄いけど。

 魔法使いの杖が光を帯びる。

 神官は額から脂汗を流した。


 勇者がいきなり切りつけてきた。

 かろうじてよけたが、髪が数本切られた。


「へえ、シールドを切り裂くって、ちょっと危ないわね。」

「魔剣ルシファーの威力を思い知れ!次は外さない。」


 剣自体に魔法石は見当たらないが、発光しているところを見ると何らかの力が作用しているのだろう。

 私は魔力をぶつけてみた。

 パキンと音がして刀身が折れた。

 

「あ、……俺のルシファーに何を……。」


 勇者は砂の上に座り込んだ。

 その瞬間、バーバラが詠唱を始めたので、バーバラの足元の砂に圧力をかけて穴をあけた。

 穴に吸い込まれたバーバラを確認して、力を解除すると砂はバーバラを飲み込んだ。


「やっぱり詠唱って無駄よね。」


 神官はバーバラを助け出そうと砂を掘り返している。


「あんたたちも手伝いなさい!」


 二人の兵士を促している。


「じゃ、私たちはこれで失礼しますわ。」

「ま、まて、こんな所に置いていくつもりか。」

「えっ、この大陸で王になるとか言ってましたよね。」

「こんな未開の地で、本国の応援もなしにできるか!」

「それは、そちらの都合。私には関係ありませんわ。」

「ふざけるな!せめて本国へ帰らせろ!」

「そんなことよりも、早くバーバラさんを助けないと、死にますわよ。」


 こうして私たちはその場をあとにします。

 南の大陸を飛んで調べましたが、カラータの痕跡はありません。

 これから制圧を始めるところだったのでしょう。


「飛行艇を回収できましたが、あの国を何とかしないと周りの国に迷惑ですわね。」

「ですが、これだけ戦力を削げばおとなしくするのではないでしょうか。」

「多分無理でしょうね。召喚魔法を改善して、例えば100体の魔獣を同時に召喚されたら危険ですわ。」

「では、どうすれば……。」



【あとがき】

 帰れない勇者……、気の毒で涙がでてきます。

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