第21話 ヘラ

 国に帰った私は、宰相にすべて報告します。


「まあ、飛行艇が戻ったのはいいとして、完全にケンカを売ってきたわけだな。」

「はい。申し訳ございません。」

「まあ、相手の召喚魔法を知ることができたのは好材料だな。」

「今の勇者は復帰してきても大した脅威にはならないと思いますし、魔獣の召喚もあのレベルならもんだいないでしょう。」

「それで、その2匹がお前の召喚した魔獣か。」

「はい。フェンリルのポチとオルトロスのタマです。」

「おい!タマはネコの名前だろうが!」

「別にタマという名のオルトロスがいてもいいじゃないですか。何でしたら、おじ様の率いる部隊と戦わせてみましょうか。」

「くっ、この見た目なら勝てそうなんだが……。」

「ポチは体高10mで、タマは8mです。」

「体長ではなく、体高かよ……。」

「それで、その2匹はヒーズルの番犬にすると。」

「はい。魔界に返すと寂しそうなので。」

「まあ、それはいいとして、セレスティアには1分隊駐留させた方がいいですね。」

「ああ。陛下に進言しておこう。」

「今回回収してきた飛行艇は、駐留分隊専門に提供しまぢょうか?」

「そうしてもらえると助かる。」

「じゃあ、追加装備を含めてメンテナンスしますから、明日お持ちしますわ。」


「それで、あの国の状況なのですが……。」

「これ以上はダメだ。分かるだろう、内政干渉になってしまう。」

「……はい。」


 私は町に帰って飛行艇を点検する。

 そして軍装備の攻撃機能と、非常用装置を追加した。


「他にできることはないかしら。」

「お嬢さま、これで十分でございますわ。」

「最高速度をあげておこうかしら。」

「まあ、それくらいでしたら。」


 最高速度を時速450kmに変更した。

 そして城へ行って飛行艇を引き渡した後で、私は図書室にこもった。

 魔獣や幻獣に関する本が読みたかったのだ。

 司書に相談すると彼女は3冊の本を持ってきてくれた。


「ありがとうございます。」

「どういたしまして。でも女の子がこういう本を読むのは珍しいですわ。」

「えっ?」

「魔獣とかにあこがれるのは男の子が多いですから。」

「あ、憧れる……そうですわね、オホホホ。」


 まさか召喚術で呼び出すための勉強とは言えない。

 本を開くと、最初に挿絵入りでポチが紹介されていた。

 神々に災いをもたらす狼と書かれており、神話として説明されている。

 他にも一角獣ユニコーンや不死鳥フェニックス、グリフォン・ヒドラ・コカトリスなど様々な伝説・神話上の怪物が掲載されていた。

 私はそれらの特徴を一覧形式にして書き出し、番号を追記できるようにした。

 フェンリルの欄には83の数字が書いてあり、これが召喚術で呼び出す時の変数なのである。

 当然、オルトロスの欄にも52の数字が入っている。


 翌日、私はミーシャと共にドラゴンアイランドの砂浜にいた。

 

「じゃあ、1番から行くね。」

「はい。」


 次の瞬間、目の前に召喚陣が現れ、黒いマントを羽織ったスーツ姿の男性が現れた。


「お嬢さま、これは何でしょう?」

「バンパイアみたいね。」

「バ、バンパイアが1番と、……書きました。」

「じゃあ、2番いくよ。」

「はい。」


 ちなみに、100番以降は魔法がキャンセルされてしまった。

 召喚術で呼び出せるのは99番までだった。


 そして、何匹かは隷属の契約も行った。

 フェニックス・セイリュウ・ビャッコ・スフィンクス・カーリー・ラファエル・キリンがそうだ。


「ふう、さすがに99回連続で召喚術を使うと魔力がスカスカよ。」

「お嬢さま、0番はないのでしょうか?」

「0番か、やってみるわね。」


 0番で召喚術を起動したのだが、シルエットが見えた瞬間、私は術式をキャンセルした。


「お、お嬢さま……今のは……。」

「危ないところだったわ。あの勇者よ、間違いないわ……。」


 あの男が生きている限り、0番はあいつが占拠しているのだと考えると、いたたまれない気持ちになる。

 だが前向きにとらえれば、カラータは新しい勇者を召喚できないということでもあるのだ。

 しかし、もし本当に困っている国があって、初めて成功した勇者召喚であいつが出てきたら……いや、考えるのはやめよう。

 とにかく、私の作った一覧には”0番召喚は絶対禁止”とだけ書いておこう。



 ポチとタマはいつも元気だ。

 小さい体のため消費エネルギーも少なくて、普通の食事で満足している。

 二匹はドラゴンの肉を好んでおり、厚切りステーキ3枚が一食の量だ。

 どうしても足りない時は、ドラゴンアイランドにいくよう指示してある。

 二匹とも、海くらいは走っていける。


 ある日、二匹の寝床に異様なものが現れた。

 直径1mほどの卵だ。

 しかも完全な玉で、光っている。

 それを交互に抱卵しているのだ。少し体を大きくして。


 一か月後、卵に亀裂が入り、生まれたのは女神のような女性だった。

 ウエーブのかかった金髪は腰まで伸び、一枚の白布を腰ひもだけで体にまとっている。

 ポチもタマも完全にひれ伏して待機していた。

 私も思わず跪いて口にした。


「もしや、女神さまでいらっしゃいますか?」

「……私の名は、ヘラ。この世界に慈愛と幸福をもたらすのが私の使命です。」


 その言葉が真実であるのは全身が理解していた。


「あなた、私の使徒になりませんか?あなたにはその資質があります。」

「はい。謹んでお受けいたします。」

「では、あなたとメイド、そこの2匹に私の眷属としての印を授けます。」


 左手が光輝き、ζ(ゼータ)の文様が浮かび上がった。


「これは?」

「対した意味はありません。私とあなたたちとの信頼の証です。」

「ありがとうございます。それで、私は何をしたら良いのでしょう?」

「あなたの心に従いなさい。目を背けたり、権威に屈せず行動すれば良いだけです。」


 ヘラ様にはお食事を召し上がっていただき、私は北を目指した。

 目的地に到着した私の前には、巨大な大理石の岩が聳えていて、砂を風で回転させ旋盤を作って岩を削っていく。

 設計図などはない。感覚のまま削っていくと、巨大な神殿が現れた。

 神殿を倉庫に納めて、領主邸の隣に設営した。


 ヘラ様は人間と同じ生活パターンで過ごしている。

 特に広報活動もしていないのだが、いつの間にか参拝者が列を作っている。

 そして、シスターが集まってきた。

 専属ではなく、通いのシスター達で服装も私服だった。


「私に専属の神職は必要ありません。私も皆さんと共に生活し、世界の平和のために祈ります。」

「ヘラ様が、教会の信仰するゾアロ神の考え方と違うのはなぜなんですか?」

「神の中にも、戦の好きな神や、崇め奉られることが好きな神が存在します。」

「そうなんですか!」

「そして、いつの間にか神の手を離れ、自分たちの利権のための団体になり下がってしまう。」

「そんな馬鹿な!」

「だって、あんな飾り付けられた神殿や、けばけばしい衣装が必要なわけないでしょ。」

「……それは……。」

「どう考えても、神の意志ではなく、偉く見せようとする人間の発想ですよね。」

「そんな教会に価値なんてありませんよね。」


「宰相様、私はカラータの子供たちを救いたいと思います。」

「……。」

「リサ、それがどういう意味なのか分からぬお前ではないだろう。」

「おじ様、政治を言い訳にして、目を背けることは……私にはできません。」



【あとがき】

 さて、どう対処するのでしょうか……。

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