第二章
第11話 魔女
生後1週間。
俺はフリード・キングからリコ・フォン・ジェラルドまでの記録をリロードすることができた。
また、当分の間は魔力トレーニングの日々が続く。
乳を飲み、魔力を全消費して意識を失う。この繰り返しだ。
「リサ、早く大きくなってね。」
リサというのが今世の名前なのだろう。
リサ?
もしかして、今回は女!
これは困った……。
股間を確認できるだけの長い手はまだない。
女なんて初めての経験だ。
一人称から変えなくてはいけない。
あとは……トイレか……。
今回の親は裕福なようだった。
何人もの乳母やメイドの声がする。
「サラ様、陛下がお見えです。」
サラ……陛下?
どうやら俺……私は、リコの子供として生まれたらしい。
リコの記録が、竜人の口で終わっているということは、彼はそこで絶命したのでしょう。
まあ、自業自得ですわね。
ともかく、動けるようになるまでの2年くらいは、魔力トレーニングくらいしかできません。
それから、ニギニギ・バタバタ、魔法ドッカンで沈黙。
「もしかしたら、この子……魔力トレーニングを始めているかもしれませんね。」
「まさか……、まだ生後2週間ですよ!」
「リコは生後一週間で魔力トレーニングを始めたと言っていました。」
ああ、理解者がいるのだから遠慮することもありませんね。
「サラ様、リサ様のおしめが、全然汚れないのですが……。」
「リコは、クリーンでバレないように処理していたと言っていましたわ。心配ありませんよ。」
「おお!やはり孫娘は可愛いものだな。」
これは陛下ですわね。
「女王の気品がありますわ。」
バカ王妃様ね。
「天才魔法少女を見に来たぞ。」
ブラック企業の元締め、ラングーンさん……。
生後10か月。
しゃべれるようになった私は、サラの工房に連れて行ってもらい、ミスリル銀と魔法石を手に入れた。
これを元に、龍の次元にある倉庫へのリンクに成功して搬入口を作った。
これで、倉庫も使えるようになった。
サラと話してわかったのだが、魔導照明の魔法式を魔法局に売却したことで、被災したザガリーの照明は魔法局の職人が作っているらしい。
子育てしながらでは、サラ一人で作ることはできなかったからだ。
定時便や飛行艇の魔法式はまだお母さんには教えていなかったので、そこはフォローできていませんでした。
そのため、胴体などは職人に作らせ、ミスリル銀の配線と魔法石の設置を私が受け持ちます。
「ああ、本当にリコが帰ってきたみたい。」
「あはは、お母さん、再婚してもいいんだからね。」
「何を言っているの。私はサラ・フォン・ジェラルド侯爵よ。婿養子なんて必要ないわ。リサと二人で、世の中を変えて見せるわよ。」
母は青い髪と青い瞳だったが、私の髪はどちらかといえば緑に近かった。
瞳の色は母と同じ青で、当然幼児体形の私はポッチャリしています。
経済的には、商業ギルドの口座と倉庫に20万枚程度の金貨が保有されており、まったく問題ありません。
今回の飛行艇と定時便でも10万枚以上の売り上げになりますしね。
お母さんから聞いた話では、ザガリーの町を破壊しつくした竜人は、隣の町へと移動する途中で急に出現したもう一匹の竜人に抱かれ、二匹とも消えたそうです。
また、後から現れた一匹が体高3mだったことから、親だったのではないかと噂されています。
「ねえリサ、私今度領地を持つことになったの。」
「領地?」
「隣国、ギルマールとの国境付近一帯で、小さな村が二つあるのよ。」
「お母さま、嫌な予感しかしませんけど……。」
「ダンジョンもあるし、南側は海にも接しているのよ。楽しみだと思わない?」
「どうせ言い出したのは、宰相の補佐官なんでしょ。」
「あら、よく分かったわね。」
「はぁ……。」
さすがにまだ一人で出歩くことのできない私は、メイドの中から一人を専属でつけてもらいました。
「お嬢様、なぜ私を……。」
「あら。あなたが一番私の魔力と相性が良かったからよ。ミーシャ。」
「それが……この不幸の原因……。」
そういってミーシャは意識を失いました。
当然、魔力トレーニングです。
「最低限の魔力量は必要なの。ごめんね。」
ミーシャには、通常のメイドのお給料と比べて10倍近い金貨を渡している。
そして当然、魔法も教え込んでいきます。
2週間後、やっと合格レベルに達したミーシャに連れられて、私は王都の商業ギルドを訪れました。
「まさか、リコ様のお嬢様とは思いませんでした。」
「父の記録から、あなたのことは存じております。」
「それで、ご用件は?」
「率直に申し上げます。母が領地を持つことになりました。あなたには、そこの領事として働いていただきたいのです。」
ライムさんの承諾を得た私は、ミーシャの操縦するスカイボール2号で城に向かいます。
「おいおい、1才になったばっかだよな……。」
「はい。誕生日には贈り物をいただき、ありがとうございました。」
「まさか、リコと同類だとは思っていなかったからな……。」
「できましたら、次回は肌着とか涎掛けではなく、レディーとして扱っていただきたいものですわ。」
「……ああ、考えておく。それで要件は?」
「一つ目はこれです。」
私は倉庫に入れておいた剣を取り出した。
「魔剣……か?」
「はい。竜人との対峙で破損したと聞きましたので。」
「まさか、……お前が作ったのか?」
「はい。父の作った物よりも身体強化の倍率と強度をあげてあります。」
「なあ、普通の子供として生きたいとは思わないのか?」
「何のために?」
「すまん。忘れてくれ。」
「で、二つ目はなんだ?」
「とても1才のレディーに対する聞き方ではありませんよね。」
「1才のレディーが存在するとは思わなかったからな。」
「母の領地運営の事ですわ。」
「……で?」
「母に東の国境を領地として運営しろとか……、宰相補佐官のご提案だと聞き及んでいますけど。」
「待て!領地運営を臨んだのはサラだぞ!」
「存じておりますわ。まあ、陛下の娘が運営する領地ならば、ギルマールも安易に手出しできないだろう。どこかの補佐官がそんな事を考えたのでしょうけど……。」
「いや、……そこまでの思惑は……。」
「そういう化かしあいは好みませんの。まあ、領地運営はお受けしますけど、代わりにグレンさんとライさんとスタルさんをいただきます。」
「待て!3人とも特殊部隊の要だぞ!」
「待ちませんわ。なんでしたら、陛下に直訴しましょうか。可愛い孫娘と、腹黒の宰相補佐官。どちらの頼みを聞いてくださるか楽しみですわ。」
「す……せめて、一人は残してくれないか……。」
「仕方ありませんわ。では、スタルさんは残留ということで。」
「くそっ、お前みたいなのがいると知ってたら、西の国境を領地にすればよかった。お前……魔女だろ……。」
「嫌ですわ。私は魔導士ですのよ。」
「リサ様……。」
「なぁに、ミーシャ。」
「ラングーン様と、よくあのようにお話しできますね。」
「ああいう人は、こちらが言うことを聞いていると、要求が際限なくエスカレートするの。」
「はあ。」
「だから、こうやって釘を刺しておくのよ。」
【あとがき】
魔女編のスタートです。ストックがあったので、このまま行きます。
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