第12話 貴族の排除
「お母さま、領地に貴族の移住など受けないでください。」
「何故?領地の運営には人手が必要でしょ。」
「自分の利権しか考えない貴族なんて、邪魔なだけです。」
「そんな事はないわ。みんな新しい領地について親身になって考えてくれているわ。」
「領地を運営するスタッフについては考えていますから、お母さまのところに来る貴族は全員断ってください。」
「そうは言っても、色々としがらみもあるのよ。」
「どんな人から申し出があったんですか?」
「えっとね、あっ。これこれ、この一覧にある人よ。」
私はお母さまの出した一覧を受け取った。
「6人もいるんですか……って、これ全部役所のブラックリストに載っている人ばかり……。」
「えっ、そうなの?」
「私が知らないのは総務局のアンって人だけですね。他は全部断ります。」
「そんな。産業局のタイラー君なんて、お父様の法務局長から直々に頼まれているのよ。」
「それ、人を見下した態度をとる最低の人間ですよ。上役のご機嫌取りは上手らしいですけど。」
「そんなこと言っても、領主は私なのよ!」
「じゃあ、私は一切フォローしませんから、一人でやってください。」
「何言ってるのよ。リサは私の娘でしょ!」
「いいですかお母さま。真剣に考えているから申し上げているんです。新しい領地に、名前だけの貴族なんて必要ありませんから!」
私はミーシャと一緒に5人の貴族に断りを告げに出向いた。
ミーシャには、用件だけを告げて、余計な話は聞かないように指示してある。
「申し訳ございません。サラ様の新しい領地にお迎えすることはできません。」
「何故だ!父からも頼んであるはずだ!」
「私に応答する権利は与えられておりません。内容をお伝えするよう指示されただけでございます。」
「ふざけるな!俺を誰だと思っている!」
「産業局のタイラー・ファ・ゴース様と認識しておりますが。」
「そうだ。法務局長であるライドファ・ゴースの次男であるタイラー・ファ・ゴースだ。」
「それが何か?」
「お前程度のメイドは、俺の一言で首にできるんだぞ!」
「私は、リサ・フォン・ジェラルド様の専属メイドでございます。私をクビにできるのはリサ様おひとりでございます。」
「リサだと?」
「こちらにおられるサラ様のご息女でございます。」
「馬鹿をいうな!こんなガキに何の権限があるというんだよ!」
「新領地に関する全権でございます。こちらが、サラ様からの委任状でございます。」
「ふざけるな!俺は認めないぞ!」
「すみません。アンさんはおられますか?」
「お待ちください。アン主査、お客様です。」
私たちは応接に通され、話を聞いた。
「私、サラ様がまだ小さい頃から総務局におりまして、身の回りのお世話をさせていただいたこともございます。」
「今回のお申し出についてですが。」
「私、男爵家の次女なんですが、仕事に夢中になりすぎていつの間にかこんな年齢になってしまいました。」
「こんなにお奇麗なのに?」
アンという女性は、黒髪セミロングに黒い瞳。
派手さはないけれど、落ち着いた雰囲気の女性でした。
「何度か、縁談の話もいただいたんですが、人間的に合わない方ばかりでお断りさせていただきました。」
「それで?」
「今更結婚もできませんから、それならサラ王女様の傍で過ごしたいと思ったんです。」
「お母さまの小さい頃って、どんな感じだったんですか?」
「えっ、お母さま……?」
「あっ、ご紹介していませんでした。こちらサラ様のご息女で、リサ・フォン・ジェラルド様でございます。」
「ご、息女……えーっ!」
驚かれてしまった。
お母さまの幼少期を知る貴重な存在を逃す選択肢などありえない。
採用を告げると、また盛大に驚かれてしまった。
貴族の採用を断っているという噂が広まっているらしい。
そして、アンが移住するならと、男性1名と女性2名が名乗りをあげてきました。
うん。貴族であっても、有能なら歓迎しますわ。
私とミーシャは、領地となる地域の下見を行い、屋敷と領事館を建てる位置を決定しました。
川からも近いので、堀も作れそうです。
私は予定地を小高い丘の上に決定し、重力魔法で整地していきます。
丘のふもとは土魔法で3mほど掘り下げ、そこで出た土を固めて塀に仕上げ場所を固定しておきます。
次に、私はミーシャと共に、国中のレンガ職人を訪ね、焼きレンガを買い占めました。
作った分はいくらでも買い足すとも付け加えておきます。
それと、レンガ造り建築の得意な職人さんを雇い入れ、現地での作業に入ってもらうと、いよいよそれっぽくなってきました。
レンガ造りの自宅と領事館のほかに、全国で売りに出ている空き家を購入し、倉庫を使って移築します。
当然、クリーンできれいにしたうえで強化を施し、新築に近い状態に仕上げました。
木造・レンガ造り・石造り。丘の上の領主邸の周りを区画整理して住宅を並べていきます。
そして、準備のできた順に転居してもらいました。
「次は、村までの道路を整地しましょう。」
「あっ、それよりも、村人と隣国への挨拶はどういたしましょう。」
「少なくとも、隣国の近い町の領主には挨拶が必要ですね。挨拶の文書は、アンさんに作ってもらいましょうか。」
総務局員なら、こういう仕事には慣れているはずである。
まあ、実際には、挨拶状を携えてお母様に出向いてもらうのだが、当然私も同行する。
「それでは、第一回運営会議を開催いたします。」
ライムさんの発生で会議を開催する。
出席者は、領主であるサラ・フォン・ジェラルド侯爵と娘である私は領主補佐官という役職にしました。
領事にライムさんで、副領事にアン・ファ・ドレイクさん。サイカ村の村長であるラーク・ソレイユさん。
トウカ村の村長ユズ・カシアラさん。小さな漁村のイサキ・シルベル村長さん。
警備隊長のグレン・フォン・カストレイクさんと副隊長のライ・フォン・イズベルさん。合計9名が暫定メンバーです。
「最初に、町の名前について、陛下より領地拝領の際”ヒーズル”と命名されております。」
「意味はあるのですか?」
「陽いずる町として命名されたと聞き及んでいます。」
「次に今後の領地経営についてですが、これはアン副領事より説明をお願いします。」
「はい。まず税についてですが、これは領主様から3年間免除とご配慮いただきました。」
「その間に、産業を確立しろという訳ですね。」
「はい。そういう殊になりますが、今のところ有力なのが、漁村の近代化による収穫量の向上をはかり、王都への直行便設置と、魚貝類専門店を開設することで、定期的な収益を確保したいと思います。」
「近代化というのは、具体的にどのような事を考えているのですか?」
「副領主様の構想では、魔道具による推進装置を使って船の高速化と大型化を行います。そして、大型の網を導入することで漁獲量を増やします。」
三つの村は、これまで自給自足で生活してきており、産業がなければ税金を納めることができないのです。
そのため、漁業は拡大してやれば良いのですが、農業は簡単にいきません。そのため、当面はあまり手のかからない果樹林を増やしていこうという話になりました。
人を増やすのが先か、仕事を増やすのが先か、難しいところです。
【あとがき】
ヒーズルの町始動。
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