第10話 婚姻の儀

「ねえリコ……。」

「なに?」

「最近、大きくなったよね。」

「分かるかい。」

「だって、3日で服が着られなくなってるよ。」

「ああ、成長速度を100倍にしている。」

「えっ、そんなことしたら、すぐにお爺ちゃんになっちゃうじゃない……。」

「大丈夫だ。サラと同じくらいになったら止めるから。」

「そんな事ができるの!」

「ああ。逆転はできないけど、加速と減速は可能なんだ。」

「減速?」

「ああ、簡単にいえば、成長を遅らせる。まあ、不老って事だな。」

「そ、そんな魔法が公開されたら、世の中の女性が全員教わりに来るわよ!」

「まあ、非公開だね。それと、妊娠中は胎児に影響が出るから使えないよ。」

「それって、出産したらそのあとは若いままでいられるってことね!」


 そして約40日後、俺はサラと並べる程度の肉体を獲得した。

 成長痛という、骨が肉を突き抜ける痛みや、成長に合わせた筋肉づくり。

 辛いことは多かったが、これで名実ともに成人となったわけだ。


 伯爵位を返上した俺は、ジェラルド公爵家の養子となり、これまでの魔道具開発の功績を元に侯爵として叙爵された。

 そして正式にサラと婚姻を結び、新たな貴族籍を作った。

 つまり、16才のリコ・フォン・ジェラルド侯爵とサラ夫人が誕生したわけである。


「本来なら、どこかの局の課長クラスから始めるんだが、固有の仕事を与えてしまうといざという時に動けないからな、お前は俺の副官にした。まあ、局長よりちょぃ下って職位だな。」

「それって、好きなだけこき使うって……。」

「最初の仕事だが、軍専用の飛行艇を作るための、素材確保だ。2台分だな。」

「2台?」

「ああ。50人の精鋭部隊を新設した。この50人で飛行艇も運営し、災害対応や魔物の大量発生に対応する。そうだ、全員分のシールドアクセも頼んだぞ。」

「それって、金貨5万枚分の仕事を、俺の給料で済まそうって考えてますよね。」

「まさか、義兄の頼みを断らないよな。」

「うっ……。」

「それに、王族を嫁に迎えるっていうのは、そういうもんなんだ。」


 翌日から、俺は各地のダンジョンに潜った。

 ミスリル銀は比較的簡単に手に入るが、高品質の魔法石はそれなりの魔物でないと手に入らない。

 アースドラゴン級の魔法石を50個は確保したい。

 当然だが、副産物として大量の魔物の死体が手に入る。

 これを、食肉ギルド・商業ギルド・冒険者ギルドとあわせて軍にも提供する。

 軍には食料を現地調達する時に、肉の処理をする担当が存在する。

 例えばオークを100体提供しても、軍ならあっという間に消費してしまうのだ。


 素材さえ揃ってしまえば、飛行艇を作るのは容易いことだ。

 鉄で外装を作ってミスリルで配線し魔法石をセットする。

 ガラスと鉄の網を窓にセットして、内装の仕上げは職人に任せる。

 軍の備品になるのだから俺がやる必要はない。



 俺はサラを抱くときに、射精と同時に龍の魔力を送るようにしていた。

 サラの中に、龍の魔力が定着すれば、もしかしたら倉庫を使えるようになるかもしれない。

 これまでにも外部から流し込むことを何度も繰り返してきたが、サラの体に触れた瞬間に霧散してしまうのだ。

 だが、子供に受け継がれるのだから、もしかしてと試しているのだが、今のところは体内に残っているようなのだ。


「ねえ、自分のものとは違う魔力を感じるの。これって、龍の魔力なのかな?」


 やがて、サラの妊娠がわかった。

 何があるかわからないので、妊娠中は龍の魔力に触れないことにしたのだが、サラの中にある龍の魔力が母体のものなのか胎児のものなのかは分からない。 


 そんな時だった。

 南の町ザガリーに魔物が現れたと通報があり、ラングーンさんの指揮で飛行艇2機に分乗した特殊部隊が出動した。

 情報によれば、体高約2mで2足歩行。全身が濃い緑のウロコに覆われており、ドラゴンに似た顔と尻尾を持っているが、額からは2本の角が生えているものの、どちらかといえば人間に近い体系だという。

 対応にあたった冒険者の報告では、魔法はまったく効かず物理攻撃は有効と思われるが、斬撃も硬いウロコに阻まれてほとんど傷をつける事ができないとのことであった。

 現地からは、仮に竜人と命名され、王都への出動要請があったのだ。

 竜人は、人間に興味を示す事もなく、ひたすら町を破壊しているとの事だが、当然破壊に巻き込まれた死傷者は多数発生している。


 この事態を踏まえ、国はザガリーの一時放棄を決定した。

 けが人は飛行艇で王都へ搬送し、それ以外は馬車で近隣の町へ移動する。


「いったい、どうなっているのでしょうか?」

「大丈夫だよ。俺はアレと戦いにいくんじゃない。飛行艇で住民を避難させるために動員がかかったんだ。」

「アレは、いったい何なのでしょうか?」

「多分、龍の次元の住人じゃないかと思うんだ。」

「それが何故……。」

「理由は分からない。だけど、人に対して悪意があるわけじゃなさそうだし……、目的がわかれば……。」

「目的?」

「報告によれば、何かを探しているような素振りを見せるらしいんだ?」

「探す?……何を?」

「竜人の発するブレスみたいなので、魔法石が破壊されているらしい。」

「魔法石が?」

「魔道具の設置されていない建物は壊されていないようなんだ。ラングーンさんは、魔力に反応しているんじゃないかって言ってるらしい。」

「それって……。」

「特に高品質の魔法石を大量に使っている飛行船には敏感に反応するみたいで、飛行艇の一台はブレスで飛べなくなったらしい。」

「乗っていた人は?」

「着陸寸前のタイミングだったんで、ほとんどはケガで済んだみたいだ。」

「もう一台は?」

「竜人を刺激しないように、離れた場所に降ろして避難活動を続けているみたいだ。定時便も2台やられているしね。」

「それじゃあ、余計に危ないじゃないの!」

「だけど、けが人を見捨てるわけにはいかないだろ。」


 魔力を追いかけるということは、魔力を持った何かを探してるのか?

 例えば、魔力を持った仲間とか……。

 俺がイメージしていた龍は、もっと高度な……知性の高い存在だと思っていたのだが、この竜人はそうではないらしい。

 闇雲に魔力を追いかけるだけの……そう、子供みたいに感じられる。


 俺はスカイボール1号を取り出し、単独でザガリーに向かった。

 時速600kmで向かって、現地で飛行艇と入れ替えればいいのだ。

 減速しながら町の上空に到達する。

 体高2mというのは、建物の陰に入ってしまえばその姿を完全に隠してしまう。

 油断があった……。

 安易に町の中央に入った俺は、高度10mで竜人と正面から対峙してしまった。

 俺は真っ赤に開いた竜人をはっきりと見てしまったのだ。



【あとがき】

 第一部終了です。少しお時間をいただきます。

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