第2話 別に自重する必要なんてない

「いいですか!あなたはまだ、3才にもなっていないのですよ!」

「あと3ヶ月だっけ?」

「そういう事を言っているのではありません。そ、空を飛ぶなんて……、非常識です。」

「えっ、魔法が使えれば、誰だって飛べるでしょ。」

「そのような魔法は存在しません!」


 同席した使用人たちが、うんうんと頷いている。

 そうか、重力魔法は伝わっていないのか。


「それに、何ですかこれは!」

「魔法石……?」

「そういうことではありません!この魔法石をどうやって手に入れたのですか!」

「えっと、魔物を討伐した。」

「……、いいですか、スライムやゴブリン程度では、魔石なんて入手できませんよね。」

「そうだね。スコーピオンレッドやキラーホーンとかでないと。」

「そう。Cランクと区分された魔物以上でないと、魔法石はでないはず。なぜ、これほどの量を……。」

「倒したからだけど。」


 使用人たちの顔が驚きに変わる。


「もう一度いいます。あなたはまだ、3才にもなっていないのですよ!」

「はい。」

「年相応とは言いませんけど、家族に心配をかけるようなことはしないでください。」


 そうか、心配させてしまったのか。


「分かりました。無理はしません。」

「そう。分かってくれて嬉しいわ。」

「だから、明日は十分休養します。」

「明日は?」

「次は、明後日にします。」

「リコ、あなたは何を分かってくれたのかしら?」


 母を説得するのは大変だったが、とりあえず一日おきの外出は同意してくれた。

 ミスリル銀の埋まっていた場所までは、3回ほどいかなければならなかったが、俺は大量の魔法石と1メートル四方のミスリル銀を手に入れた。


「さて、最初は魔導照明だな。キッチンとリビング・食堂・各部屋と廊下・階段・玄関先と庭。全部で20灯あれば足りそうだな。」

「何が20灯なんですか?」

「暗くなると自動的に点灯する明かり……ランプだよ。」

「ランプならあるじゃないですか?」

「それって、毎回獣脂を追加したり、点火する手間がかかるだろ。」

「はい。」

「だから、補充や操作の要らない魔道具を作ってるんだ。」

「えっ、魔道具を……作れるんですか!」

「うん、簡単だよ。ミスリルで台座を作って、そこに魔法式を書き込み、魔法石をはめ込むだけだからね。あとは板を加工して固定すれば完成……っと。」


 俺は重力魔法で浮かび上がり、照明を天井に固定した。


「ちょっとカーテンを閉めてみてよ。」

「はい。」


 エリーが窓のカーテンを閉めると、暗闇に反応して照明が点灯した。


「ま、まさか……」

「うん、魔法石自体が大きいから、十分な明るさがあるね。」


 奥様ー!とエリーは母を呼びに駆けていった。

 集まってきた母と使用人が驚いている。


「ここまで明るい魔道具なんて見たことないですぜ……。」

「私も初めてです。」

「まさか、これをお作りになったんですか……。」

「うん。これで獣脂の購入は不要だし、毎日火をつける手間もかからないから楽になるよね。」

「リコ……、もしかして一晩中明るいのかしら?」


 明るすぎて眠れないというので、各部屋の照明は壁付けにして手で触れてON・OFFできるようにした。

 特に、キッチンが明るくなったのは喜んでもらえた。


「じゃあ、次は魔導コンロだ。」

「魔導コンロ?」

「うん、火魔法の応用だね。火を出さないで加熱するだけなんだけど、マキが必要ないし、火力の調整が簡単だから便利だと思うよ。」


 俺は男性使用人のアレクに頼んで、キッチンの竈の横に土を積んでもらった。

 これを土魔法で整形して丈夫な台にする。


「今のはなんでしょう?」

「ミスリルの加工でも使ったんだけど、土魔法だよ。どりらかというと錬金術に近いんだけど、まあ、物の配列を変えて任意の形にする魔法だね。」

「土魔法なんて初めて見ました。」

「ここにさっき作った魔導コンロを三つ埋め込んで完成だよ。」

「どうやって使うんですか?」

「ちょっと鍋を借りるね。ここに水を張って魔導コンロの上に置く。それで、このボタンに触ると加熱が始まって、こっちを一回押すと火力が強くなるんだ。5段階まであげられるし、こっちのボタンを押せば火力が弱くなる。」

「本当にマキが要らないんですか?」

「マキ割の手間が省けるだろ。火を起こす必要もないしね。ああ、それとこの魔道具は水の出てくる給水機だよ。これで、井戸からくみ上げる必要はなくなるよね。」


 調理人のアサギはとても喜んでくれた。

 水もコンロも照明も、相当な省力化につながるだろう。


 魔法石とミスリルにも余裕があったので、ハンドランプを作っておいた。

 夜間、出かける時には便利だろう。


 翌日、俺は母を連れて……いや、母に連れられて領主邸を訪問した。

 皆がこのような魔道具は見たことがないというので、それならば少し市場に出すことにしたのだが、そういう目立つことをする時には、先に権力者を通しておいた方がよい。



「おお、これはキング夫人、よくおいでになった。」


 領主のライド・フォン・ライジンが夫婦で出迎えてくれた。

 簡単な挨拶のあとで、母は持参した魔導照明3器とハンドランプ一つを差し出した。


「我が家で開発した魔導照明と携帯用のハンドランプでございます。」

「これは、魔道具なのか?」

「はい。ちょっと眩しいですけど……、このように魔法石に手を触れることで点灯し、もう一度触れば消えます。」

「おおっ、何という明るさなんだ!」

「壁に据え付ければ、部屋の照明としてお使いいただけます。」

「これを貰えるというのかね、三個も……。」

「はい。応接間や執務室にでもお使いください。こちらは携帯用で、夜間の外出に役立つと思います。」

「どうやってこのような魔道具を……。」

「申し訳ございません。そこは明かすことができません。」

「まあ、そうだな……。これだけの魔道具を開発するとなると、余程優秀な魔導具師を見つけたのであろうな。羨ましいものだ。」


 こうして領主へは筋を通した。

 翌日からは夜間に採取に出るようにして、昼間は魔道具造りに明け暮れるのだった。


 最初に魔導照明とハンドランプを持ち込んだのは商業ギルドだ。

 エリーを連れて……連れられた俺は、ギルド長への面会を申し込んだ。

 一応は貴族家からの申し入れだ。無下にはできなかったのだろう。


「面会に応じてくださり、ありがとうございます。」


 俺が切り出すとギルド長は驚いた顔をしたが、声には出さなかった。

 俗にいう”オシメもとれていない”幼児なのだ。


「一応、この部屋はシールドで囲いましたので、他者に声が漏れることはありません。」

「そんな魔法を、いつの間に……。」

「それは又の機会にしましょう。エリー……。」

「はい。」


 エリーは手にしていたバッグから、魔導照明とハンドランプを取り出した。

 ギルド長は動揺せずにそれを凝視している。


「これが、領主邸に導入されたという魔道具ですな。」

「情報は届いていましたか。」

「はい。郊外とはいえ、キング邸が昼間のように輝いているとも聞いております。」

「これを、ギルドを通して販売したいと考えております。」

「触ってみてもよろしいですかな。」

「どうぞ。」


 ギルド長は実際に触って動作を確認した。


「まさか、これほど明るいとは思いませんでした。こちらの光らない方は?」

「暗くなると自動的に光り、周囲が明るくなると消えます。こちらの入口のホールのように、常時人のいる場所ならば、天井に設置しておくと夜に自動で点灯するので便利だと思います。」



【あとがき】

 転生の仕組みを考えていた時に思いついた作品です。

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