第2話 蒼青の雷撃


 私は日課となったジョギングをしながら空を見上げる。

 今日は生憎の空模様でもう少しで雨が降り出しそうな灰色の雲が空を覆っていた。

 早めに切り上げて屋敷に戻ろうかと考えながら、道の途中で折り返そうとする。


「お姉ちゃん、どこに行くの?」


 折り返そうとした背中の方から聞いた事のない声が聞こえた。

 振り向くとそこには長い髪をツインテールに結わえた少女と盗賊の様な姿をした長身の男が立っていた。

「な、何ですか?」


 訝しげな目で見つめる。こんな早朝に、こんなところで、知らない二人に話しかけられる道理がない。

 とてつもなく嫌な予感がした。


「ねぇ、それ、ちょうだい?」


 ツインテールの少女の髪がぶわっと逆立つと地面を蒼白い光が走り、私の方へと近づいてくる。

「ミツキ!避けなさい!」

 レヴィの声も虚しく、私の足元まで蒼白い光が到達する。


「……きゃああああぁぁぁぁっ!!」


 蒼白い光は稲妻で全身を突き抜けるような雷撃が身体を襲う。

 身体が人知れず痙攣を繰り返し、今まで浴びたことの無い衝撃に恐怖が止まらない。

 痛みと熱さが交互に襲い目の奥が爆散しそうな程チカチカする。


 雷撃が止むが身体が痺れて言うことを効かない。

「……あ……あ…………」

 その場に立っていることも出来ず、膝を付き地面に倒れ込む。

 攻撃、されたのか?どうして?欲しがっているものは何なのか?頭の処理が追いついていない。


「早くちょうだいよぉ、ま・け・ん!」


 この二人は魔剣を、レヴィを奪いに来たのか?

 身体が動かないこの状況は非常にまずい。

 盗賊姿の青年がこちらに手を向けてくる。

 逃げなければ、殺される……


「めんどくせぇなぁ。引き寄せアトラクト。」

「えっ…………?」


 その言葉と同時に私の右手首のアクセサリーが外れ、青年の手の中に吸い寄せられていく。

「戴くぜ。申し訳ねぇけどな。」

「レヴィ……返し……て……」

「五月蝿いなぁ……黙ってて、よっ!」


「きゃああああぁぁぁぁっ!!」

 蒼白い光が再び身体を蹂躙する。電撃が脳を焼くように唸る。

 それでも痙攣する手を伸ばした。

 レヴィを取り戻さないと……


「やめなさい!……ついて行けばいいんでしょ?」

 レヴィが少女の姿に変わり言った。

「ルカに指図しないでよっ!殺してもいいって言われてるんだからさっ!」

 ルカと言うツインテールの少女はそれでも放出をやめない。

 場の空気が一瞬にして変わる。


「やめなさい。殺すわよ?」


 ゾクリと悪寒を感じルカは電撃を止める。

 邪悪な波動が周囲を呑み込み、酷い悪寒が止まらない上に力がどんどんと抜けていく。

「めんどくせぇ……ルカ、早くずらかるぞ。この魔剣想像以上にやべぇ。」

「う、うん……」

 レヴィが近くに居るだけで力が物凄い勢いで吸収されていく。このままではすぐにでも倒れてしまいそうだ。


「レヴィ……待っ……」

 身体が痺れて力が入らない。立ち上がる事もままならず、這いながら近づいていく。

「ノイズ、早く帰ろっ。」

「そうだな、じゃあな嬢ちゃん。恨むなら上を恨んでくれ。」


 ノイズと呼ばれた青年が手に持った短剣で空間を切り裂くと、亀裂が入りどこかへと繋がっている入口が生まれた。

「じゃーねぇー、お姉ちゃん!また遊ぼうねっ!」

 手を振りながらルカが先に入っていき、ノイズがレヴィに入るように促す。

 入口の前でレヴィが振り向く。


「……レヴィ……」


 手を伸ばしても届かない。

 行かないで、私を置いて行かないで。

 レヴィがいないと、私……何も出来ない……

 手を地面につけて力を込めるがガクンと倒れてしまう。

 そして、レヴィはノイズに連れられ空間の裂け目に入っていく。


「う……うぅ……うわぁ……」


 自然に嗚咽が溢れて目からは涙が流れ出る。

 レヴィが連れ去られてしまった。私が腑甲斐無いせいで。

 急に攻撃されたとはいえ、全て私が弱いから大切なものを護れなかった。


 ポツポツと雨が降り始める。しかし、すぐに強く激しい雨に変わった。

 流れる涙が雨に混ざっていく。

 倒れた私に打ちつける雨が身体を冷やしていく。


 意識が薄れて消える……

 思い出すのは連れ去られるレヴィの哀しそうな顔だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る