第7話 聖剣の能力


 盛大にため息をついたレヴィだったが、私の想いを汲んでくれたのか手の平をユウリに向けると転移させてくれた。

 きっと、病室に送ってくれているとは思う。きっと。


「レヴィ、ありがとう。ホントに助かった!」

「ふんっ、アンタには逆らえないのわかってて言ってるでしょ?」

「そんなことないよぉ……ありがとう~」

 抱きつき頬ずりを繰り返すと鬱陶しい!と引き剥がされた。


「それにしても、エレーラが来てくれるなんて思わなかったよ。」

「野次馬しに来ただけよぉ。ま、無事でよかったわぁ。」

「無事かどうかはわかんないけどね……穴空いちゃってるし。」

「大丈夫よぉ。生命力だけは高いんだからぁ。」

 すっごく嫌味な言い方だが、これで認めているんだからタチが悪い。


「さて、屋敷に戻りましょう。ミツキ様もお怪我をなされてるのですから、手当を受けてくださいませ。」

 ミアにそう言われて自分の身体を見てみると、所々擦り傷や痣になっている。

 そうか、ユウリに吹っ飛ばされた時になったのか。興奮していて忘れていた。


「そうだね、帰ろうか。」

 レヴィに私の転移を頼むとレヴィが取り残されてしまうので歩いて帰るしかない。骨とかが折れていなくてよかった。

 消えた街の人の事もあるが、今はクレアの方が心配だ。急いで帰らなければ。

 私達は教会を後にし屋敷への帰路へと着いたのだった。



 屋敷に戻って病室へと向かい扉を開いた。

「おぉ、ミツキ。今回は同行感謝するぞ。」

 にこやかな表情で手を挙げながらケロリとしているクレアの姿があった。

「おええぇえぇえ!?なぁんでもう起きてるの!?」

 この負傷者は腹部に穴が空いてて臓器も損傷してるし、意識失ったまま居ても全然不思議ではないのに。


「だからぁ、言ったでしょ。生命力だけは高いって。」

 エレーラが呆れたように言った。確かに高いとは言っていたが常軌を逸している。

「なぁに、聖剣の力で人一倍修復能力が高いのだ。心配をかけてすまなかった。」

 一倍どころか百倍くらいありそうだが……聖剣にはそのような力があるのか。まぁ、無事でいてくれて何よりだ。


 隣のベッドを見ると穴を空けた側はまだ失神しているようだ。

 寝ている姿はどう見ても純粋無垢な子供にしか見えない。

「あら?これは……」

 エレーラがユウリの鎖骨の辺りを見て何か気付いたようだ。そこには何かのマークのような絵が描かれている。


「そのマークがどうかしたの?」

「このマーク、確かロゼアスタ教のマークだわ。」

「ロゼアスタ教だと?」

 当然だが私はこの世界に来たばかりだしそんな宗教に縁は無いのだが、クレアはどうやら知っているようだ。


「クレアは知ってるの?」

「しっかりとは知らんがな。この公国でもごく少数の信者しかいない新興宗教みたいなものだ。ロゼアという架空の堕天神を信仰していてな、活発に活動はしていなかったので潰えたと思っていたが……」

「まぁ、人間縋りたい時はあるものよぉ。今日を生きる事に必死な人間なんかは特に、ね。」


 ムムと唸るような声を出すクレア。なるほど、そうすると教会で見たあの女神像が堕天神ロゼアという訳か。

 確かに天使と悪魔の翼があり、堕天しているような感じだったなと思い出した。


 アクセサリーに変わっていたレヴィが少女の姿で現れる。

「まったく架空の神とはね、道理で魔装具にしては極端だと思ったわ。全部思い込みよこの子達の。」

「お、思い込み……?」

「えぇ、その堕天神ロゼアとやらは現界していて自分達を助けてくれるという強すぎる願望が、魔装具を生み出したということよ。住民の信仰心捻じ曲げたのもそれね。」


 祈りの力だけでそんなことが本当に有り得るのか?

 縋るしかなくて、祈りを捧げ続けたのだろうか。生まれてから二人でずっと、あの教会で。

「信仰心くらいはどうにかなりそうだけれどぉ。魔装具については前例がないけれど実際に起こってる以上、信じるしかないわねぇ。」


 ユウリが失神している状況では何も聞くことが出来ないし、目覚めるまで待つしかない。後頭部を強打しているとはいえ、明日になれば目を覚ますだろう。

 それまではこちらもゆっくり睡眠を取るとしよう。

 軽く伸びをした私はクレアに挨拶をしてから病室を出たのだった。



 翌日になって明るい朝の光が窓から射し込んできたため、少し眩しくて目が覚めた。

 昨夜はレヴィが力を使ったため食事を強く要求してきたのもあって、こちらは生気を吸収され出涸らしとなった状態で眠りに落ちたのだった。

 とは言っても、寝れば回復する程度のものなので大きな問題はない。


 ベッドから降りて服を着替えると、病室の状況が気になって仕方がないので病室に向かうこととした。

 昨日の時点でクレアは問題無さそうだったが、再確認しておかねば。後から何かあったって遅いのだ。

 私は病室の前に到着し扉を開いた。


 そこにはベッドから起き上がりスクワットをしているクレアの姿があった。


「おや、ミツキ。おはよう!昨日はあり……」

 バタンと扉を閉めてゴシゴシと目を擦った。

 見間違えだろうか?そうに違いない。

 風穴空いた奴が筋トレしてるなんてそんな馬鹿な話あるわけが無い。


 再度そーっと扉を開くと、種目が腕立て伏せに変わっていた。

「ミツキ、どうしたのだ?急に扉を閉めて……」

「なーにやってんの!?お腹に穴空いてるんだよ!?」

「案ずるな、傷はもう問題ない。」

 腕立て伏せをやめて服を持ち上げ腹部を晒すと、傷口も何もない綺麗な腹部が覗いていた。


「え……?」


 穴が空いていたのは夢だったのだろうか?

 あんなに大きな穴だったのに傷痕も消えている。

「言っただろう、聖剣の力で修復能力が高いと。」

「いや、高いとは聞いてたけど一晩で穴すら塞がるなんて思わないでしょ。」

 クレアは天井を見上げながらうーんと唸った後に手をポンと打ち合せた。


「確かにそれもそうだな。私にとっては当たり前の事で説明するのを忘れていた。」

「大丈夫だとしても心配するけど、無事でよかったよ。」

「うむ、心配かけてすまんな。感謝するぞ。」

「はいはい、感謝されました。」


 隣のベッドを見るとまだユウリは眠っていた。

 起きてこの状況を見るとどうなるのだろうか?

 いざ目覚めて暴れたり攻撃してきたら困ってしまう。

 今のうちに縛り上げておこうか……


 そんなことを考えているとパチっと蒼い瞳が開き、ガバッと身体を勢いよく起こした。

「……………………何処ここ!?」

「ミツキ屋敷だ。おはよう!」


 風穴を空けた相手が元気に挨拶してくる異様な状況に、戸惑いを隠せずにキョトンとしているユウリなのだった。

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