第4話 突撃の魔槍
クレアの名乗り口上が終わり聖剣を構えると、突撃槍が高速で迫り聖剣と接触する。
クレアはインパクトと同時に聖剣をずらす事で突撃槍をいなす。
ガキィという音と火花がバチバチと散るが、聖剣には傷一つついていない。
「威力はあるようだが、我が聖剣には効かん!」
突撃をいなされたユウリは身を翻しながら槍で横薙ぎする。続けて聖剣で防ぐが質量の乗った衝撃により足が地面に線を描いた。
「小さい身体の割にはやるな……だが!」
受け止めた槍を押し返しながら、左側から逆袈裟に聖剣の刃が走る。
押し返されたユウリは距離を取りながら、すんでのところで背筋を逸らしながら刃を躱して見せた。
「あっぶなーい!もうちょっとで真っ二つだよー。」
戦闘になれているのかニヤリと笑う顔からは余裕が滲み出ている。
ユウリはそのまま後転し手を地面に着きながら距離を離すと、着地してすぐに地面を力強く踏みしめ突撃槍を投擲する。
「ほら、避けないと穴空いちゃうよっ!!」
螺旋回転しながら突撃槍が一直線に飛ぶ。
「直線に来るものなら問題などない。」
聖剣で受けると消耗する可能性もあるためクレアが左に避ける。
そして、そのまま槍がそこを通過していく。
「行くぞ。」
クレアは聖剣を構えユウリに向かって走り出す。
「あーあ、避けられちゃった。」
拗ねたような表情のユウリが一転、ぱぁっと明るい笑顔へと変貌する。
「一回目は、ね。」
「クレア!後ろっ!!」
私は叫んだ。突撃槍は稲妻のように軌道を変えてクレアの背後に迫っていた。
螺旋の回転により空気の抵抗を受けずどんどんと速度が増していっている。
咄嗟に私はクレアと槍の間に転移する。レヴィの切っ先を突き出し、槍先と衝突させる。
「ぐぅっ……」
衝突した切っ先が回転を受けてギギギギと音が響き渡り、摩擦で回転が収まり始める。
「ざぁんねん。」
その時頭上から現れたユウリが槍の柄を持ち身体を回転させながら槍を横薙ぎする。
「ぐあっ……!!」
レヴィで受けるが聖剣のようにはいかずに吹っ飛ぶ。
20メートルほど地面に何度も叩きつけられながら転がってやっと止まった。
痛い……ここまでの衝撃を受けたのは初めてかもしれない。
霞む目で見ると、切り返したクレアがユウリに斬りかかっている。
レヴィを地面に突き刺しながら身体を支え、何とか立ち上がる。しかし、あんなものの直撃を喰らえば骨がバラバラになってしまうだろう。
「ミツキ、大丈夫か!?」
「大丈夫!!」
「人の心配してる場合じゃないよっ!!」
振り下ろした聖剣に槍の切っ先を合わせるユウリ。
双方の武器が弾き合い互いに仰け反るが、ユウリの方が早く体勢を持ち直し追撃を行う。
突撃槍の手を護るための盾の部分を構えて突っ込んでくる。
クレアは聖剣での防御が間に合わず盾の攻撃を受けるが、威力はあまり無かったのか数メートル飛ばされるだけで済んだ。
「あの槍、普通の槍じゃないわね。」
刀身を光らせながらレヴィが言う。
「どういうこと?」
「あれは魔槍よ。ただ、元々神が持っていた物じゃなさそうだけど。」
「えっ!?そんな事あるの!?それじゃあユウリは魔槍使いってこと?」
「どちらかと言うと魔槍使われって感じね。」
つまり魔槍が彼女の力を無理矢理引き出しているということか?
道理で戦闘能力が高すぎるわけだ。
「とにかく、一筋縄ではいかなさそうだね。」
「もう一人の方もいるし、気をつけなさい。」
ユーリにも何か能力があるのだろうか。穏便に話してどうにかなればいいのだが。
「お姉ちゃん達、もうおしまい?もっと遊ぼうよー。」
明らかにユウリはこの闘いを楽しんでいる。
「ねーねー。まだ全然本気じゃないよー。」
つまらなさそうに地団駄を踏むユウリ。仕草は子供なのに魔槍の力で増幅されて手に負えない。
このままではまずい。魔槍をどうにかしないと確実に負ける。
どうすればいい......?頭の中で反芻する。
「............よし。」
決意が固まった。クレアは嫌がるだろうがこうなれば仕方がない。
クレアの背後に転移し、そのままクレアの手を掴み転移を繰り返しながら離れていく。
「ちょっ、お姉ちゃんどこ行くのよーっ!!」
遠い背中からユウリの声が聞こえるが関係ない。
「おい!ミツキ!なにをしている!?」
「何って、逃げてるのっ!!」
「敵前逃亡とは何たることだ!!私はまだやれる!!」
「いいから!!逃げて作戦会議するよっ!!」
かなり離れただろうか、ユウリ追いかけてくる様子は無い。
とりあえず森の中に身を潜めて葉っぱの隙間から覗き込む。少しの時間なら大丈夫そうだ。
クレアは指で地面に丸を書きながら露骨にいじけている。
「まったく逃げ足ばっかり早くなって。」
レヴィが少女の姿で現れ呆れたように肩を竦めた。
「しょうがないでしょ、あのままじゃいずれ骨が粉々になっちゃうよ。」
「そうは言ってもだな......敵前逃亡など騎士の恥だ......」
まだクレアは一人でいじけており、とても一国の王には見えない。
「とにかく、時間が無いから早く作戦立てないと。」
「魔槍をどうにかしない限り勝ち目は薄いわね。私じゃなければだけど。」
こういう時でもマウントを取るのは流石最強の魔剣である。
「私じゃなければとはどういうことだ。」
「聖剣だけじゃ力不足ってことよ。」
「なんだと......?」
「仲間割れしてる場合じゃないでしょ!」
レヴィとクレアが睨み合っているのを仲裁する。
こうしている間にもユウリは近づいてきているのだ。
「ねぇー!どこにいるのー?」
遠くで声が聞こえる。ユウリが槍で木々を掻き分けながらゆっくりと嬲るように少しずつ近づいてきている。
この距離なら普通に話してもまだ聞こえないだろう。
「魔槍に使われているのだから時間が経てば侵食が進むはずよ。侵食されないようもう一人に変わる時間があるはず。」
「その時に説得するのか?」
「説得する時間をくれればいいけどね。攻撃されるにしても魔槍よりはマシよ。あれは攻撃性能が高すぎるわ。」
ユーリに入れ替わるまで逃げ続けるしかないのか。
いつまで耐えられるのか?あの攻撃を躱し続けるのは至難の業である。
「ねぇってばー!!もう飽きちゃったよー!!」
声が聞こえて少し経つと、バチバチという轟音と共に黒い稲妻が走る。
木を薙ぎ倒しながら突撃槍が森の中を蹂躙する。
私達の事を視認しているわけではないにも関わらず、突撃槍は問答無用でこちらを狙って迫ってきている。
「......来るわよ。覚悟決めなさい!」
そう言うと、迫る槍に向かってレヴィが手の平を向けた。
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