第6話 窮地の変貌
黒髪で編みあがった球体の暗闇の中に閉じ込められてしまい、私は中で途方に暮れていた。球体を触ってみるが幾重にも髪が重なっており脆いところはなさそうだ。
その上、髪の強度は高く魔剣で斬ることは難しく、脱出するためには相応の危険を覚悟しなければならない。
髪はレヴィが出す炎で焼くことが出来るのは先程確認できたが、こんな狭い空間でやれば自分が燃え尽きかねない。
次の瞬間には、焼き魔剣使いの出来上がりだ。
転移してもいいが、出れたところでまた捕らえられたら意味は無い。消耗戦では明らかにこちらが不利だ。
「どうしよう……」
外の様子が分からないが、とどめを刺される危険がある為悠長にしている暇は無い。
「どうもこうも、壊せばいいじゃない。」
「そんな簡単に言われても……」
「ま、よく考えることね。」
出てきた割に特に何も無かった。ヒントくらいくれてもいいのに、ケチな魔剣だ。
何聞いても自分で考えろと言われる前職の上司を思い出した。
外からゴリゴリと骨が擦れ合うような音が聞こえ出す。
ミアがこちらに近寄って来ているのだろうか。急がなければやられる、落ち着いて考えるんだ。
トラウマのフラッシュバックと脳内で戦いながら何とか知恵を絞り出す。
レヴィが出来ることを思い出す。
炎を出す、魔剣になる、転移する……
『魔剣でありながらありとあらゆる武器になることなんて造作もないわよ!』
「あっ……」
そうだ、前に釣りをするために竿に変化させたことを思い出す。剣だからといって具現化させるのは魔剣状態に拘らなくてもいいのだ。
切れ味のいい武器……何があるだろうか?
槍、斧、ナイフ、刀、銃……何だかパッとしない。
魔剣で斬れないのだ、ただの刃物では意味が無い。
もっと削りとるような『何か』が必要だ。
その時、脳内に一つの影が浮かぶ。これならこの狭い球体の中でも扱えるだろう。
「よぉーっし、レヴィ行くよっ!!」
「ヘマするんじゃないわよ、反撃開始よっ!!」
魔剣が眩い光を放ちながら姿を変えていく。
一方、外では髪で出来上がった球体にミアがまるでゾンビのようによたよたと近づいていた。
関節から度々ゴキと鈍い不気味な音が立っており、身体はただでは済みそうにない。
そんな様子をエレーラはじっと腕を組んで眺めていた。
「おい、貴様!何をしている!?早くミツキを助けろ!!」
シズルを抱えながら聖剣で身を護りつつ、クレアはエレーラを睨みつける。
このままではあのミアを乗っ取った悪霊にミツキが殺されてしまう。
「五月蝿いわねぇ。いいのよ、これで。信じてあげなさいな。」
「そんなこと言っている場合かっ!?」
「これで駄目ならここまでってことよ。」
「私が今行く……!?」
今にも飛び出そうとするクレアの足元にエレーラの水晶から放たれた光が突き刺さる。
「貴様、何をする!?」
「ああもぅ!いいから黙って見てなさい!!……あの子の成長の機会なんだから。」
クレアはその言葉を聞いて不服そうだが引き下がった。
悪霊はゆっくりとだが着実に自分が造り上げた球体に近づいていく。そして目前まで到達した。
その時、ヴアアアァァァッとけたたましい轟音が球体の中から響いた。
地面を鳴らすような振動と音にその場にいる全員が戦慄する。次の瞬間、球体の天井を引き裂きながら炎を灯した回転する刃が現れた。
その場にいる人間はそれが何か認識できない。
ただ、回転する機械の刃がすり潰すように球体を分断していく。
「復活!!魔剣レーヴィアテイン、チェーンソーモード!!」
球体をバラバラにしながら隙間から飛び出す。
私が持ち手を握っている機械は、エンジンのような物が五月蝿い音を立て鎖で連なった機械の刃が高速で回転させている。
「あらまぁ、すごい機械。」
エレーラは驚きを隠せないように口元を手で抑えている。
きっと、この国には無いものなのかもしれない。
あまりの轟音で目の前のミアが少したじろいだ。
「今だっ!!」
チェーンソーからチェーン状になった刃が外れミアに絡み、身体を絞め上げていく。
刃は外に向かってついているが、身体に多少の傷は付いてしまうのは仕方がない。
「アアアァ、ギァアアァァ!!」
「ミア、暴れないでっ!!」
私は少しずつチェーンの絞めあげる力を強めていく。
ギリギリと身体に食い込んでいき、暴れる力が弱まっていく。
「ア……アァ……ア……」
呻きながらカハッと短く息を吐くミア。身体に酸素が回らず力が入らないのだろう。動きは静止していく。
緩めたい気持ちを振り切って、私はそのまま動きを抑制し続ける。
「キィイイィイイイィィィッ!!」
宿主が無力化させられたことにより後ろの悪霊が金切り声をあげながら動き始める。
自らの髪を伸ばし私に襲いかかってくる。
その時、閃光が私の後方から左耳の横を、文字通り光の速さで通り過ぎていった。
「キャアアアアァァァァッ!!」
閃光は悪霊のみに直撃し、断末魔が辺りに響き渡る。
「ばぁん。」
振り向くとエレーラが銃を構えるように水晶を持って立っていた。
宙に浮いていた日本人形はぽとりと落ちて動かなくなる。
危険が去ったことを確認した私は、レヴィを元のアクセサリーの状態に戻し、崩れてくるミアの身体を抱き寄せた。
変な方向に曲がったりしていた関節についてはわからないが、外傷は数日も経てばよくなるだろう。
「まぁ、及第点ってとこね。」
「あはは……ありがと。」
レヴィに一応の合格を貰ったところで緊張の糸が切れてしまい、その場にミアと一緒に座り込んだのだった。
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