第2章 深緑の魔女
第1話 公国の日々
魔剣使いとしてこの公国に転生してからというものの、色々あり過ぎて頭がついていってない。
3日前まで私を殺そうとしていた公国の聖騎士は、目の前で優雅に紅茶を嗜んでいるし。
私を宿主としている自称最強の魔剣レーヴィアテインは私の手首にシルバーアクセサリーの形状で静観を決め込んでいる。
「クレア……さんはこの国のどの立場の人なんですか?」
「クレアでいい。私はこの公国の本隊第一班隊長だが、両親とも亡くなってしまっている。実質、この公国の王みたいなものだな。」
つまり、今この公国で一番偉いのがクレアということだ。何でそんな高貴な御方が兵隊の隊長なんかしているんだろうか。
「そもそもあまり政治とかそういうのは向いてないのだ、私は。剣を振っている方がよっぽど性に合っているしな。それにしても、ミツキは何故魔剣使いになったのだ?」
「え、いや……それは……」
転生した時に選択肢がなくて残り物だった……なんて言えるわけがない。
どう伝えればいいだろうかと考えていると、クレアが察したのかニコリと笑った。
「まぁ、色々深い理由もあるのだろう。気にすることは無い。私が聖剣使いになったのは、この公国を護らなければならないからだ。もっとも、今はボロボロになってしまって修復中なのだがな。」
あぁ、それを壊してしまったのは私だ。申し訳ない気持ちで胸が締めつけられる。
生命のやり取りをしていたのだから仕方がないのはわかっているのだが。
「なに、案ずることはない。聖剣ディランダルは自動修復だし、数日後には完全に修復されるさ。」
「そしたら、お言葉に甘えます。」
私がお辞儀をすると、うむ。と力強く頷きクレアは席を立った。
私は自動修復とかないからね。と頭の中にレヴィの声が聞こえる。はい……気をつけます。
「さて、ミツキの無事も確認できた事だし私は公務に戻るとしよう。何か困ったことがあれば頼ってくるといい。身体も本調子ではないだろう、あまり無茶はしないようにな。」
「ありがとうございます。」
クレアが手を挙げながら去っていく。
私も食事をしてゆっくりと休むとしよう。
目の前には食べ切れなさそうなほどの食事が並び、3日ぶりの空腹を満たすように必死に食らいついたのだった。
それからというもの、1週間くらい割と穏やかな日々を過ごしていた。
体力回復のために昼寝してみたり、池に釣りに出かけてみたり、図書館で本を読んでみたり。
社畜人生を払拭するべくひたすらダラダラと過ごした。
そして今は草原にビニールシートを引き仰向けに寝転がっている。
朝も早い時間なので陽射しは優しく、そよ風が頬を撫でていく。気温も丁度よく気持ちよくてこのまま眠ってしまいそうだ。
「いい風だねぇ。」
「だいぶ体力も戻ってきたわね。」
「もうこのまま何もなくのんびりできればいいんだけどね。」
「あの程度で3日間も倒れるなんて、もっと体力つけなさいよ。」
レヴィに小言を言われる。まぁいつもの事だ。
確かにいくらレヴィが最強の魔剣だとしても、私が腑甲斐無いままでは意味は無い。
しかし、この世界で襲われることなんて多分あれっきりだろう。
「私は優雅で自堕落な異世界ライフを満喫するのよ。」
「ふーん……ま、今だけは満喫するといいわ。」
「何よその含んだ言い方は……これから戦争でも起きるわけじゃあるまいし。」
「あら、わからないわよ?いつの宿主かは忘れたけど、戦争で死んでいった奴もいたし。」
物騒なことを言うのはやめてくれ。
うつ伏せになりながら顔を伏せて聞こえていないことにしておくことにした。
そういえば気になっていたことがあったのだ。
「ところで、レヴィって元から魔剣なの?」
「何よ藪から棒に、元から魔剣に決まってるでしょ?あの姿が人間の時の姿なわけじゃないわ。」
「じゃあ、何であんな可愛い女の子の姿なの?」
「何でって……何でかしら?そんなこと考えたことも無いわ。」
レヴィがアクセサリーから人間の姿へと変化した。
近くで見ると顔も整ってて、身長も小さくて可愛い少女にしか見えない。街中ですれ違ったとしても、間違っても魔剣だなんて思わないだろう。
「まぁ、可愛い理由は……」
「理由は……?」
「私が最強だからじゃない?」
「はぁ……なるほど。」
「アンタこそ何で転生なんかしたのよ?」
「……仕事のし過ぎで倒れて死んだ。」
「はぁ?莫迦じゃないの?」
「当たり前のことを言わないでよぉ……」
面と言われるとなかなかにヘコむ。
確かに今思えば何であんな仕事を生命削りながらやってたのだろう。
何であの時上司に嫌だって言えなかったのだろう。
それもこれも、全部自分が弱いからだ。
「はあぁ……私って弱いなぁ。」
「大丈夫よ。」
「何が大丈夫なのよ?」
「だって、アンタには私がいるから。」
レヴィの真っ直ぐな瞳が訴えかけてくる。なんて自信満々なのだろう。自分の矮小さに嫌気がさすのと同時に、最強の魔剣と一緒にいることに妙な誇らしさを感じていた。
「そろそろ帰ろっか。お腹も空いたし。」
「食べてばっかりねアンタ……」
「確かにちょっとは運動でもしようか……」
とりあえず食欲を満たさなければならない。体力作りは二の次だ。
地面に敷いていたビニールシートを折り畳み雑談しながら屋敷へと戻っていく。アクセサリーに戻ったレヴィと話す姿は傍から見ると完全に変人だ。
玄関に入り何の運動をしようか悩みながら自室に戻っていると、ミアが中庭の掃除をしているのか箒を持って立っていた。
ただ、動いていない。様子が何か変だ。
次の瞬間、ミアの身体がぐらりと揺れて膝から崩れ落ちるように倒れてしまった。
「ミア!!」
急いで駆け寄り抱えあげて身体を支えてやる。
「熱っ!?何これ……?」
抱えたミアの身体が異常に発熱している。風邪で熱が出ているなんて次元の話では無い。人体であるかわからないほどの明らかな高熱が彼女の身体から放射されている。
「とりあえず、ベッドまで運びなさい!」
「う、うん!」
熱で動けないとはいえ、やはり人の身体は重い。
「まったく……だから言ったでしょ。」
そう言ってレヴィが光を放つと、私の筋力が増強されたのか軽くミアを持ち上げることができた。
そのまま彼女を一番近い自分の部屋に運び込むと、ベッドに寝かせて別のメイドを呼び看病を依頼する。
「あらあら、これは大変ですね。病でしょうか?」
騒ぎを聞きつけたのか、シズルがどこからともなく現れた。しかし、異常な高熱を放つミアの姿を見て眉を顰める。
「これは……もしかすると……」
「シズル、知ってるの!?」
「確か、図書館の文献で読んだことがあるような……」
そう言ってシズルは図書館の方に向かって行ってしまう。
体感で50℃くらいの熱だ、風邪なわけが無い。どうにかして治す方法を探さないと。
ミアのことを心配しつつもシズルの後を追い、図書館へと急ぐのだった。
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