第2話 呪いの文献
急いで図書館に向かい到着した時には、シズルが文献を取り出しページをめくっていた。
次々とページを進めていっておりシズルは本の内容をある程度把握しているのだろう。
「ありました、これです。」
「呪術……?病気じゃないの?」
「えぇ、あの様子は呪詛の類いだとおもいます。」
ページにはおどろおどろしい絵と呪詛についての詳細が綴られていた。症状には高熱も含まれている。
呪詛と言うことは、ミアは誰かに呪いをかけられているということか。
「一体誰がそんなことを……?」
「誰か、ミアさんに恨みのある人間か。もしくは……」
「もしくは?」
「『何か』に魅入られたのかもしれません。」
『何か』とは一体何だ?魔物とか、悪魔とかか?
ミアが屋敷から出るのを私がこの世界に転生してから一度も見たことは無い。
この屋敷内にミアを呪った相手がいる可能性があるのだ。
「この屋敷はルミナリア公国が建国となった時代からあったと聞いています。いわくつきの物があったとしても不思議ではありません。」
「でも、呪詛なんてどうやって解呪すればいいの?」
レヴィに頭の中で問いかけてみるが、「呪詛は私の力では無理。」とだけ返された。
最強の魔剣の力を持ってしても呪詛には太刀打ち出来ないのか。
自分も呪いみたいなものだと思うのだが……
「昔聞いたことがあります。呪詛を解くには、深緑の森にいる魔女に会う必要があると。」
「深緑の森……それってどこにあるの?」
「ええっと……あった。」
シズルが地図を持ってきて開く。すると少々傷んだルミナリア公国の地図が広がった。
そして、ここが屋敷ですと丘の上を指さした。
「ここから池のほとりを進んでいけば森の中に入っていきます。しかし、森の中は魔女の仕業なのか前後感覚が弱くなり迷子になると言われています。」
「そんな……そしたらどうやって魔女に会えばいいの……?」
「クレア様の力をお借りしましょう。あの人なら魔女と面識もあり、聖剣の力で魔力の中和も出来るはずです。」
確かに、クレアと一緒ならどうにかなりそうだ。そうと決まれば善は急げだ。すぐにでも合流してミアを助けなければ。
私が走り出そうとすると、シズルに静止させられる。
「ミツキさん、ここから深緑の森までは半日程度かかります。私がどうにか呪詛の進行を遅らせますが、どうやっても3日間が限界です。それまでに魔女を連れて戻ってきてください。」
「わかった!!」
私は返事をして走り出した。途中で自分の部屋に寄ってミアの様子を確認する。
息は荒く、真夏日のように額から汗が噴き出している。頭の下に敷いた氷枕もあまりの高熱にすぐ水に戻ってしまっていた。
「ミア、絶対助けるから!頑張って!」
「ミツキ様……お気をつけて……」
こんな時まで私の心配をして……泣いてしまいそうだ。ミアを必ず助けるという決意を胸に、私は屋敷を後にしたのだった。
屋敷から急いで王宮へと向かう。まずはクレアと落ち合って魔女の家への道を確認しなければならない。
幸い私が住む屋敷は貴族が住んでいたところで、王宮までの距離はそう遠くない。
「レヴィは魔女のこと何か知らないの?」
「森に居るのは聞いたことがあるけど、関わったことは一度もないわ。向こうはこっちのこと知ってると思うけど。」
「え、そうなの?」
「多分ね。まぁ、いつも見られてるわけじゃないし安心なさい。」
レヴィが言っていることを理解はできていないが、そんな話をしていると王宮に到着した。
扉の前には両端に二人の門番がおり、槍をクロスに構えて行く手を阻んでいる。
そう簡単に通してはくれなさそうだ。
「貴様、王宮に何用だ?陛下は今来客中にあらせられる。引き取り願おう。」
「どうしても急ぎの用があるの!通して、お願い!」
「他国からの来賓である故、いくら願おうとも通らぬ。これ以上は容赦はせぬぞ。」
そう言って門番は斜に構えていた槍先を私の眼前に向けた。それでも、どうしても今は引けない理由があるのだ。
外からクレアを呼ぼうとした時、右手首のチェーンから禍々しい気が放出される。
普通の人間であればまず耐えられない波動が門番を襲う。毒気のような邪悪な波動に当てられ、手に持っていた槍を落とし地面に膝をつき頭を押さえている。
「誰に向かって刃を向けてるのよ。気絶させられないだけ感謝しなさい。」
「あ……頭が……割れそうだ……!」
その時、門が内側から開かれた。
そこにはクレアと刀を腰に帯びたコート姿の男が立っている。この人が他国からの来賓か。
何故だか近寄り難いようなそんな雰囲気を感じた。
「外から奴の気を感じて来てみれば、やはりか。何かあったのか?」
「クレア!ミアが呪いを受けてるみたいで、すぐに森の魔女に会いに行かなくちゃいけないの!助けて!」
「何だと……?確かに呪詛の類いは奴でないと解呪はできないな……時間も少ないだろう、急ごう。」
「只事ではなさそうだね。話はまた次回にしよう。」
「エルメリア卿、すまない。ご配慮痛み入る。ミツキ、そうと決まれば早速出発しよう。」
「ありがとう!お話中に失礼しました!」
エルメリア距離と呼ばれたコートの男にお辞儀をして、私とクレアは走ってその場を後にした。
「ふぅん……彼女はミツキと言うのか。」
コートの男はニヤリと嗤いその場から掻き消えてしまった。
休憩を入れつつ歩みを進めた私達は、昼過ぎに深緑の森の入口に立っていた。
森の中は太陽が照っているにも関わらず暗く鬱蒼としており、入る者を拒絶しているかのように揺れている。
「深緑の森、別名迷いの森。私を頼ったのは正解だ。普通の人間が足を踏み入れれば、前後感覚を失いそのまま骨になっても不思議ではない。」
「骨に……?」
「この森全体が魔女のテリトリーだ。結界が敷き詰められているが故、魔力により方角が変化し続けるのだ。私がいれば聖剣のアンチスペルで無効化できる。」
急いでいたがシズルが言っていたとおりで、クレアを頼って良かった。迷い続けてミアを助けられなくなるなんて、そんなことはあってはならない。
しかし、私一人で離れたら結界の力で迷子になる。クレアから離れないように注意しなければ。
「さぁ、行こう。魔女の家まで行けば時間も夕刻になるだろう。夜に奴に会うのは些かまずい。」
差し出されたクレアの手を取り、私達は森の中へ入っていく。
黒い鳥が聞いたこともない声で鳴きながら翼を羽ばたかせる姿が不気味さを際立たせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます