第7話 邪悪の化神
クレアの勢いよく放った剣撃がレヴィに迫る。
私はレヴィを魔剣状態に変化させるとそのまま聖剣を受け止めた。
重い……!
火花を散らしながら剣が交差し、その衝撃で柄を握った手が痺れている。
そのまま下がって距離を取るが剣の長さも体格も違うのだ、リーチの長さで向こうに分があるのは間違いないし、私は武道なんか経験してきてないズブの素人である。
いつ斬り殺されてもおかしくない。
クレアは驚きを隠せない様子だ。
「私の聖剣を止めるとはな……魔剣使いとは、やはりこの公国に害をもたらす者というわけだ。」
「何でそんなこと決めつけられなきゃならないのよ?」
「それはね…アイツに斬りかかられて止めたのはアンタが初めてだから。」
今までの宿主は一撃で殺されてたってことか?それを魔剣の力を引き出したから躱せたということか。
転生時のステータスも体力以外は悪くなかったのもあるのだろうか。今だけは女神に感謝しておこう。
いやでも、そもそも魔剣使いしかなかったし、レヴィもあの女神から貰ったものだ。前言撤回だ、あの女神よくもやってくれたな。
「偶然はそう何度も続かない。さぁ、終焉だ。」
何で私がこんな目に遭わなくてはならないのか。
社畜になってそのまま死んで、知らない女から斬りかかられて……
そう考えたらイライラしてきた。
血管が沸き立つような感覚が全身を駆け巡った。
「うるさああああぁぁぁぁいっ!!」
私は叫んだ。
「何で私が魔剣使いだからってアンタに殺されなきゃいけないのよ!?こっちは転生してまだ2日目で釣りしかしてないのに、何でこんな死に目に遭わなくちゃいけないの!?社畜卒業したと思ったらこれって私の人生2回目も不幸過ぎでしょうが!!」
怒りのままにレヴィを高く持ち上げそのまま振り下ろすと、紅黒い色の火炎が迸った。
「何っ!?」
クレアが盾のように聖剣を構え火炎から身を守る。
「やはり貴様は危険だ。」
「うるさい!!私のことも護れ!!幸せにしろぉ!!」
近づいて左下からレヴィを振り上げて聖剣でガードさせ、そのまま右の拳で盾から見えたクレアの左頬を殴りつけた。
「グフッ……!!」
クレアがよろめく。その隙に火炎を放ちながら再び距離を取った。あまりの出来事にショックが大きかったのか、クレアは目を見開いたまま微動だにしない。
「魔剣使いと一緒に戦うのは初めてだけど、コレならもうちょい出力上げてもいけそうだわ。」
「え、手加減してたの?」
「当たり前でしょうが、本気出してアンタが死んじゃったらどうすんのよ。」
それは御免こうむる。レヴィの力に耐えられてるのは魔剣使いのスキルのお陰なのだろう。
クレアが正気に戻ったのかフラリと身体を起こす。
「私に一撃浴びせたのは…貴様が初めてだ…」
クレアの周囲の空気と地面が震える。未だかつて無いほど怒りに震えているのだろうか。
「あそこまでなってるのは見たことないわ。今のうちに逃げちゃう?」
「んー、逃げても結局追いかけてくるし……」
決着となるまで生命を狙われ続けるのも心底嫌だ。
「じゃあやるしかないわね。覚悟決めなさい。」
レヴィを中断に構える。
その時、ふっとそこに居たはずのクレアの姿が消えた。
「後ろ!!」
魔剣に身体を引っ張られ、そのまま振り返りつつレヴィを横に薙ぐ。振り下ろされた聖剣を弾きながら火花が宙を舞う。勢いを残しつつ身体を再び一回転させながら袈裟懸けに斬りつける。しかし、その攻撃は聖剣の盾に止められてしまう。
「燃えろぉ!!」
刀身から放たれた黒紅色の炎がクレアを包み込む。
引くな、攻撃を止めたらやられる。
向こうの重撃をいつまでも耐え続けるのは不可能に近い。炎は鎧に阻まれて効いていないが相手の視界を奪っている。
瞬間転移してクレアの背後に回る。
「…………っ!?」
動きを読まれているのか、私の頸動脈を狙うかのように聖剣が近づいている。後ろに身体を反らしながら何とか避ける。鋭い剣閃で前髪が少しだけ斬られて舞う。そしてそのまま地面に尻もちを着くように倒れ込んだ。
見上げる私の身体を影が覆っており、顔にも一直線の影が射し込む。クレアが私を見下ろしている。
そして、そのまま顔に聖剣が振り下ろされた、もう防ぐのも間に合わない。眼前ギリギリのところで転移して何とか躱す。いまのは危なかった……一瞬、あの世が見えた気がした。
クレアと再び対峙する。
「よもやここまでやるとはな。魔剣使いを甘く見ていた。」
戦えてる。素人の私が。この国の騎士相手にだ。自分の身体じゃないみたいに動いてるし、確実に身体機能は高くなっているのを感じる。これが魔剣の力なのか。魔剣使いでなければ今までの宿主のように死んでいただろう。
しかし、どちらにせよこのままではずるずると消耗していきいずれは敗ける。敗けことはイコール死だ。
また転生して繰り返せるかもわからない。次の転生先は何処かもわからないし、虫かもしれない。
……私は決意する。
「レヴィ、出力上げて。本気で行こう。」
出力を加減してるのはわかってる。理由は簡単で私を壊さないためだ。いくら職業が魔剣使いでスキル付与されてるからって本人曰く最強の魔剣なのだ。耐えられるか測りかねてるのだろう。
レヴィは私の覚悟が伝わったのか、止めたりはしなかった。
「……呑まれるんじゃないわよ。」
ぞわりと、悪寒と呼ぶには軽すぎるような生きている中で感じたことのない『何か』が、身体の内も外も蹂躙するかのように這い回る。
「あ……あ、あ……っ……!!」
怖い怖い怖い怖い怖い……!!
胃を鷲掴みにされるような衝撃で中の物が全部出そうだ。
そして黒紅色の闇が蛇のように纏わりつき身体を絞めあげる。
痛いイタイ痛い一一一!!
骨が軋む。折れる。
闇は幾重にも分裂していく。そして喉に絡みついた『何か』が首を絞める。
息が……出来ない……
苦しい……助けて。死にたくない。タスケ……テ……
脳に酸素が回っていかない。眼球が白眼を剥き意識が途絶え、膝から崩れ落ちるように地面に突っ伏していく。
「魔剣使い、真逆自ら死を選ぶとはな。」
その様子を見たクレアはそう呟くと呆気ない最期に溜息をつき踵を反した。
ここは、どこだろう……?暗闇の中で私はそこに居た。
目の前にレヴィが現れる。これは走馬灯のようなもので、私はもう少しで死んでしまうのだろう。
「勝手に死ぬつもりになってんじゃないわよ。」
叱責される。
「自分で言ったんだから責任は自分で取りなさい。」
でも、怖いし痛いし苦しい。
「怖がる必要なんてどこにもないわ。だって……」
レヴィが私を抱きしめる。
「『それ』は、私なんだから。」
小さい身体に包まれる。それと同時に安堵する。
そうか、彼女はずっと私の傍にいたのだ。怯える必要なんて、怖がる必要なんてない。
私が応えるように抱き返すと彼女はニコリと笑ってみせた。
黒紅色の炎が円柱状になり燃え上がる。
ビリビリとした衝撃が空間を伝いながらクレアの背中に突き刺さる。
炎の中に『何か』がいる。
「貴様……何だそれは……」
巻き上がる炎がやがて収まり、中から漆黒の騎士が現れる。
禍々しい火炎に身を包み邪悪に満ちたその化神は、声にならない悲鳴にも似た絶叫を轟かせた。
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