第6話 魔剣と聖剣
「んーっ……よく寝たぁ。」
寝起きでベットから身体を起こした私は軽く伸びをした。
昨夜はよく眠れた気がする。
社畜時代は帰宅が遅かったのもあって、帰りながら手っ取り早く食べれる物で栄養補給し、シャワーをサッと浴びて寝るというルーティンであり、ゆっくり眠るなんて出来なかったものだ。
間で起きることも無くぐっすりと寝れたのは社会人になってから初めてかもしれない。
レヴィに生気を抜かれたからかな?
そう考えた瞬間、昨夜の出来事がフラッシュバックし顔から火が出るかのように熱くなった。
あれが定期的にあるのかと思うとちょっと錯乱してしまう。
とりあえず平静を保つために深呼吸をした。
「さて、今日は何しようかなぁ?」
釣りも楽しかったけど毎日やるのもちょっと疲れる。昨晩ミアに確認したのだがしばらく予定は無いとのことだった。
とりあえず晴れてるし散歩でもするか。
そうと決まれば出かけよう。私は寝間着から着替えて屋敷の外へと繰り出した。
屋敷から伸びた道を散歩でゆっくりと歩いていく。特に目的地もないし満足するまでブラブラしよう。
ちょっと寝すぎたのか太陽がちょっと高い位置になっており、時折吹き抜ける爽やかな風が私の頬をくすぐるように撫でていく。
「いい天気だねぇ。」
「あんまり日の下にいると肌焼けちゃうわよ。」
「魔剣なのにそんなの気にするんだ…」
「人間なら気にしなさい。」
レヴィが言うことは確かにごもっともなことだ。
「これから先何するか考えないとね。」
社畜をしていたせいで遊ぶ時間もなかったので趣味もやりたいことも特にない。
時間はいっぱいあるのだ。色んなことをしてみてもいいかな。
インドアな趣味もいいかな。絵描きとか、中庭で弓道とかもいいかも。
「これから忙しくなるかもしれないわよ?」
「社畜だけはご勘弁だけどね…」
「どうかしらね、向いてたのかもしれないじゃない。」
あんなものに向いてる人なんているのだろうか?
「忙しければ何も考える必要がないわ。与えられることだけを精一杯やってればいい環境は、思考をどんどん蝕んで停止させていく。」
「考える力を養わないとね。」
「まぁ、頑張りなさ………ん?」
レヴィが遠くにいる人影に気がついた。人には感じにくい何かを感じたのだろう。
「前言撤回、頑張らない方がいいかもね……」
レヴィの声がちょっと焦っているように聞こえる。
「何も気付いてないように振り返って走りなさい。わかった?」
「え…?何で?」
「いいから!まだアンタには早……っ!」
その時、一陣の閃光が、私の横を通り過ぎて行った。
遅れて風圧がやってくた。風が私の髪を乱暴になびかせる。目にも止まらぬ速さとはこのことを言うのだろう。私の目の前にソレはいた。
「何処に行こうというのだ?」
その言葉と同時にレヴィが顕現する。
「散歩も飽きたし帰ろうと思ってね。」
「何、急がずとも」
目の前に立ちはだかった長身の女性は見下すように私を一瞥し、自らの首に身につけたシルバーに輝くネックレスへと手を伸ばす。
「死んでからでも、遅くはないさ。」
突如シルバーのネックレスが姿を変える。盾のような大剣へと変貌したそれを彼女は軽々と持っていた。
「ミツキ!下がって!!」
レヴィに手を取られ後ろへと引っ張られる。それと同時に私が元いた所へと大剣が振り下ろされた。
大剣の切っ先が地面を穿つ。何という破壊力だ、あんなのに触れたらひとたまりもないだろう。
「な、何なんですかあなたは!?」
「そんなこと聞いてる場合じゃない!一旦逃げるわよ!!」
「逃げるったってどうやって!?」
レヴィが大剣を持った女に向かって手を伸ばすと、紅い球体が彼女を包み込んだ。
球体を叩いたのか内から乾いた金属の音が響く。
「一一一一一爆ぜろ!!」
言葉に反応し球体内部が爆裂した。その衝撃が周囲の空間を揺らし地面の砂が舞う。
その隙にレヴィに手を引かれ、私達はその場から消える。一瞬で離れた場所に転移して岩場に身を隠した。
岩の隙間からバレないように覗き込み砂煙が晴れてくると、そこには純白の鎧を身に纏った騎士が、大剣を地面に突き立て仁王立ちしていた。
「何なの…あいつ…」
レヴィの放った攻撃は相当の威力があった、はずだ。だが、騎士の鎧にはひとつの傷も見当たらない。
「見つかるでしょ!顔引っ込めなさいよ!」
「何であいつ、私達を襲ってきたの?」
「私達、と言うより私を狙ってるのよ。アイツはこの国の公の娘で、第一部隊の隊長よ。」
「そんな人が何でレヴィの事狙ってくるの?」
「それは一一一」
「私が聖剣使いだからだ。」
背後から声がした。いつの間に回り込まれたのかわからない。大剣は地面と水平に振り抜こうと構えられている。
再びレヴィと共に瞬間転移する。対象まで5メートル程の距離を取った位置に着地する。
あわや身体が真っ二つになるところであったが、間一髪で大剣は空を斬った。
両者が睨み合う。
「コイツは何もわかってないんだし、少しくらい話しましょうよ。」
レヴィが騎士に言った。確かに私には狙われる道理も何も無い。この人とも初対面だ。
「貴様に情けをかける必要などない。だが、確かに彼女には知る権利がある事も事実。」
そう言って騎士は振り抜いた剣を下ろした。
「…自己紹介をしよう。私はルミナリア公国本隊第一班隊長 聖剣使いのクレア・ルミナリア。そして、こちらは聖剣ディランダルだ。」
「そんな人が何で私達を襲ってくるの?」
「魔剣はこの国の不穏因子となりうる。故にこの手で破壊する。我々はこの公国の平和を護らねばならぬのだ。」
「私の宿主は私が生命を喰らい尽くして死んでしまった。でも、そもそもの原因はコイツよ。今までの宿主は普通の人間だったから、コイツと戦った時に私のエナジードレインを受けて死んでしまったの。」
そんなことがあったのか。道理でレヴィが逃げ出そうとする訳だ。つまり、私が邪魔で足でまといなのだ。
「魔剣の力を得ようとした者の末路だ。魔剣を手にすることそれ即ち罪なのだから。」
何だろう言ってることは尤もなことを言っているようだが、自分本位で考えすぎではなかろうか。
魔剣が災禍を起こすかどうかなんてわからないじゃないか。
私にとってみれば理由も言わずに大剣を振り回す女の方がよっぽど危険だと思うが…
「さぁ、無駄話はここまでだ。死んでもらおう。」
クレアは再び聖剣を構える。
「ちょ……まだ話は終わって……」
「これ以上の戯言は必要ない。」
そして、聖剣の無慈悲な剣閃が流星のように煌めいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます