第3話 新生と魔剣
扉を通り光に包まれた私はその眩しさに目を閉じた。
春のそよ風のような暖かい空気を肌で感じつつ、ふっと落ちるような感覚に見舞われる。
意識が、消えていく……
そして次に目を開いた時には、布団を掛けられベッドに仰向けで横たわっていた。
広い部屋に天蓋付きのベッド、私が生前に住んでいた8畳のアパートとは比べ物にならないくらい大きく、こんな所で今まで寝たこともない。
ベッドから降り窓の方に歩いていく。カーテンを開くと巨大な窓からの景色が広がった。
今まで生きてきた世界とは全く違う世界。窓の外には草原と街、海が広がっており水平線までくっきりと見ることができた。
文化がそもそも違う。そこにはオフィスビルや電車のような乗り物もない、本当にゲームや漫画の中のようなファンタジーの世界だった。
この時、本当に私は令嬢に転生したのだと実感した。
コンコンと扉が鳴る音が聞こえた。
「…………どうぞ。」
「失礼します。」
ガチャリと音を立て扉が開くと、そこにはメイド服の従者であろう女性が立っていた。
歳は私と同じくらいだろうか。背中まで伸びた茶色の髪を束ねた落ち着きのある女性だ。透き通るような青色の瞳は大きく、その吸い込まれそうな瞳は私をしっかりと見据えていた。
とても綺麗な人だ。メイドなんかテレビでしか見たことがない私は少し緊張して生唾を飲み込んだ。
「おはようございます、ミツキ様。本日は早いお目覚めでございますね。」
「え、えぇ……早く目が覚めちゃって……」
「どうしましたか?お身体の調子が優れませんか?」
「そういう訳じゃないのだけれど……ちょっと頭がはっきりしなくて……」
「それはいけません。本日は特に用事もございませんし、ゆっくりお休みになられては如何でしょう。」
メイドさんがポケットから取り出した手帳を確認し、私のことを気遣っている。何て優しい人なんだろう。
「大丈夫よ、あまり眠れなくてちょっと疲れてるだけだから。」
「左様でございますか。あまり無理をなさらぬようご自愛くださいませ。お召し物をお持ちしましたのでお着替えになりましたら、食堂までお越しくださいませ。」
「ありがとう。」
「あら、いつもはそんなこと言いませんのに。」
服をテーブルに置いた後に、失礼しますとメイドさんは部屋から出て行った。
服を着替えるために今着ている寝間着を脱ごうとすると、ジャラと右手首から音が聞こえた。そうだ、私は魔剣使いなのだった。女神リーチェが特別にくれた魔剣は私の右手首で鈍色に輝くアクセサリーになっていたのだった。
しかし、このアクセサリーが魔剣ってどういうことなのだろうか?
「一一一一一一あんたが新しい宿主?」
「え?」
あどけない声が、聞こえる。それと同時に手首のアクセサリーが光り、そして黒色に輝きを強めていく。あまりの眩しさと禍々しい衝撃に思わず左腕で目を覆い光を遮った。
「我が名は『魔剣レーヴィアテイン』。漆黒より来たる破滅の刃よ。」
光が収まり目を開くと、そこには黒いドレスに身を包んだ140cmくらいの女の子が立っていた。
ゆらゆらと銀に煌めく髪が揺らめき、血のような赤い双眸が私を突き刺す。
声が出せない。こんなに可愛い見た目とは裏腹に、放つ殺気に当てられ身体の震えが止まらない。
「怖がらなくていいわよ、取って食べたりなんかしないわ。それに、あんたは魔剣使い。私が逆らうことなんかできないしね。」
ムスッと頬を膨らませる仕草は魔剣らしからぬ、少女の姿である。
「あの……レーヴィアテインさん……?」
「長いしレヴィでいいわ。」
「ホントに……?」
「私がいいって言ってるんだからいいの。」
「それじゃあレヴィ。私には貴方が女の子にしか見えないんだけど、魔剣って一体……?」
質問したところ、しょうがないわねとレヴィが私の手を握ってくる。次の瞬間、私の手には黒色の剣が握られていた。
どくどくと脈打つ刀身は鋭く、触れたものを破壊してしまいそうなほどの邪気を感じる。
そして、刀から伸びたチェーンが私の手首にまとわりついている。
「疲れるのよねこの姿。」
そう言いながらレヴィは元の女の子の姿に戻った。
「魔剣なのはわかったけど、何でリーチェが貴方のこと持ってたの?」
「私は最強だけど、宿主がいなくなっちゃって。そこをあのおばさんに捕まったの。」
女神をおばさん扱いとは……流石に魔剣はスケールが違う。
「ちなみに前の宿主って……」
「死んだわ。」
「え……?」
「死んだ。私が喰い殺した。」
口角を上げ邪悪な笑みを浮かべながら、ひどく簡単にレヴィはそんな言葉を口にした。
殺されるのか、私も。なんて物を寄越すんだあの女神は。私が何か悪いことでもしただろうか。
「私が怖い?大丈夫よ、前の宿主は普通の人間だっただけ。私の邪気に当てられて生気を吸収されて抜け殻になったわ。魔剣使いのあんたとはそもそもスキルが違うし。それに言ったでしょ、私は逆らえないって。」
溜息をつきながら手をひらひらと振り、レヴィは私の手首を持ち上げた。
「だからって安心できないし……」
「ま、怖がるのは勝手だし好きにすれば?また夜に出てくるわ、ご飯食べなきゃいけないし。それまでしっかり英気を養いなさい。」
そう言いレヴィは光を纏いつつ、元のアクセサリー状に戻った。
剣なのにご飯とか食べるんだ……
朝から色々あってまた心労で倒れそうだ。朝食もできているとメイドさんが言っていたし、私は服を着替えて食堂へと向かうべく自室を後にした。
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