Chapter 1-6 LUNAと悪寒ダイビング
23階のエレベータを降り、下層の階ならあちこちに同じような店があるらしい違法営業小売店でタバコとライターと歯ブラシを買おうとして決済が通らず店員と一緒にまごついていると別の買い物に行っていたルナが戻ってきた。 ちなみにおマミはあったが、やはり買う気にはならなかった。
「あーここのレジ相性あるんスよね、でもあーしなら……」
ルナが少しレジのキーを叩いてから決済をかける。
cha-ching! 安っぽいレジスター模倣音が響く。 支払いが完了したので店員に会釈して店を後にする。
「ありがと。そろそろ端末買い替えるか……」
「てか、タバコ吸ってたんスか?」
「吸うけど? なんか変?」
……そういえば買う暇無くてルナの前では一本も吸ってなかったか。
「……部屋ん中はワーステあるんでタバコはベランダか換気扇っス。他で吸ったら出禁で」
「そこまで雑じゃ無いってば」
わざとらしく口角を曲げた表情をしてきたルナに肩をすくめて見せ、後ろに着いていく。
昼下がりという事もあり、アトリウムの人影はまばらだ。
ワンフロアにどれだけ住んでるのか考えるのもバカらしくなる程の数のドアの前を通り過ぎる。
2340、2345……一周何部屋あるんだ。仕事で別のメガビルに屋上から入り込んだ事はあるが、普通に歩くとこんなに広いのか……。
ルナが立ち止まる。 部屋番号は2349。
49……
「ここっス」
つくづく不吉だと思っていると自動ドアが横に開く。
「上がってください。何も無い部屋っスけど」
若干ワクワクしながら靴を脱いで上がるとドア連動で起動したと思われる
「ん〜〜ただいま〜いい子にしてぁ〜〜? うりうりうりうりゅうりゅ〜〜」
ホロネコは愛らしい鳴き声を出しながらルナにもみくちゃにされている。
さっきの猫撫で声はこれの応用か……。
ーー思っていたよりは広い部屋だ。
ど真ん中に診察台のようなネットダイバーベッド、その横には天井まで達するサイズのラックサーバーじみたワークステーションが横並びのインジケーターLEDを狂ったようを光らせている。
だけ。
あとはソファーと天井ビルドインTV。テーブルの上には何も無い。壁面ビルドイン冷蔵庫、クローゼットやシャワールームはあるが、それにしても殺風景というか……部屋を借りて機材を運び込んだだけと言った具合。
「マジで何もないね」
率直に出て来た言葉はコレだ。
「即別れた元カレにも言われたっス。 ダイバーの部屋なんてこんなもんだと思うんスけどね」
「……ダイバーだってちゃんと伝えた?」
知り合いの引きこもりネットダイバーの部屋ですらもう少し雑貨とか置物があった気がするが……。
「むしろネットで知り合ったんス。 向こうではアツアツな事言ってたクセに、いざ会ってもイイ感じなのに、なーぜーか家来ると男も女も急に冷めるんスよ。 ワケわかんねえっス」
「あー……うん、なんか怖いもん。 借りたまんまの部屋っていうか……」
ネットダイバーである事以外は何も伺えない部屋だ。
「大抵の事は
「……アタシの家は物置だから何も言えないわ……ほぼ住んでないし……」
「物置……?」
お互いに世間からズレているであろう感性を感じ取り絶妙に気まずい沈黙が生じる。 そんな事は知らん顔でホロネコがゴロゴロ音を再生しながらルナの足元をすり抜けた。
「ま、まあそういう住み方もあるっスよね! ミニマリストとかマキシマリストとか、色々いるし!! うちはネコいるし!!」
「え、ええ、そうね、そうよ。そうなのよ。カワイイし、いいんじゃない?」
…………
「タバコ吸ってくるわね」
「うっす」
実に便利な口実だ、タバコは。
ベランダに出ると簡素な折りたたみ椅子とテーブルがあったので使わせてもらう事にする。 灰皿は……あった。
雨に濡れては乾いてを繰り返してカピカピになった古い吸い殻三個ほどにチップの根元まで吸い切った
新品パックの封を切る。
"アコースティック 15mg" いつも通りの銘柄、旨くも不味くもないが、この街の淀んだ空気を吸うのに比べたら空気清浄機の吐き出し口に肺を直結するくらいマシな気分になる。
開封直後の匂いに鼻をくすぐられながら着火。
なんて事もない、いつもの味。
ほんのりバニラ、あとはヤニ。
これが良い、これで良い。
約15時間ぶりのニコチンが脳全体に染みて少しくらつく。
ああ…………ヤニは良い。
目の前に広がる光景は超高層ビルの谷間にトリミングされた空だ。23階程度ではコンクリートの檻から解放されないらしい。
少し見上げると先程とは別の超巨大広告モニターが高層階住みの富裕層に向けた広告を流している。 少し聞いてみるか……。
「時代はエコロジーです。清く正しき市民はあらゆる資源を回収・活用、その上で公衆衛生を保全しなくてはなりません。 我々ライフサークル財団はそのすべてを促進します」
「生体パーツ・大量の生体素材。 ペットや野生動物、路上で亡くなられた身元の分からないお方、ご家族でも構いません。 巡回中の回収車、又は資源回収社にご連絡いただければ、24時間迅速無料でお引き取りに伺います。 一人ひとりの市民の皆様のご協力をお願い申し上げます。」
信号待ちする私達の前で止まった白い激臭トラックを運営する財団の広告だ。
この街では野垂れ死ぬ人間は多い。
ギャング、傭兵、運び屋、ホームレスに、電撃解雇でインプラントを無効化されてショック死する企業人……将来に絶望して頭を撃ち抜く多感で繊細な少年少女、はたまた普通の市民が突然殺されたりもする。
殺しといえば強盗、サイコキラー、デジサイコ、インプラントサイコ、レイピストにブラックネットダイバー、警官・傭兵による誤射や流れ弾、遊び半分。挙げればキリがない。
当たり前の様に死が空気に含まれている様なものである。
で、それだけ死人が多ければ墓の数も足りなくなるのだろう。 適当に済ませられそうな死人はトラックに詰め込まれてサヨナラである。
流石に病院で死んだ場合は別だろうが……。
とは言え、私たちの稼業で
よっぽど死体が必要なのか、一体何に加工されているのか……やめておこう。
「熱っ」
気づくと咥えたままのタバコの火がフィルターに達していた。 半日ぶりのタバコを吸うには微妙な風景だったと少しうんざりしながら灰皿に吸い殻を押し付けて部屋に戻る。 中の方がいくらか静かだろう。
部屋に戻るとルナはダイバーベッドに文字通り背を沈めていた。 冷却用のウォーターマットがくぐもった水音を立てる。
「吸い終わったっスか? あーしはちょっと潜るんでテキトーに寛いでてくださいよ」
頸の両側にADDケーブルを接続したルナは目をキラキラさせながらこちらに言う。
「腕は大丈夫なの? 痛みがノイズになるって聞いたことあるけど」
「
「……ルナ?」
もうダイブしたらしく、目を瞑っている。
さて……どう暇を潰すか。シャワー借りたかったんだけど……。
『なんか用あったら通信いれれば出るっス』
ルナの声によく似ているが若干幼めの可愛らしい合成音声による通信が入る。
「シャワー借りていい?」
『いいっスよ。 んじゃ潜りますんで話しかけないでください』
なるほど、それでいいのね。
MACARONと手首の端末を外してバックパックを引きずりながら脱衣室へと向かう。
アウターを放り投げて汗と硝煙でベトついたインナーを脱いで、何気なく鏡を向きあう。
腹部を大きく真っ直ぐ開いた手術痕、数多の銃創痕、切創の縫合痕。 右目尻……。
仕事その他諸々の傷だ。 この街で荒事に生きていればいずれルナもこうなるだろう。
この業界に男も女もありはしない。
強ければ、あるいは運があれば生き残れる。そういう世界。
その中で八年以上を生きてきた証拠がこの傷達。
シャワールームに入り、蛇口を捻る。とりあえず髪を高圧で濡らしながら置いてあるシャンプーのノズルを押し込むーー
「ーーシャワー借りたわよ。……まだ潜ってるの?」
乾いたインナーは気持ちいいな、と思いながらルナに話しかけるが無反応。
ダイブ中の意識は回線の向こう側だ。
本格的に暇になってしまったな……トランプタワーでも作ろうかと思うが当然のことながらトランプが無い。 ホロネコは私をガン無視している。 おそらく認識していない。
あまりにもモノが無さすぎる……。
……遊び程度でネットダイブをしたことはあるが、ダイバー達が言うような体験をした事はない。それ以上に感覚を消失して意識だけで電子的な空間を行き来する間の違和感が酷かった。
速度感は基本的に瞬間移動、視界の動きも同様、オマケに距離感も現実とは違うのだからいくら走りが上手くても向こうでは赤子同然である。
あの空間で現実同様に動ける連中には勝てる気がしない。
考え事するのも暇だな……と思ってると着信が入った。
『ちょっと見てもらいたいモノあるんで、ワーステに直結してもらっていいスか』
えー……
「私ダイブ苦手なんだけど、行かなきゃダメ?」
『別に一緒にハックしろとかじゃ無いんで。向こうの方が伝えやすいんでお願いしたいんスよね……ちゃんと引っ張るんで安心してもらっていいっスよ』
まあ……ネットダイブの事はよくわからないが任せてみてもいいか、何よりこのままじゃ退屈で死んでしまう。
「わかった……ダイバーの先輩のお手並みを拝見させてもらいますわ」
『ま、確かにあーしのがネットはパイセンっスからね、うへへ』
単純にネットダイブの腕を見せたいだけじゃないのかコイツは……。
「で、どこに繋げればいいの?」
『ワーステの空いてる青い端子に。接続したらこっちから引っ張るんで頭だけ打たないようにしてから繋いでください』
「わかった」
長いケーブルがあったのでソファーまで引き出してうつ伏せに寝てから生体ADD端子に当てがう。
「じゃあ、繋ぐよ」
『オーラーイ』
接続。
「うっ!」
視界が消え、肉体の感覚が消える。
たしか、このイメージを強く思えば……
深呼吸……深呼吸……意識が肉体……意識が肉体だ……
ああ、悪寒がする……この感覚が本当に嫌いだ、心臓まで冷えるような……。
「もしもーし? 見えます?聞こえます?感じます?」
さっきも聞いた若干幼めの声だ。
「聞こえる、見えない、感じない……少し見えてきた」
電脳空間の視覚が段々と結像されていく……ザラザラとノイズに包まれた人影……少女? が近づいてきてーー
「ちょっと調整するっスね〜……てか、なんでアバターシャチなんスか」
ーーおっぱいでっか。視界がおっぱいでいっぱい。
「でっか……。じゃなくて……安いやつで体馴染みがいいのがこれしか無かったのよ」
「民生用っスよねぇコレ……脳みそどこスか」
口からこぼれたドセクハラが気にされてないようで安心した。
「シャチの脳みそとか意識した事ないんだけど、どこかしら……」
「んー……これはバイナリいじったほうが速そうっスね。ちょっとチクっとしますよ〜〜、
やっと視界いっぱいの乳が離れたが、少し距離が離れるとノイズでやはり綺麗に見えない。
「How razorback-jumping frogs……」
ハッカーチャントの単語が刻まれる度に脳がチクチクするが、同時に悪寒が収まり視覚が少しずつマシになっていく。
「can level six piqued……gymnasts!」
「うぐっ」
電撃に近い感覚が走り思わず反射的に目をつぶる。
「コレでどうっスか?」
目を開く。
視覚は現実と変わらない。体の感覚は……少しある、私に体感覚インプラントは入っていないのに。 エミュレートされてるのだろうか?
「えーっと……アンタ……ルナ、なのよね?」
辺りを見渡すと電子的なパープルの格子空間に光球が浮かんでいる。
正面にいるのは……ルナ……とは思えなくも無い少女だ。
古い日本画に描かれていたオイランの和服を大胆にモダナイズ……いや、スタイル自体は古いアニメ的?にした服装。 色合いはとても上品だが胸元と脚回りが煽情的でスパイスが効いてる。
長い脚を覆う白のガーターストッキングには伝統的な黒の紋様……麻葉紋様だっけか…?
顔周りは……アニメ的だがそれぞれの特徴は現実との共通点がある。 髪型も同じだが狐のような耳が生えている。
背後には……なんだアレ、尻尾? バカデカい、何本あるの?
あと乳がデカい。 背は変わらない。
「ルナっスよ。 カワイイっしょ?」
「言われなきゃわかんないよ、随分
率直な感想が口をついた。 ……と言うのも知り合いのハッカーは紫の煙だの、ワイヤーフレームの狐だの、顔がやたらマヌケな犬だの体操選手だのそういったアバターを使っている人間が多い。 ハッキングが得意なネットダイバーがいわゆる
「色々と
出会って最初に言ったことが本当だったことに気まずくなる。
「あー……その、ひどいこと言ってゴメン」
「? 別に謝ることじゃないっスよ。
セックスワーク自体は珍しい仕事ではないが内情を聞く事はそう無いので興味を引かれた。
「そういうのって都合よく切ってるのかと思った、それこそ性感帯だけフィードバックとか、逆とかさ」
ルナのアバターの頬が少し赤らんだ。
「まぁ、それでもいいんスけどね……どうせなら全部楽しみたいんスよ。 重さとか、肌の擦れとか、体温とか……仕事っスけど」
「真面目ね……尚更ゴメン」
「だからいいスよ。 現実で満足できる人らには関係ない話っスから」
ぐいっと
「さ、あーたの脳が焼ける前に、行って戻るっスよ」
ルナが格子の地面を蹴り、飛び上がる。
非現実的な飛翔感……視界の格子模様が高速で背後へとドップラーしていく。
早い……220km/hのバイクなんか話にならない程に。 あちこちで煌めいているのはグローバルウェブのサーバーだろうか? 無理やり知識を噛み合わせていく。
「あれ?電脳空間の移動って瞬間移動じゃなかった?」
明らかに以前ダイブした時と感覚が違う、現実に近い。
「ウチは現実と同じ感覚にしてるっス。 ヤッてる相手がパキパキ動いてたらキモいじゃないスか」
「そういうことも出来るのね……」
「瞬間移動は相当古いというか……初期状態で潜ってたんスねぇ。アレはムリっスよ、人間向きじゃない」
じゃあ知り合いのハッカー達は一体何者なんだ。
「アタシの知り合いはアレでガンガン動いてたんだけど」
「マジすか? ちょっと考えらんない……もう着くっスよ」
ブラックホールモデルのような格子の穴を通っていく。 ブロック状の物体があちこちに浮かんでいるがルナは認識した瞬間に火の玉のようなモノを放ち吹き飛ばすのを繰り返している。
「さっきから撃ってるのは何?」
「あー、表現しずらいんスけど
さらに加速する。 風圧こそ無いが凄まじい速度だ……現実換算で……いや、こんな速度は体感したことが無い……!!
正面に壁が見えた、いやこの速度じゃ死ーー
「ひッッッッッッッッッッッッ!!!」
「ここっスよ」
ーー体感速度ゼロ。 静止。 ああ、そうか。 電脳空間だもんな……。
「……マジで死ぬかと思った……アンタ、本当にネット強いのね……」
「バイクでガンガン振り回してくれたお礼っスよ。でー、ここが昨日ウチらを追い回した企業のサーバーの前っス」
どこまでも高い壁。 見上げても空は無いが何処か
「んじゃ、ちょっと取ってくるんで待ってて下さーい」
「あ、ちょっと!」
言い終わる間もなくルナの尻尾が九匹の狐になり壁の向こうへ消えていく。 アバター本体は操り人形の如く力が抜けているような様子だ。待つしか無いか。
……体感時間で5分程だろうか、現実でどれくらいの時間が経っているのだろうか。
電脳での体感時間と現実の時間は噛み合わない。移動の速度感も相まって現実に戻ると大して経過していないのが常だ。
……熱感のある頭痛を感じ始める、コレが本格的なネットダイブの負荷か……。
早く戻らないとまずい事になりそうだと焦りを感じた瞬間に狐達が壁の中から飛び出し、ルナの中へ飛び込むと尻尾が元に戻り再び体が動き出した。
「戻ったっスよ。 さ、あーしらの家に帰るっス」
再び手を取られるとーー
「もう大丈夫っス。頭痛く無いすか?」
ーー光球のある空間。 入り口だろうか…
辺りを確認している間に頭痛が引いてくる。
「……収まってきた。戻りは一瞬か、電脳だもんね」
「まー、ガラスの中は回線独立してるから早いんスよ。 海外まで行ったらこうはいかないっスよ〜」
そう言いながらルナは手元の紙切れ……ヒトガタだっけか? 実物は見たことが無いそれを流麗に地に投げると桜のパーティクルモデルが吹き上がりながら見覚えのあるビル群の立体が生成された。
……アニメ好きなんだな、しかも規制されたような古いヤツが。
「さて、これが昨日ドンパチしたビル群っス。 で、これがウチらの移動経路。 あーたが元いたビルがコレで、ワイバーンとやりあったとこがここっス」
それぞれが光点でマーキングされていく。
「で、コレが今の警戒状況。 今から被せるのが昨日までの警戒状況っス」
ビル周辺に赤い光点が大量にポイントされていった上に青い光点が少なくポイントされた。
「……コレ全部ハンター?」
「……っスね。 位置は掴めなかったスけどワイバーンもあちこち配備されてるみたいっスよ」
本当なら随分えげつない警戒強化だ……あの程度でここまでやるか……?
「ウチら、だいぶ怒らせちゃったらしいっスね……これ、ウィンストンに言っておいた方がいいんじゃないんスか?」
「……でかした。 これは役に立つわ……」
こんな警備の中に入り込んだら脱出は不可能だ。100%死ぬ。
この情報だけでどれだけの運び屋が救われるか……。
「んじゃ、連絡は任せるっスよ。 現実に帰しますんでーー」
意識がシャチから離れてーー
「っ!! あっつ!! アタシ今体温何度あんの!!!マジっっ……でっ……!!」
ーー電撃感の後、ソファを跳ね起きる。 暑い、とにかく暑い!!!
せっかくシャワーしたのにありえないくらい汗だくだ!ネットダイビングの負荷か……。
「んーーっ! 戻ったっス。 ……あはっ、汗だくっスねぇーイノセントー?」
ケーブルを抜きアウターを脱ぎ捨てて冷房はどこだと探している私をルナが背伸びしながら笑う。
「アンタ……!別にデータ持って帰ってきたのを見せてもよかったでしょ!!冷房は!!扇風機ないの!!!」
暑い!!暑い!!!!脳がゆだる!!!
「んなモンないっスよー。エアコンは冷えるの遅いんで冷えたかったら水シャワーっスねー」
ふざけんな!!
「そのベッドは!!!冷えてるんでしょ!!」
「このベッドは乙女の聖域なんでダメっス。 怪我人振り回したお礼……っスよ、イ・ノ・セ・ン・ト❤︎」
「ふざけんなクソアマ!!! ったく!!!!」
ケタケタと笑うルナに思い切り
「クソが!!助けてやったクセに!!!」
蛇口を、捻る!!!
「アーーーーーッ!!!!!」
冷水!冷水!!冷水!!!心臓が止まる!!!ヤバい!!キモチいいかも!!!!いやふざけんな!!!
開けっぱなしの脱衣所越しに大笑いする声が聞こえる。
仕返しか……アタシが悪かったか……いやラスティだって……。
後悔先に立たず、人のせいにするのはダメだ。明日からは優しくしてやろう……。
しばらく冷水を浴びて体温が正常になってきた……乾かして出るか……。
ドライヤーボタンを押す。
「………ンゥーーーーーッ!!!!」
冷風……速乾機能付きインナーの上からの冷風!!!!凍る!!! 凍る!!! 凍える!!!!
クソが!!!仕返しにしたって限度があるだろ!!!いや着たまま入ったアタシが悪いのか!!!!!これは自業自得だ!!!
「あーーひゃっ!ひっ!ひっひっひっ!!ひぃっ!いっ!ひーーっ!!だい!!!じょうぶっ!!!スか!!ひっ!あひゃっ!ひひひっ!!」
ルナの笑い声が限界に達している。私はといえば温度差による立ちくらみで意識が薄れてきた……。
「マジで覚えてろよ……」
ドライヤーが止まった辺りで、私は壁にへたり込み気絶した。
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