学院長と入学式



 王都学院入学式が始まるまで残り時間僅か。私は今、学院のどこかに居た。

 なぜどこかという表現をするのかと言うと私もよくこの場所が分からないのだ。

 最初はここに来る前に道を聞いた少女の言う通りに真っ直ぐ道を進んでいたのだが、一向に入学式会場までつかないのでついつい道を何回か曲がってしまったのである。

 そしたらこの学院、迷路のように道が入り交じっており、何時どこを通ったのかが全く分からないのだ。

 私はこの状況をどうにか出来る打開策が無いか考える。


「無い!この学院広すぎ!」


 打開策を考えた結果そのような答えが出た。なんとも悲しい答えである。

 だって私がこんなに方向音痴だとは思っていなかったんだもん。確かに昔から方向音痴とは言われていたけどここまで重度だとは思わなかったんだもん。

 私が自分の方向音痴具合に呆れていると


「はて?何が無いのじゃ?」


 急にそのような声が後ろから聞こえて私は声が聞こえた方向とは逆の方向にスタートを切り、声の主から距離を取る。しかし


「ほう。その歳でその反応はなかなかいい物があるのお」


 またもや私の後ろから声が聞こえてきた。この人私よりも格段に速い!

 この人の速さに私はシエラさんと同じようなものを感じる。

 それはシエラさんと会うのが2回目の日、突如として私の背後へと回り込んだシエラさんの事だ。

 今真後ろにいる人にはそれと同じようなものを感じる。


「だがスピードがお粗末じゃな。こんな爺さんに負けるようではまだまだじゃのう」


 そう言いながら私の真後ろに居た人は私の目の前に姿を現す。

 その姿は先程言われた通り、初老の姿であり、先程見せたスピードを出すとは到底思えないような姿であった。

 私が目の前の初老の男を見上げていると初老の男は私の顔を見て何かを思い出したかのような顔をする。


「そう言えば今日は入学式じゃったのう。はて?それならなぜお主はここに居るのじゃ?」


 そう聞かれた私はここに来てしまった理由を言う。


「あの、道に迷ってしまって…」

「なるほどのう。それなら会場には儂が連れて行ってあげようぞ。儂も入学式には行かなければならないからのう」


 やっぱりこの人学院関係者なのかな?

 でもここに居るのはなんだか怪しいし…


「ほれ、着いてこないのなら置いていくぞ」


 私が色々と考えているといつの間にか初老の男は先に進んでしまっていた。

 少しくらい考える時間をくれないのかなぁ…

 そう思いながら私は初老の男に着いて行って入学式会場へと向かうのだった。




「以上、新入生代表挨拶、アドルフ・ソレイユ・ソムラージュ様でした。続きまして学院長挨拶。ロバート・ミルス学院長お願いします」


 私と初老の男は入学式の途中で会場2階席から会場へと入った。

 私が迷っている間に入学式始まっちゃってよ…どうしよう、いきなりサボってるヤバいやつとかに見られないかな?

 そんなことを考えながらも入学式は順調に進んでおり、キラキラと輝いて見えるような男子生徒が壇上から降りているのが伺えた。

 多分あの人がアドルフ・ソレイユ・ソムラージュって人かな?確かこの国の第2王子で、って私と同じ学年に第2王子居るの!?ちょっとそれは聞いてないんだけど…


「ロバート・ミルス学院長?挨拶をお願いします」


 私が自分の学年に王子が居ることを知って動揺しているさなか、入学式では学院長が居ないと言うハプニングが発生していた。

 その異様な事態は会場全体に不穏な空気を作っており、新入生達も様子がおかしい入学式に気づいて動揺している様子が伺えた。

 そんな中でも私に話しかける人物。初老の男が私に話しかけてきた


「儂、一応学院長なんじゃが挨拶するのが面倒でのう。ほれ、ここまで連れてきてあげた礼にこの紙の内容を話してきてはくれぬかのう?」


 そう言いながら私に1つの紙を渡してくる初老の男、又の名をロバート・ミルス。

 え!?てかこの人学院長なの!?一体ここで何やってるの!?


「あなた学院長だったんですか!?と言うかそれなら今前に出ないと行けないのでは?」

「じゃからそれをお主にやっておいて欲しいのじゃよ。儂は面倒事が嫌いなのじゃ」

「私も嫌ですよ!」


 この人、シエラさん並みにと言うかシエラさん以上に変な人だぞ…


「ふむ。そしたらこの状況をどうすればいいかのう。バックれるかの?」

「もう最悪それでもいいと思いますよ…」


 この人と会話しているとなんか疲れる…

 シエラさんのような自由人と今まで長く接して来ていたから慣れたかと思ったけどまさかシエラさんを超える自由人がここに居るとは…

 と私がこの人との会話で疲れが出始めていると


「あ!ノアちゃんここに居たんだね」


 私はその声を聞いて後ろを振り向く。すると後ろにはシエラさんがいた。


「ノアちゃんダメだよ。ちゃんと入学生の居る席に座っておかないと」

「う、それはその…」


 私はシエラさんに道に迷ったとは恥ずかしくて言えないので言葉が詰まってしまう。それにまさか自由奔放なシエラさんに席はちゃんとしなきゃと言われるとは…


「まあ私も職員席に居るのが飽きちゃってここに来たんだけどね」


 あ、シエラさんはシエラさんでした。いつも通りのシエラさんです。

 そんなことを思っているとシエラさんは私の隣にいた人物に目を向ける。


「あれ?学院長ここに居たんですか?学院長もサボりですか?」

「ほほ。こうやって見ていると下で頑張っている者たちが面白くてのう。それにここで見ていれば才能のある子達も分かりやすいからの」

「あの、そろそろ行かないと司会の人とかキャパオーバーになりそうですけど…」


 私が上から見ていてそろそろ会場が不味そうだなと言った雰囲気を感じたので隣にいる学院長にそろそろ出た方が良いのでは無いかと助言する。


「確かにそろそろ不味そうじゃのう。そうじゃ、ここまで付き合ってくれたお礼に面白いものを見せようぞ」


 そう言うと学院長は席から立ち上がり、次の瞬間には会場の壇上に立っている学院長の姿があった。

 まるで瞬間移動のような動きだけど何か違うんだろうな。私は直感で学院長の動きが瞬間移動では無い事を感じる。


『待たせて済まないのう。儂が学院長のロバート・ミルスじゃ。この学院で過ごせる時間はそう長くない。その中で儂達は生徒達にこの学院で学べることを叩き込む。今年の新入生には才能を持った子も多いからのう、儂は今からお主達がどう成長するか楽しみじゃわい』


 そう言い終わると学院長はその場で片手を前に出す。

 そしてその片手に魔力が集まり、次第に1つの魔法を完成させた


『この魔法は光魔法でも1番簡単な魔法、光球ライトじゃ。魔法とは1番簡単なものから始まり儂は1番簡単なもので完成されると考えておる。儂のこの考えに辿り着ける者がおることを儂は楽しみにしているぞ』


 そう言って学院長はその場から離れた。

 学院長の話が終わると私にシエラさんが話しかける。


「ノアちゃんはさっきの魔法の意味、分かったかしら?」

「はい。あれ程までに洗礼された光魔法は初めて見ました」


 私のその答えにシエラさんは納得した表情を見せる。


「それなら大丈夫そうね。それとここでは私の事を先生って呼んでね」

「分かりました。シエラ先生」


 そう言ってシエラ先生は去っていった。

 先程見せてもらった光魔法。私もその領域に達する事が出来るのかな?

 そんな思いを胸に残りの入学式を上から眺めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生したら転生先が崩壊寸前の世界だった件 @tomonomicya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ