学院と出発



「ノアちゃん、魔法を使う時はもっと力を抜いて」

「はい!」


 シエラさんに魔法を教わるようになってから早くも2年半が経つ。

 私は7歳になり、もうそろそろ8歳も見えるような頃合だった。

 シエラさんから学んだことは魔力制御と属性魔法についての2つ。特に魔力制御に関してシエラさんはかなり力を入れているらしく、魔法を使う時は魔力の無駄をなるべく少なくするようにといつも口を酸っぱくして言われている。


 そう言えばシエラさんの他にもう1人、私の魔法の講師をしたいと言っていたロリコン男はと言うと…




「おい!私が講師をすると申しておるのに勝手なことをされては困るぞ!」


 2年以上前、怒りで顔を赤らめて私とシエラさんが魔力属性を調べている時に入り込んできた男がいた。

 そう言えばシエラさんに魔法を教えて貰えるってことで着いてきたけどこの男も私に魔法を教えたいとか言っていたんだっけ?

 でも確かこんなまだ5歳程度の女の子(見た目は)に欲情するような視線を向けるようなロリコン男。今も怒りで隠しているつもりなのか分からないが、私に欲情した視線を未だに向けており、その視線を感じた私はシエラさんの影に入り、男からの視線を切る。


「何か言ったらどうなんだ!私に無許可でこんなふざけた真似をしやがって」


 男のことを私達が無視していると男は今にでも殴りかかってきそうな勢いで私達の方へと向かってくる。

 その様子を見ていたシエラさんはため息を着くと男に向かって話しかける。


「これ以上こっちに来るようならそれ相応の対応をさせてもらうよ。それに私がこの子の講師をすると決まったのは昨日。それよりも後にやってきておいて講師は私がやるって言うのは問題行動なんじゃないのかな?」

「ふん。お前のようなちっぽけな女に貴族令嬢の講師は似合わないと思ってな。講師の変更は私の善意だ」


 自分の行動は善意だと意味分からないような事を言いながら男はこちらとの距離をどんどん詰めてくる。するとシエラさんが


「近づいたね。さっきも言った通りそれ相応の対応をさせてもらうわ」


 そう言いながらシエラさんが人差し指で男の方を指す。

 シエラさんは何をするつもりなんだろう?と思いながらその光景を見ていた次の瞬間、男が突然明後日の方向へ飛んでいってしまった。

 今、一体何が起こったんだ?

 魔法のある世界だからある程度何か変なことが起こったとしても不思議では無いのだが、今のは魔法と言われても理解が出来ないような光景だった。

 私は今起こった光景がなんだったのか知る為にシエラさんに聞いてみる。


「シエラさん、今のは?」

「んー簡単に言えば魔力で攻撃しただけかな?」


 魔力で攻撃?

 魔力を魔法にして攻撃すると言うのは聞いていたけど魔力そのもので攻撃すると言うのは聞いたことがない。

 私は魔力での攻撃に興味を持ったので更に質問する。


「魔力で攻撃はどうすれば出来るのですか?」

「それは内緒。ノアちゃんも魔法を極めていけば必ず分かる時が来るわ」


 魔力での攻撃方法を知りたかったのだが恐らくシエラさんは教えてくれないのだろう。残念だ。

 あれ?今完全に魔力での攻撃に気が取られていたけどあの男って一体どうなったんだ?

 まあ私にこれから関わってこなければなんでもいいか




 とまあそんなことが2年以上前にあった。

 因みにあのロリコン男はあの後どこかの一軒家に刺さっていたところを発見されて命には別状は無かったみたいだけどかなりの大怪我をしたらしい。

 大怪我をした後のロリコン男はシエラさんに恐怖心が植え付けられたらしく、あの後一切私達に関わることは無くなった。

 とりあえずめでたしめでたしかな?


「そう言えばノアちゃん。ノアちゃんは来週から王都学院に入学することになっているんだっけ?」


 私が昔のことを思い出しているとシエラさんはそう私に聞いてきた。


「父の話ではそうらしいです」

「そっかぁ、そうなるとこうやって魔法を教えてあげられるのも後少しってことになっちゃうのか」


 うーんとシエラさんは何か迷った表情をして後こう言った。


「よし!それじゃあ私も王都学院に行こう!色々手続きとかあると思うから1週間くらい魔法は自主練ってことでお願いね」


 そう言ってシエラさんは屋敷から飛び出して行ってしまった。

 前々から薄々分かっていたけどシエラさんって自由奔放な性格だよなぁ

 私は屋敷から出るシエラさんの後ろ姿を見てそう思う。


 それにしてもシエラさんも王都学院に行くって一体どうゆう事なのだろうか?

 私はその疑問を持ちながら言われた魔法の自主練をするのだった。















 あれから1週間。私はついに王都学院へと旅立つ日がやってきてしまった。

 と言っても王都学院からこの屋敷まで1時間もかからずに帰ってくることは可能なので帰ろうと思えばいつでも帰ってこれる。

 なので特に私は家族と離れることが寂しいとかそう言うのは思う事がなく、ちょくちょく時間がある時は帰ってくればいいかなと言った感覚で学院へ向かう気持ちでいる。

 そのことを家族や使用人の人達は知っているので軽い気持ちで私のことを見送りに来てくれている。


「姉様、姉様が行くところに僕も必ず行きます!」


 そう言うのは私の大好きな弟であるシュルク。

 実はシュルクは昨日、私が明日から屋敷にいなくなると聞いて大号泣してしまい、家族総出でシュルクを慰める事態にまでなってしまったのだが、私が定期的に帰ってくることを言うと「ほんとですか?」と聞いて泣き止んでくれた。

 まさか私も私がちょっと居なくなるだけでこんなにも大号泣されるとは思っていなかったので昨日は本当にどうしようか悩んでしまったくらいだ。


 それにしても今日もだけどシエラさんが屋敷に来ていないなぁ

 シエラさん、私のお見送りは絶対に行く!って感じの雰囲気だったけど未だにシエラさんの姿は見えない。

 またどこかで寄り道でもしているのかなぁと思いながら私が王都学院に向かうソヴァール家の場所に乗ろうとしている時だった。


「ちょっと待ってー!私も乗せてー!!!!」


 そう大声を出しながら屋敷の方へ走ってくる人影。うん、シエラさんだ

 シエラさんは馬車までの距離を数秒で詰めると馬車に乗ろうとしている私の前で急停止する。その時に普通なら砂埃とかが起きそうなものなのだが、シエラさんはそういったものを一切起こさずに私に話しかける。


「ノアちゃん聞いて!私この1週間頑張ってこんなのを貰って来たの!」


 そう言ってシエラさんが取り出したのは1枚の紙。その紙には何かが書いてあってそれを私は読む。


「王都学院教員免許証?」

「そう!元々教員にならないかってお誘いは来ていたんだけどなかなかやる気にはならなくて忘れてたんだよね。だけどノアちゃんが王都学院に行くって聞いたら突然このことを思い出してノアちゃんいるし教員になってみようってことで教員になってきたんだ」


 そんな簡単に教員を選んでいいのか王都学院……

 まあ確かにシエラさんって魔法の技術は1級品だし魔法無しの近接戦もまあまあ出来る。そんな人を学院側も雇いたいのだろう。性格とかはちょっと変なところあるけど


「という事で私も一緒に王都学院に行けるわ!パトリさんとお姉さんーノアちゃんは私が守るから安心してねー」


 そう言うシエラさんに父はため息をついて「逆に心配だ…」と言ってたけどま、まあシエラさんも大人だしそこのところは大丈夫だと思う。多分。

 どちらにしろこれから王都学院で誰も知らない環境ってところよりも知ってる人が1人でも居る方が安心できるしそれがシエラさんなので私としては嬉しい限りだ。

 そう思いながら私はシエラさんと共に馬車の中に乗った。

 馬車の中は私が乗るということもあってこれ以上にないほど綺麗にされており、匂いも私が好きでいつも部屋に置いているルームフレグランスの匂いがした。

 馬車の中を私好みにしてくれている使用人の人に心の中で感謝し、馬車の中に座る。

 私が座るとシエラさんも馬車の中に乗り込み、私の隣へと座る。私の隣に座ったシエラさんはとても嬉しそうにしながら私のことを見ており、そんなシエラさんに私がキョトンとした表情をするとシエラさんは私に思いっきり抱きついてくる。


「やっぱりノアちゃん可愛い!私の娘になって欲しい!」

「わ、私には家族がいるのでシエラさんの娘には…」


 そう言うとシエラさんは残念そうな表情をして私のことを更に強く抱きしめる。

 シエラさん、残念そうな顔していますけど行動は諦めてないですよ…


 そんなことをしていると馬車の前に乗っている御者の人から「そろそろ出発します」と言われる。

 私が「大丈夫です」と言うと御者の人は馬に指示を出して馬車は出発した。

 これから向かう王都学院で何があるのか私にはまだ分からない。

 友達、出来るといいなぁ

 そう思いながら私はシエラさんと共に王都学院へと向かうのだった。

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