魔法
シエラさんがソヴァール家の屋敷に来た次の日、ソヴァール家の屋敷にまた別の客人がやってきていた。
その客人はどうやら私に用事があるらしく、私は昨日と同じようにメイド達に身の回りの支度をされて応接間へと向かう。
日頃客人の来ないソヴァール家に2日連続で客人が来ることもそうだが、なんだか私に用事があるって言うのが嫌な予感がしてくるんだよなぁ
そう思いながらも私は応接間の中へと入る。
応接間の中には私の父ともう1人、私を呼び出した客人の男が父の反対側に座っていた。
私は応接間に入った時、一応名前だけは言って挨拶はしておく。そんな私をじっと見つめる客人の男。その目線は私のことを隅々まで舐め回すようなもので、それを感じた私は物凄い寒気に襲われてこの場をとっとと離れたくなった。
それでも一応は私への客人らしいのでこの場を離れられない。せめてもの救いは父がこの場にいてくれるってことかな
私は応接間に座っている父の元へと駆け寄り、いつもなら少しだけ距離を置いて座るところを今回は父にピッタリとくっつくようにして座る。
そんな私の行動を見た父はどうやら何かを察したらしく、私の頭を撫でると目の前にいる客人の男に話しかける。
「それで本日はどのようなご要件で?」
父はあえて明らかに相手を下に見る態度で客人に接する。
わお、父って親バカイケメンパパって感じにしか思っていなかったけど、こんな貴族のような顔も出来るんだ。
私は内心初めて見る父の姿に驚きながら客人の方へと視線を向ける。
客人の方を見てみるとどうやら先程の父の態度が気に食わなかったらしく、明らかに顔をこわばらせて父の質問に答える。
「城の方にたまたま寄ったところソヴァール家のご令嬢が魔法の講師を探しているとお聞きしまして。それで本日僭越ながら魔法の講師として参らせて頂いた所存でございます」
「そうでしたか。しかし残念ながら私の娘、ノアには先日、魔法講師が付きましたので今回の話は御遠慮させて頂こう」
この客人はどうやら私の魔法の講師をしたいみたいだ。しかし私にはもうシエラさんと言う魔法の講師が決まっているのだ。
しかもシエラさんは母の妹でソヴァール家との関係もかなり良いと言っていい。それに比べて目の前の客人は私に淫らな視線を向けて私を怖がらせた挙句に私の魔法の講師としてやって来たと言う。
そんな人に私は魔法を教えて貰いたくないし、父もこの客人の視線には気づいているので私の講師として付けることは無いだろう。
「それではここであった話は無かったと言う形でよろしいですね?またいつかご縁がありましたらその場合はどうかよろしくお願いします」
そう言って父は話を切り上げようとした。しかし
「待ってくだされ!確かに私が一足遅かったことは認めましょう。しかし私の魔法の実力は確実なものがあります!それこそ伯爵令嬢に魔法を教えることも可能な程に!」
客人は父に他に人がいるのでと拒否られたのにまだ私の講師になろうと食いついてくる。
その様子に私は面倒くさと思いながらもどうするか考える。
すると私の頭の中に1つの案が思い浮かんだ。
私はその浮かんだ案を父に伝えるために父の腕を軽く揺らして顔を父の耳の方へと近づける。
父は私がしたいことに気づいたらしく自らの体をかがめて私の話を聞きやすい体勢になる。
こしょこしょと私が父に話すと父は私の案に賛成なのか私にニコッと笑って客人の方へと向き直った。
「それでしたら今日、ノアの魔法講師をする方が屋敷にこの後やってくるとのことなので戦って勝った方に魔法講師を務めて貰うと言うのはどうでしょうか?」
そう父が聞くと客人はよっぽど自分の実力に自信があるらしくその話を了承した。
それから数十分後。屋敷の門からシエラさんが屋敷の中に入ってくる。
屋敷に入ってきたシエラさんは誰かを探しているのか周りをきょろきょろしていた。
とりあえず私はその光景がなんだか面白く感じてしまいシエラさんから隠れるようにシエラさんを観察する。
シエラさんはやがて探すのを諦めたのか、その場で立ち止まってしまう。
そろそろ向かった方がいいかな?私がそう思い、この場から出ようとするとシエラさんが突然消えた。
どこ行った!?というか完全に見えなくなったんだけど!?
突然消えたシエラさんに私が戸惑っていると
「ノアちゃんみっけ!会いたかったんだよ〜」
そう言って私を後ろから抱きしめて頬を擦り寄せてくる女性。シエラさんだ。
でもどうして一瞬でここまで来ることが出来たんだ?さっきシエラさんがいた場所からここまで目測だけど50m以上はある筈だ。
そんな距離を一瞬にして詰めたシエラさん。一体どんな身体能力しているんだ…
「それで確か今日から魔法を始めるんだったよね?今日は色々と調べないといけない事もあるし早速やっていこうか」
そう言うシエラさんに私は「その事でちょっと…」と言って先程あったことを話そうとすると。
「さっきパトリさんから聞いてるよ。なんか私の他にノアちゃんに魔法を教えたいって人が居るんでしょ?それでその人と私が戦って勝った方がってやつだよね?」
私がそれに「はい」と答える。さすが父だ。なんだかんだ仕事がとても早い。
それなら早速あの客人の男との戦いを。と私が思っている時だった。
「んー面倒だし時間の無駄だしその客人の男の人は無視でいいかな。もし仮にその人が絡んできても私が追い払ってあげるからノアちゃんは安心して私の後ろに隠れていなよ」
「えっと…それだと父が…」
「いーのいーの。面倒ごとはあなたのお父さんのパトリさんに任せて私達は魔法について話しましょう」
そう言ってシエラさんは私の手を強引に握って屋敷の庭へと目指す。
まあ確かに面倒ごとは大人の人に任せるのが1番なのかな?シエラさんも大人の人な気はするけども
私は少し腑に落ちないところもあったが、面倒ごとをしなくてもいいならしなくていいやと思い、シエラさんについて行くのだった。
「さてノアちゃん。ノアちゃんはどこまで魔法を知ってるかな?」
シエラさんに突然そう聞かれた私はセバスから少しだけ教えてもらった魔法についてを思い返す。
「魔法は魔力を使って起こす現象のこと。魔法を使うには自分の魔力か魔力生命体の魔力を借りて使う方法があると教わりました」
私はセバスに言われた事を殆どそのままシエラさんに伝える。
シエラさんは私の答えに満足した様子を見せて持ってきていた荷物の中から何かを取りだした。
「それが分かっているなら大丈夫かな。補足をするなら魔法を使うのはイメージが大切ってことかな。詠唱とかをしてもイメージがなければ魔法は使えないし。逆にイメージさえあれば詠唱無しでも魔法を使うことは出来るよ」
なるほど。という事はよくファンタジーものの物語である長くてちょっと恥ずかしい詠唱とかはしなくても魔法は使えるということか。
もし詠唱が必須だったらちょっと魔法から離れていたかもしれない。
「その他にも魔法と魔力には属性っていうものがあって、今日は私が持ってきたこの装置を使ってノアちゃんの魔力属性を見ていこうと思うんだ」
そう言ってシエラさんはさっき出した道具を私に見せつけるように目の前に持ってくる。
「この装置は真ん中に手を置いてもらえれば後はこの装置が勝手に魔力を少しだけ抜き取って魔力属性を調べてくれるんだ。それじゃあ早速魔力属性を測りたいからこの場所に手を置いてくれるかな?」
シエラさんは魔力属性を測れる装置の真ん中部分を指さして私が手を置くように促す。
それに従って私は真ん中の部分に手のひらを置いた時だった。
なにこれ?なんか勝手に体から何かが抜けた感じがする?
そう私が思った瞬間、魔力属性を測る道具を見ていると眩しく感じるほどに道具が光出した。
「おお!これはなかなかの才能だね。どれどれ?ノアちゃんの魔力属性は光魔法と無属性だね。光属性はなかなか適正ある人が少ないから珍しいね!ソヴァール家にも光属性の人は居なかったと思うし、もしかしたら前世か何かで光属性に関係する何かに関わっていたのかもね」
そういうシエラさんの言葉を聞いて私は何故なのか理由を考えてみる。
前世は特に光属性を持ちそうな事はしてなかったと思う。なんなら闇属性と言われた方がしっくりくるかもしれない。
せめて言うなら転生する前にあった神様だったりかな?
んー考えてもよく分からないし今はとりあえずこのままでもいいかな。
そう結論付けた私は手のひらを道具から離す。
道具から手を離してシエラさんの方を見ると、シエラさんは「光魔法から始めようか無属性の魔法がなんなのか調べるのが先か迷うなー」と独り言を呟いていた。
そう言えば無属性もあったっけ?無属性って聞くとどんなものなのかよく分からないけどいつか分かるかな?
「あの、シエラさん。私はこれからどうしたら?」
「あ!ごめんねちょっと1人の世界に入っちゃってた。とりあえず最初は魔法について何も知らないだろうし魔法に触れ合うところからかな?」
そう言うとシエラさんは突然手のひらサイズの岩を作り出した。
「ちなみにこれが魔法だよ。突然普通では起きないようなことを起こすのが魔法。今出した岩もそうだしノアちゃんがこれから覚えていく光属性の魔法もそう。魔法は常識に囚われるものでは無くイメージ通りの現象を引き起こすための材料よ。この小さな岩だって」
シエラさんは手に持っていた手のひらサイズの岩を私達のいない方向に軽く投げる。
「魔法はイメージ。イメージさえ出来ればどんな魔法も使うことは可能よ」
そう言ってシエラさんは投げた岩の方に手を向ける。その時だった
先程まで小さかった岩が突然巨大化して大きさが私の大きさやシエラさんの大きさを軽く上回る程の大きな岩が完成した。
「どお?これが魔法よ。魔法は属性はあるけど基本的になんでもできるようになるもの。自分のやりたいことを叶えてくれるものが魔法よ」
「魔法はどんな事でも出来るようになるの?」
私はシエラさんにそう聞く。なぜそんなことを聞いたのか特に私は気にしていなかったが、もしかしたらあの事をまだ考えてしまっていたのかもしれない。
「ええ。なんでも出来るわ。けど難しいものになればなるほど努力は必要になってくるわよ」
「はい!シエラさん、これからよろしくお願いします!」
これが私とシエラさんが一緒に過ごすようになる物語の始まり。
今後私はシエラさんから沢山のことを学び、経験して私の”目的”を達成できるようになれるのか。
それはまだ誰もが知らない話なのであった。
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