第2話 はちゃめちゃなすれ違い
——放課後。
出席番号順で回ってくるクラスの掃除当番を真田と2人でやるように言われた俺は、帰りのHRが終わっても教室に残って掃除をすることに。
放課後の気の抜けた空気が眠気を誘う。
気だるさを覚えながらも、俺はほうきを手に掃除を進めた。
掃除当番の話を小川さんから聞いた時、ギャルの真田は間違いなくバックれると思ってたんだが……。
「…………」
真田はちゃんと教室に残ってほうきで掃除をしていた。
黙々と掃き掃除をする真田。
悪びれる様子をもなくテキパキこなす姿は目を見張るものがあった。
(真田ってギャルっぽい見た目からヤンキー気質なイメージがあったけど、意外としっかりしてるのかな?)
確かに真田は見た目に反して、他の派手な見た目の
そんなことを考えていると、真田がやけにこちらを睨んで来た。
野生の鹿を射止めるハンターのような目で『ギロッ』と睨まれた俺はその場で萎縮してしまう。
な、なんだ?
やっぱりヤンキーだから俺を威嚇してるのか?
いや、ちょっと待て。
もしかして手が止まってる俺を怒っているのか……?
「え、えっと、ごめん……俺、手を止めちゃって」
とりあえず謝って俺が掃除に戻ろうとしたその時——。
「……ちがっ」
突然、真田が反射的に何か言おうとしたみたいだ。
普段は鉄仮面の無口ギャルが、少し困惑した様子でほうきを片手に、肩に垂れた金髪をクルクルと弄り始める。
「さ、真田?」
今、しゃべった……よな?
普段は無口な真田妃依が、シャベッタ……?
某ハッピーなセットのCMで異次元にはしゃぐガキが脳内を支配する。
「…………っ」
真田は何か決心したような顔つきになると、急に俺の目の前まで一歩、また一歩と闊歩して来る。
(なんで闊歩なのか分からないが、もしかして喧嘩でも始まるのか? 殴られるの俺?)
「そ、掃除……」
「え?」
「……楽しい、ね」
それが無口ギャルとして有名な真田妃依が俺に対して初めて発した言葉だった。
『掃除が楽しい』……何かの隠語なのか?
ギャルってよく分からん。
しかし、このまま何も返さないわけにもいかない。
会話はキャッチボールだ。
真田は『楽しいね?』と言ったんだから、俺はそれに対する反応を示さねば。
「そ、そう! だよな! 楽しい、よな、掃除! 俺も大好きっていうか!」
案の定、テンパる。
口下手な俺が金髪巨乳ギャルと話すというシチュエーションを普通の人で例えるなら、寝起きで米国の大統領と流暢に会話しろ、と言っているのと同じくらいのハードルだ。
(てか、真田ってめっちゃ良い匂いするな……まるで花畑にいるみたいだ)
テンパった上にそんなキモいことしか考えられない俺に対して、真田はポカンとした顔でこちらを見ていた。
「…………」
また無口モードになった真田は、ほうきを両手に持ち直すと掃除に戻っていった。
ああ……絶対真田にキモい男って思われたよな。
そりゃ、真田からしたら挙動不審のヤバい奴に見えてるだろうし。
(ま、いいよ。俺と真田じゃ生きてる世界が違うわけだし)
真田一人に嫌われたところで何も変わりゃしない。
そう思いながら俺も掃除に戻るのだった。
☆☆
(やっばぁい!! ついに推しと会話しちゃったんだけどアタシ!)
脳内で何度も流れるさっきの会話のキャッチボール。
『進藤くん、掃除楽しいね?』
『ああ、そうだね妃依』(言ってない)
完璧な会話。
まるで彼氏と彼女みたいな関係。
進藤くんめちゃ肯定してくれた。
クールな所も好きだけど、優しいカレピ要素もあって良き良き。
誰かと話すのは大嫌いだけど……進藤くんとは、もっと話したい。
(こんな気持ちになるのは、初めてかも)
にしてもさっきのアタシ頑張ったなぁ……。
久々に校内で会話をしたかもしれない。
アタシが達成感に酔いしれていると、突如として教室の引き戸がパシャリッと開け放たれる。
「やっほー、やっくーん! 帰ろー!」
(……は?)
赤毛の快活そうな見た目をしたショートヘアの女が教室に乱入して来ると、進藤くんに抱きついた。
リボンの色からして2年生……年上彼女?
「おい、離れろよ……」
「いいじゃーん」
な、なな、なにこれ……っっ。
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