無口ギャルは口下手な俺と"話したい"らしい。

星野星野@2作品書籍化作業中!

第1話 無口なギャルと口下手な俺


 俺が通う私立流新館高校しりつりゅうしんかんこうこうにはがいる。


 1年B組、出席番号11番の真田妃依さなだひより

 前髪ぱっつんのブロンドヘアに、耳にはピンクパールのピアスと首元には黒のチョーカー。

 背丈は女子にしては高めの160後半もあり、たぷんと豊かに育ったその重たそうな胸は、着崩した制服のシャツから魅惑の谷間を覗かせる。


 真田は普段からギャルメイクをしており、見た目は完全にギャルそのものなのだが、すっぴんでも整っているのが分かるくらい顔立ちは端正……。

 ただ、彼女の1番の特徴は"ギャル"であることではない。


「次の問題を……じゃあ真田、答えろ」


 数学の授業中、先生から指名された真田は、椅子から立ち上がると真顔で腕を組んだ。


 肩に垂れた金髪をくるくると弄りながら黒板の方をジッと見つめている。


「お、おい真田?」

「………」

「早く答えを」


 先生が催促すると、首を傾げる真田妃依。


「ま、またか……解き方が分からないなら分からないとしっかり言えっ!」


 こくりと頷いて席に座り直す真田。

 クラス中からはドッと笑いが起きる。


「でた、真田の無言スルー」

「さすが無口ギャル様は健在だ」

「あれで許されるのいいなぁ」


 そう、真田妃依は——無口なのだ。


 ギャルと言ったら騒がしいのが当たり前なのに、真田に関してはほぼ無口でクール。

 何を考えているのかも分からない不思議ちゃんとしても有名なのが真田妃依だ。


「じゃあ代わりに進藤、答えろ」


 そして次に指名された「進藤」こと俺、進藤八雲しんどうやくもも立ち上がる。


「え、えと…………」


 実は俺も——真田のことを言えないくらい、人前で喋るのが苦手だ。(あとシンプルに数学も苦手)


(答えが分からないと正直に言いたいが……)


「その……」

「はぁ……進藤お前もか。ったくデカいのは図体だけで頭は空っぽなのか?」

「す、すみません」

「もういい、ここの答えは——」


 俺は恥ずかしくて俯きながら席に座り直す。


(はいはい。どうせデカいのは図体だけで脳みそは小さいよ)


 俺が心の中でふてくされていると、右隣に座る真田がやけに俺の方を見てきた。

 もしかして真田は、俺のことを馬鹿にしているのだろうか?


(なんだよ、自分も答えられなかったくせに)


「真田! 進藤! お前ら分からなかったんだからしっかり解説聞いておけよ!」


「は、はい……」

「………」


 先生に怒鳴られて、俺たちは黒板の方に目を向ける。


 真田みたいな目立つギャルの隣の席だと、この手のとばっちりを喰らうことが多くて嫌だな。


 心の中でそう思いながらも、俺はシャーペンを握った。


 ☆☆


 授業後の昼休み。

 すぐに昼食を済ませた俺は、机に突っ伏しながら寝たフリをして過ごした。


 俺、進藤八雲には友達がいない。

 俺は昔から思っていることを口に出すのが大の苦手だった。

 友達と遊びたくても口下手で誘えなかったり、小学校でやった演劇も、本当は主人公の桃太郎をやりたかったのに、言い出せないまま木の役になったりして……。


 幼少期からそんな感じで自分の主張を口に出すのが苦手だった俺は、友達の輪に加わるのも難しくいつもぼっちだった。


 別に性格が捻くれているわけではなくて、友達は欲しいのに口下手で口数も少ないから必然的に一人になってしまうのだ。


 さらにぼっちに拍車をかけたのは中学時代の成長期。

 特にスポーツをやっていたわけでもないのに、身長だけがぐんぐん伸びてしまい、高校に入る時にはすっかり180を超える身長になっていた。


 口下手な上に図体も無駄にデカい男。

 こんな俺と友達になりたがる奴なんていないに決まってる。


 悲観的な気持ちでいると、突っ伏していた俺の腕にピタっと何か冷たいモノが当たった。


「え……?」


 顔を上げると、まるでお供物のように机には小さい紙パックのアップルジュースが置かれていた。

 辺りを見回すが、誰が置いたのか分からない。

 ふと、隣を見てみるとそこには全く同じアップルジュースを啜る真田妃依がいた。


「…………」

「…………」


 こ、これはアレか?

 真田がくれた、的な……?


(え? マジで何で!?)


「えと……真田?」

「…………」

「これ、真田がくれたのか?」


 俺が訊ねると、真田はすっとそっぽを向く。

 と、とりあえず礼を言った方がいいかな。


「あ……ありがと、真田」


 真田がくれたのかどうか分からないが、俺はありがたく受け取る。

 まぁ、ちょうど喉が渇いてたしな。


「……こちらこそ、さっきはあんがと」

「えっ」


 今、背を向けた真田から何か聞こえたような……き、気のせいか?


(そ、そうだな、俺は真田にお礼を言われることなんてしてないし、真田が喋るところなんて見たことないしな)


 もし本当に真田からのプレゼントだったら真田のファンにぶっ殺されるし。あはは。


 そう思い、俺は謎のアップルジュースを口にした。


 ☆☆


(や、ややっ、やっば!!!)


 高校に入学して1ヶ月。

 ついにに、アタシの大好きなアップルジュースあげちゃった!


(しかもお礼も言われるとか……はぁはぁ、ヤバい、尊みがヤバい、死ぬぅ)


 アタシは進藤くんに背を向けながら、真っ赤になった顔を隠してアップルジュースを飲む。


 アタシ、真田妃依は中3まで根暗で無口な地味子だった。

 ある日、中学でちょっとした事件があって、そんな自分が嫌いになったアタシは、自分を変えようと決意して『ギャル』になった。

 しかし、見た目はギャル雑誌とか動画とかで勉強しまくって完璧になったけど、喋るのだけは地味子時代と変わらず苦手なまま。


 そんな感じで生活していたら、周りから『無口ギャル』と揶揄されるようになり、それに慣れてしまったアタシは次第に自分から周りに話しかけることもなくなっていた。


 そんな中、進学した高校で出逢ったのが——進藤くんだった。


 私立流新館高校1年B組の出席番号12番、進藤八雲しんどうやくもくん。


 身体が180以上でバスケ部みたいにめちゃデカくて、胸板も厚くて、見た目からしてマジ男って感じなのに、口数が少なくて友達を作らない、クールな雰囲気のある男子。


 進藤くんは見た目だけじゃなくて雰囲気もマジでカッコいい。

 多くを語らないクール男子なのに、さっきみたいにお礼を言って来たりして……そのギャップが尊い。


 さっきの数学だって、聡明な進藤くんが問題を間違えるはずがない。

 きっとわざと問題を間違えて道化を演じることで、アタシが分からなかったことをカバーしてくれたんだ。

 優しいし身体クソデカいし、男って感じがマジで推せる……しゅきぴ……。


「真田さん進藤くん、ちょっといい?」


 アタシたちの前に座る小川さんが、こっちに振り向きながら声をかけて来る。


(なんなん? 今アタシは余韻に浸ってるんだけど)


「今日の放課後の掃除当番は二人だからね? 頼んだよっ」


 掃除、当番?

 あっ、出席番号順で回ってくるアレ……ん?


 つまり、進藤くんと放課後に二人きり……か、かか、か、神イベキタァァッ。

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