第5話 「五輪書 水の巻」

宮本武蔵とは、決まった定石などないケンカ剣法思想(スタイル)ですから、毎回同じ戦い方をしたというわけではない。相手という人間や戦う場所・様々な環境的要因、そして定石(科学)という「場と間合いとタイミング」によるオーダーメード格闘技(心理・物理・真理)なのです。

武蔵が死の直前に書き残した「五輪書」とは、彼の人生60年、60数度の戦いから抽出した定理・法則の一部です。



1 水之巻序  

2 兵法心持ちの事  

3 兵法の身なり 

4 兵法の目付け 

5 太刀の持ちよう 

6 足づかい 

谷さんの足づかい。

7 五方(ごほう)の搆(かまえ) 

8 太刀の道  

9 表(おもて)第一 中段の搆え 

10 表第二 上段の搆え 

11 表第三 下段の搆え 

12 表第四 左脇の搆え 

13 表第五 右脇の搆え 

14 有構無構のおしえ

15 一つ拍子の打ち 

16 二つのこしの拍子 

17 無念無相の打ち

  まともに打ち合えば50/50の確率。

  しかし、真剣で殺し合いをする武蔵がそんな危ういことをするはずがない。

  ここに「火の巻」の意味がある。

  岡崎さんは、「火の巻 4枕をおさえる」攻撃によって、谷さんの行動を押さえ込み、3回目の試合開始直後、この無念無想の打ちに持ち込み、打ち合いに勝ちました。

本来、無念無想の打ちというのは丁半博奕であり、やってはならないこと。

岡崎さんのように、事前に相手にプレッシャーをかけて押し込んでおいてから行なうべき攻撃なのです。

ここに、武蔵が「水の巻」と「火の巻」とに書き分けた理由がある。

「水の巻」で語られた目に見える戦い方とは、「火の巻」に提示された心理的な戦い方とセットにして運用すべし、ということなのです。

  

18 流水の打ち 

19 縁の当り 

20 石火の当り

21 紅葉の打ち 

22 太刀にかわる身・身にかわる太刀 

23 打つと当る 

谷さんの蹴りとは;

① 組み打ち主体の相手を寄せ付けないための「威嚇」の蹴り → 当たる

② 一本を取るための「本気の蹴り」 → 打つ

という使い分けをされているようです。


24 しうこうの身

岡崎さんは、拳を打つでもなし、押さえ込んで組みで倒そうというわけでもない。

ただただ、くの字に曲げた両腕で相手に接近し、押し込む。

そして、次の「25 漆膠の身」によって、くっついて離れない状態で(相手の心を)押し込む。

25 漆膠(しっこう)の身 

(「兵法三十五箇条」28. 漆膠の突きと同じ)

「相手にくっつかないで間を空けると、相手がいろいろと技をするので、敵にピタリと体を寄せる。


岡崎さんは

① 「水の巻24.しうこうの身」で相手に接近し、

② 「同 25.漆膠の身」でピタリとくっつき、

③ 「火の巻 4.枕をおさえる」によって、相手が先に攻撃しようとする心を押さえ込んでしまう。

④ そして、「水の巻 17 無念無相の打ち」によって、仕留めたのです。


26 たけくらべ 

27 粘りをかくる 

28 身のあたり 

29 三つの受け 

30 敵の顔を刺す 

31 敵の胸を刺す 

32 喝咄(かつとつ)

33 張り受け 

34 多敵の位

35 打ち合いの利 

36 一つの打ち 

37 直通(じきつう)の位 

38 水之巻後書


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る