第12話 ほんとうに二人は
――ああ、ラキは鳥人の一員として認めてもらえてるんだ……。
嬉しくて満面の笑顔になったラキは、ふとガルーバンの方に視線を向けて、あることを思い出した。
「そ、その、ガル? 今日、誕生日だった、のか?」
「ああ。まあ、ラキは俺の誕生日など覚えていないだろうと思っていた」
「あ、うう」
ラキ自身が覚えていなくても、3日も寝込んでいなければ気が付けたはずだ。何のプレゼントも用意できなかったことが、今となっては悔しい。
「気にするな。プレゼントはこれからもらうさ」
にやりと笑われても、ラキは申し訳なさが増すばかりだ。そんなラキを、ガルーバンはやすやすとその腕の中に閉じ込めると、そのままふわりと飛び上がり、凛とした声で集まった民たちに告げる。
「みんな、今日は俺のため、ひいては一族のために集まってくれて感謝する。俺はこのラキと、これからの鳥人の未来のために尽くしていく。どうかみんなの力を貸して欲しい」
ガルーバンの言葉に、再び歓声が湧き上がる。
「今日は存分に飲み、食い、歌い、楽しい時間を過ごしてくれ」
てっきりその歓喜の渦の中に降りるのだと思っていたラキだったが、ガルーバンはそのまま崖の途中にある岩窟を利用して作られた新しい家にラキを連れて行った
「新居だ」というガルーバンに、ラキは呆れるしかない。どこまで準備万端だったというのか、つい先ほどまでガルーバンの嫁にはならないと言っていたラキがまるで馬鹿みたいだ。
本当はとうの昔にガルーバンの嫁だったのだという事実に、ラキの頭はまだ追いついていない。
「ラキ」
呆然としているラキを、ガルーバンが今まで聞いたこともないような甘い声で呼んだ。びくりと思わず肩が震えてしまったほど、それはラキの知らないものだった。
未知のものだが、怖くはない。ガルーバンがラキの嫌がることをするはずがないという確信は、こんな状況でも揺るがない。そしてその安心感が、ラキをいつものように無防備にさせた。
「ガル」
「なんだ?」
「ラキ、腹減った」
そう宣言すると同時、ぐうーっと大きなお腹の音が鳴った。ブハッとガルーバンが吹き出して、ラキはひどく安心した。
――やっぱり、ガルーバンはガルーバンだ。
「わ、笑うな。カニ食い放題の約束だぞ」
「ああ、そうだな。愛する嫁のわがままは、なんでも叶えると約束したからな」
意外と上手なウィンクを一つ寄越してそんなことを言うガルーバンに、ラキは頬が熱くなってきた。やはり今までとは何かが違う。
「待ってろ。今すぐ新鮮なカニ、捕ってきてやるからな」
くつりと笑ったガルーバンは、ラキの頬にキスを一つ落とすと軽やかに飛び去った。
へちゃりと床に座りこんだラキは、ガルーバンの残したその言葉に、今度こそ盛大に赤面した。
成人した女に成人した男が、自分で狩った食料を与える。それは鳥人の一族にとって、最大級の愛情表現だ。
ガルーバンが、今まさに自らの力でラキに与えるための食料を狩りに行ったのだと思えば、ラキにだってその思いは伝わる。
――ラキ、本当にガルの嫁なんだ……。
ぽうっと頬を染め、これからのことに思いを馳せようとしたラキだったが、想像力の欠如から結局はカニ食べ放題のことだけに気を取られてしまった。
――ああ、カニ。いっぱいのカニに挟まれながら、バリバリ……。ふふ、ふふふふ。
ともかく今日、ラキは名実ともに、ガルーバンの残念極まりない嫁になった。
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