第11話 一族のものとして
「くそ親父がっ!」
「ほっ?」
ガルーバンが完全に劣勢だったはずの体制から抜け出して、ラキをその大きな翼のある背に庇った。
「ラキは鳥人一族の者だっ! 掟を守るのは当然だろうっ!」
「儂はラキに聞いておるのじゃ。黙っておれ、この未熟もんが」
珍しく声を荒げて激昂したガルーバンに対し、トウキは冷静そのものだ。
ラキはガルーバンの背中から前に出ると、素直な気持ちを伝えた。
「トウキ様、ラキは鳥人の一員でいたい。ラキは鳥人としては落ちこぼれで、高くも速くも飛べないけど……。うん、でも、ラキはガルが好きだ。鳥人のみんなのことも大好きなんだ」
トウキがラキの気持ちを優先させようとしてくれたことは嬉しい。だがガルーバンが、ラキは一族の者だから掟を守るのが当然だと言ってくれたことの方が、ラキには何より嬉しかった。
そうかそうかと、トウキはガルーバンと良く似たつり目を細めて、ラキの頭を撫でた。
「お前が良いのなら、儂はそれで良い」
「あ、あの、ラキはトウキ様のことも好きだ」
「おお、それは、嬉しいのう」
トウキはくつくつと笑うと、ラキの隣に立つガルーバンの胸板をゴツンと叩いた。そのままガルーバンとラキの側を通り過ぎて、トウキは民達に声を掛けた。
「さて、皆の者、よく聞いてほしい」
トウキの少し掠れた低い声が、鳥人たちを一瞬で静かにした。どうやら揉めているように見えたラキたちを、みんな気にしていたらしい。
「今日はガルーバンの25歳の誕生日じゃ。この良き日に儂は、ガルーバンに長の座を譲る。そしてそれと同時に、このラキをガルーバンの嫁として迎えた」
うおおおーとも、わあああーとも聞こえる歓声が、約三千人ほど集まっていた鳥人たちから発せられ、ラキも含めて大いに祝福された。これほどの数の鳥人が、森の木々の下に隠れていたことが、ラキには驚きだ。先ほど空から見たはずの森なのに、まったく気が付かなかった。
いつもは複数の村に分かれて住んでいる鳥人たちが、一族の長の嫡男であるガルーバンの誕生日というだけで、こんなにも集まることなど今までにはなかった。今日が特別な日となることを、みんな察していたということだろう。
「な? お前が心配するようなことは何もなかっただろう?」
「う、うん」
ラキが一族の一員となった日から、長トウキの手腕により、ラキの存在は鳥人達にゆるやかに受け入れられてきた。だがそれを盤石のものとしたのは、ラキ自身の功績によるものだ。
ためらいながらもみんなに向かって手を振って、ラキは微笑んだ。
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