第10話 しかめっ面の真実

 ちょっとそこまで散歩に行くか、というほどの気軽さでラキが連れて行かれたのは、なんとガルーバンの誕生パーティだった。

 主役なしですでに大盛り上がりの宴会で、一族の長トウキはいつもの強面が嘘のように脂下がった笑みでラキを迎えた。


 ――トウキ様が笑ってる?。

 

「おお、ラキよ。ようやくこの日を迎えられたこと、儂は嬉しく思うぞ。これで我が一族も安泰じゃ。ガルーバンは稀代の長になるじゃろう」

「えっ?」


 驚いているラキの前で、トウキが少し背伸びをしてガルーバンの首に腕を回した。ぐいっと引き寄せられたガルーバンは、トウキにされるがままになっている。


「で? 首尾はどうじゃ?」

「ああ、うん。その、問題ない」

「おお、そうかそうか」


 何かふたりでひそひそと話しているガルーバンとトウキに、ラキが首を傾げる。ラキが不安になるより早く、トウキがラキに話し掛けた。


「こいつがな、早くにお前への食料の授受に成功したと思ったのに、自分が長になってお前にふさわしい男になるまでは黙っていろと聞かんでな。儂はもう16年も前から、早く公表しろと言っておったんじゃよ」

「え……、ええっ?」

「親父っ、余計なことを言うなっ! あっ、くそっ!」


 ガルーバンが、首に回されていた腕を絞められてもがいている。ガルーバンより少し背は低いが、トウキ46歳とは思えないほどの鍛えられた身体を保ち続け、息子の前に立ちはだかっていた。これはどう見ても、首を絞められているガルーバンの方が分が悪い。


「ともかく、これで何の問題もないな。あんまりガルーバンが結婚せんもんで、一族の皆の心配を押さえる儂も大変じゃったぞ。それにラキの顔を見るたび、儂の口から秘密を言いそうでのう。苦虫を噛み潰したような顔でいつも堪えておった」


 はあーっというトウキのため息は、先ほどガルーバンが吐いたものより、もっとずっと、長くて深いものだった。


 ――そ、そうだったんだ。


 いつもしかめっ面をしていると思っていたトウキが、そんなことを考えていたとは思いもよらず、ラキは驚くとともに擽ったいような気分になった。そんなラキに向かい、トウキがガルーバンの首を締めたまま、軽く頭を下げた。


「えっ?」

「ラキよ。我らが鳥人の一族に恵みをもたらしてくれたお前に、儂は感謝しておる。じゃが、お前は本当にこのガルーバンの嫁になっても良いのか?」

「親父っ?」


 再び暴れ出したガルーバンの頭をトウキが押さえつけた。ラキはトウキの言っていることの意味が分からない。


「お前は鳥人ではない。我ら蛮族の掟などに縛られる必要もないのじゃぞ」

「あ……」


 トウキの言わんとすることがようやく理解できて、ラキは呆然とした。言われてみれば確かにそうだ。鳥人ではないラキには、鳥人の掟を守る必要はないのかもしれない。

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