第7話 赤に染まる……

 ――ムーアだったら、ガルの隣に立ってもお似合いだ……。


 ガルーバンの2つ歳上であるムーアは、きっと優し過ぎるところのあるガルーバンを上手に支えることができるだろう。そう思うのに、心の奥の方でラキの心がもやりとする。


 ――ガルが期待させるのが悪い……。


 ラキだけに食料授受を求め続けるガルーバンを、ラキはずっと拒み続けてきた。|鳥人ではないラキが、ガルーバンの隣を望んではいけない。そんなことは誰に言われなくとも、ラキ自身が分かっている。


「……ラキは分かりやすいな」

「は?」


 ラキの背中にガルーバンのくつくつと言う笑いが掛かる。そっとラキの薄い羽にガルーバンが触れて、その羽からラキの全身にゾクゾクと震えが伝わった。


「な、なにっ?」

「お前、俺のこと好きだろう?」

「なっ、なんっ、なんっ、なんで、そんなっ。そ、そんなわけないだろっ!」


 ラキは懸命に否定しているのに、ガルーバンはさらにくつくつと笑いながら背中からそっとラキを抱きしめた。


「お前の羽な、感情で色が変わるって知ってたか?」

「え?」


 ――色が変わる?


「もともと透き通った虹色の羽が、俺がそばに来ると赤みが増すんだ。この前までは薄いピンクだったが、今日は見事に赤に染まった。なあ、お前の頬も耳も、羽までもが俺を好きだと言っているが、何か反論はあるか?」


 ガルーバンに告げられた、思ってもみなかった羽の変化に、ラキは口をぱくぱく動かすだけで何も声にすることはできなかった。何の言い訳もできない恥ずかしさに、ラキは首をカクンと下に落としたが、耳も羽もガルーバンの目から隠れることはできそうになかった。


「よし、やっと認めたな。ラキ、お前は俺の嫁だ。好きなだけわがままを言ってみろ」

「だ、だからっ、ラキはガルの嫁にはならないよっ!」

「なんでだ?」


 ラキを嫁だと断定形で話すガルーバンと、嫁にはならないと現在進行形で話すラキの会話は、実際のところまったく噛み合っていない。そのことに気がついていないのはラキだけだった。


「……トウキ様が怒るよ」

「親父が?」


 ラキはいつもしかめっ面をした一族の長トウキの姿を思い出して、ぶるっと身体を震わせた。


「種族が違うんだ。だからラキはガルーバンの子を産めないって、ムーアも言ってたし」


 チッと分かりやすく舌打ちしたガルーバンに、ラキは下を向いたままで目を瞬かせた。ガルーバンがどんな顔をしているのか、そっと振り返ったラキの視線の先で、ガルーバンのつり目がニッとキツネのように細められた。

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