第6話 憧れの美女
「アンタ、ガルーバンのこと好きなんでしょ」
くびれた腰に手を当てて、豊かな胸を張ったムーアが言った。
雲の上から落とされる訓練の着地後、地面にベタリと倒れこんだラキを見下ろしたその姿は、ラキが憧れる、強くしなやかで美しい理想の鳥人の女そのものだ。
「あたしも好きよ。だからあたしはアンタが嫌い」
言葉はキツイが、ラキはムーアのことが好きだ。
7つ年上のムーアは、ガルーバンのいとこに当たるらしく、綺麗な上にかっこいい。赤地に金の刺繍が映えるトーガに、黒い翼とお揃いの、腰までの黒い髪。ひとつに纏めて結ばれた黒髪は、鳥人の女達の中でも一等綺麗だとラキは思う。
今回はいつもより少し高い雲の上から、ムーアはラキの腰を掴んでいた手を離した。ラキの限界がムーアには分かっているのか、それは特訓としては最高のギリギリさだった。そのお陰で、着陸した後のラキは指先ひとつ動かせなかった。
まだ声も発せないでいたラキに、なぜだか泣きそうな顔をして「特訓は今日で終わりよ」と言い捨てて、ムーアは去った。
「ムーア、どうしたのかな」
その謎とともにその場に取り残されたラキは、数時間後に何とか這うように木の上にある家に戻り、それからまる3日寝込んで今日に至る。
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