第4話 空の上で

「すごいすごいっ! あーあ、ラキも自分でここまで飛べたらなー。雲の上から落とされるとさ、地面に叩きつけられないように踏ん張るのに精一杯で、すごーく疲れるんだ。情けないけど、3日は動けないの。それで3日動けないと、蓄えの水とトウモロコシだけで過ごしちゃうから、たんぱく質が足りなくなるんだー」

「……なぜそこまでひどい目にあって、ムーアを責めない」

「だから、どうしてムーアを責めるんだ?」


 純粋な疑問を伝えただけなのに、腰を支えていたガルーバンの手が、そっとラキを引き寄せて抱きしめた。


「本当にお前はいつまでもお人好しだな」

「っうえ!?」


 背中いっぱいにガルーバンの温もりを感じて、ラキは素っ頓狂な声を上げた。

 どうしたら良いのか分からない。ガルーバンが何かを言っていたが、ラキはそれを完全に聞き逃すほどに混乱した。


「え? エエ? な、何してるんだ? な、なあ? 離せよ。いや、離すと落ちる? 離すな? でも離せ? え? ナニこれ?」


 ラキは人肌に全く免疫がない。掴まれたり、つつかれたりすることはあっても、誰かに抱きしめられたことなど、はるか昔にあったような気がする、くらいの儚い記憶しかないのだ。呼吸をして良いのかすら分からなくなったラキの耳を、困ったようなガルーバンの笑みがくすぐった。


「そんなに緊張するな。さっきみたいに、だらんと力を抜いておけ」

「で、デモ、ど、ドウシタ、ら。……う、うう、い、息がデキな……」

「あー、分かった分かった。とりあえず下りるか」

「う……」


 酸素不足で「苦しい」とも言えなかったラキを、ガルーバンが急いで地上へと連れ戻った。

 すぅーっ、となんの苦もなく地上へと降り立って、ガルーバンの腕から逃れたラキは、地面に両手両膝を着いて、ゲホゲホゲホと必死に呼吸をした。


「大丈夫か?」


 涼しげな顔をして背後に立ったガルーバンを振り返って、ラキは何だかもやりとした。一人で高所から落とされた時の着地は、羽も手足ももげそうなほど痛いのに、ガルーバンと一緒だと、いともあっさりと地上に着くのだ。いつもとは違う理由で呼吸は苦しかったが、すでにラキの身体は楽になっている。


 ――やっぱり、ガルーバンは違う……。


 不公平だと思うこと自体が間違っていることを、ラキは知っている。

 そもそもラキはガルーバン達と同じ『鳥人』の生まれではない。何の装飾もない灰色のトーガを身に纏ったラキの背にあるのは、翼とも言えない薄い羽だった。

 それはガルーバンや一族のみんなの背中にあるものとは、まったく別のものだ。

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