第3話 ラキは毛虫になって空を飛ぶ

「いいぞ、許す。俺は嫁には寛大なんだ」

「だ、だから嫁じゃな、わーっ!?」


 またもやラキが否定に失敗したのは、ガルーバンに背後から腰を掴まれて、大空に舞い上がったからだ。


「嫁でもない女に、食べ物を渡すわけがないだろう」

「まだ未遂だっ! まだ受け取ってなんかないっ! ラキは自分の食料は自分でとれるっ、と、とりあえずオ、オロセよー!」


 おびえた声を出すラキの耳元で、くつくつとガルーバンが笑う。暴れたら危ないとラキがじっとしているのをいいことに、ガルーバンはぐんぐんと上昇し、あっという間に雲の上だ。

 |鳥人(とりびと)の村は、森の中や山の中にあるので上空から見つけることはできないが、雲の上の景色はどこまでも青く、遠くの島まで見渡せて嫌いじゃない。

 だが、今のラキはそれどころではなかった。


「ハ、ハ、ハナスなよ? シッカリ掴んでおけよ?」

「もちろん」

「シ、シンジテモイインダな?」

「離すわけないだろう? 何をそんなにおびえているんだ?」

「ダ、ダッテ、ムーアはイツモ落とす。ラキ、今ハマダ、ムリダ」

「なんだと?」


 ひゃあああ、とラキが情けない悲鳴をあげたのは、ガルーバンが話の途中でラキをひっくり返して自分のほうを向かせたからだ。先ほど自身が毛虫にしていた所業だが、あれは地面の上のことで空中ではなかった。


「あの女に空中から落とされたのか? しかも、いつもとはどういうことだ」


 ガルーバンのつり目が、いつもよりつり上がっている。とりあえずガルーバンにはラキを空から落とすつもりはないようだと分かって、硬直していた身体から力が抜けた。

 調子に乗って、だらーんと力を抜き切ってしまったラキを、ガルーバンが「おいっ!」とガクガク揺らすが、それさえもラキはまったく怖くない。ガルーバンは、離さないといえば離さないのだから。

 ガルーバンの力のみで飛行している上空は、風の強さも気にならないほど、とても安定している。これが長となるべき男の力なのかと、ラキは先ほどまでの恐怖も忘れて感心していた。


「こら、ラキ、ぼーっとしてないで俺の問いに答えろ。あの女に何をされた?」

「えー? あの女だなんて言わないでよ。ムーアは悪くないよ。ムーアはラキのために特訓をしてくれてるんだ。ラキが高く飛べないのは、訓練が足りないからだって」

「あっ、こら、おいっ!」


 ガルーバンが慌てたのは、ラキがガルーバンの腕の中で、自分からくるりと向きを変えたからだ。


 ――気持ちいいーっ!


 実際にはガルーバンのお陰で飛んでいるのだが、下を向けば、まるでラキが自力で空を飛んでいるように感じた。

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