第2話 『黒い毛虫』と『カニ』と『ラキ』の中で、食べ物はどれか
幸いにも、というか不幸というか、ラキは子供の頃からまったくもってモテなかった。
それは、生物としての本能を
「いらない」
いつもどおりきっぱり答えたラキは、今度は視界に黒い毛虫を捉えた。側に落ちていた小枝で毛虫をひっくり返すが、裏も表も食料としての魅力にたいした違いはなかった。
――うー、これは苦くて
さらに食感も最悪だが、それでも動物性たんぱく質に違いはない。量が少ないからか、食べても下痢ぴーにならない食料のひとつだ。ラキが眉間に
「魚でも貝でも、ラキの好きなカニでも」
「カニッ!?」
「ああ、毎日でもカニ食い放題。ちゃんと俺が茹でてやるよ。ラキはすぐ挟まれるから」
「あれは好きで挟まれてるのっ! カニは生がいいのっ!」
「ふーん、物好きだな。まあいいや、じゃカニ食い放題で決まりな」
「あっ!?」
空腹と毛虫への
本日2度目の「いらない」を言おうとした口は、ガルーバンの大きな口に塞がれていた。
――なっ!?
「ラ、ラキを食うなっ!」
ドンッとガルーバンの腹を殴って離れると、ようやくラキの目にガルーバンの姿が映った。
肩より少し長い漆黒の髪と同じ、漆黒の鋭い眼差し。金の縁飾りが施された葡萄色のトーガは、これでもかというほどに優美なひだを作り出しているが、ラキの目に何より気高く輝いて見えるのは、
ラキはそれらに一瞬見惚れた後、即座に視界を地面に戻した。
「ガ、ガルが悪いんだからな。だから殴ったの、謝らないんだからな」
どうせ鍛えられた身体は痛くなんかないだろうと思いながらも、いずれは一族の長になるガルーバンに敵意がないことは伝えなければならない。もしも一族を追い出されるようなことになったら、ラキはきっと途方に暮れるだろう。
そう思って発した責任回避の言葉だったが、何が面白かったのかくつりと低い笑いが落ちて来た。
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