第30話

 襲撃は迅速であった。

 会津解放の疲れをまだ残している四畳を狙った間の取り方は戦を知っている者の判断であろう。会津から四畳に入った若武者も訓練どころかまだ基地にさえ入っていない状態であり、取敢えずの寝床として使っていたメゾネットタイプの長屋から刀のみを持ち出しての防衛戦闘となったのである。四畳であるのに佐渡兵器を用いない戦いは当然若武者達を負傷させ、四畳藩防衛部として勤める筈の会津の若武者には死者こそ出なかったものの、防衛部の歴史は奇襲による全滅という苦い結果から始まる事になる。

 基地での長船は前線に出る事が適わず怪我人の治療をしておった。

 四畳の戦闘服が対刃繊維である事が幸いしたのだろう。肉を斬られた者は一人もおらず、皮膚を深く傷つけた者への縫合処置と止血、それと消毒、患部を包帯で巻くだけの簡単な処置だけで済んだのも不幸中の幸いであった。

 基地司令である種子島が扁桃腺炎で倒れてしまっているので統率のとれた行動が出来ず、防衛部は全滅し、会津の未亡人は支給されたFALを使い戦闘しながら住民を引き連れて各々の判断で基地へと逃げてきた。その島の住民と会津の女を守ったのは義姉と楓であり、島を襲った維新志士を迎撃する為に最前線に向かったのは藤田一人だけ。

 長船は自分も前線に出なくてはならない焦りを感じつつも死屍累々といった様子の基地内で重症者の治療に追われておる。軍医も島の総合病院で働く医者も総動員しての治療は住民と防衛部と未亡人を基地内で保護する事に成功した。治療を受けた若武者が次々にFALを手に基地周辺の警備にと自発的に動いたからだ。

 長船はサツキに乗り、戦闘現場である町へと下りて行く。

 民さえも傷付けるそのやり方。

 まず間違いなく、人を斬る事を生業とする者が来たとの確信が在った。




 サツキを現場近くに待機させ長船はベストも身に付けないタクティカルスーツのままで白衣を脱ぐ事も忘れて戦闘に参加した。義姉と楓は押し寄せる維新志士とそれぞれの武器である苦無と刀を用いて戦闘中。

 逃げ遅れた住民を襲おうとしていたリーゼントが急に吹っ飛んだのはゴーグルのようなサングラスを身に付けクール極まりないスーツ姿の忍である五右衛門の狙撃によるものである。住民の退路を確保する為、五右衛門は諜報部で働く人間と共に銃撃で支援。確か諜報部が使う銃は制式採用のFALではなくM14SOCOMといったか。重たく腹に来る銃声は途切れる事が無く、それは会津の城を守る女を長船に思い出させた。

 前回の修学旅行とは数がまるで違うが。

 四畳の力は数を揃えたところで押せる類の物ではない。

 怒号と銃声が島を彩る中、楓は舞うように戦い、義姉は淡々と戦う。

 タクティカルスーツ姿の戦闘要員の力量は本物だ。

 ならば藤田に加勢した方が良い。

 逃げ遅れた住人に「封鎖区画へ。拙者に任せよ」とだけ伝える。

 リーゼントが次々に撃たれ倒れる中、長船は喧々囂々とした世界へ足を踏み入れた。

 怒号を歌う歌い手が町を音で包み込み。

 炎と跳弾の火花の光で演出された舞台へ。

 遅れて登場した、怒りに震える白衣を着た侍が現れる。

 まるでオペラだとスコープ越しに眺めていた五右衛門が苦笑したのを長船は知らない。

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