第22話
◇
やっぱりなと、楓は思った。
上司が居ない時を狙ってこの島に志士が来る事は解っていた。
今は町で偶然出逢った六人の集団を斬り棄て、血振りを終えたところである。
情報が何処からか漏れているとは考えていたが此処まで露骨に漏れているとは思わなかった。美空は美空で自由剣を振るえるし心配はあるまい。今心配をせねばならないのはあの上司の事だ。
美空と二人で町に繰り出したのは美空が楓に見せたい物があると言って来たからだ。
楓が愛車に乗って向かったのは先代が眠る墓である。
墓には先代の名と奥方の名が刻まれていた。
しかし此処で美空が口にした事実で楓は表情を一変させる。
曰く、「奥方様はとうの昔に離縁されている」との事。ならばあの墓に刻まれた名は誰の物かを思いつかぬ者は余程の間抜けか余程のお人好しだ。そしてこの島の住人は余程のお人好しなのだ。先代に手を合わせる事はあってもその墓をマジマジ調べる事などせぬ。
楓は町を歩く。
遠くにリーゼントの集団を見つけたので抜きざまに一人、返す刀で二人、更に腹を刺して三人。島に入った志士を流れるように斬る。やはり住宅街に入れば入る程にリーゼントは増えておる。血振りも終えぬままで更に志士を確認。肩口を斬り、首を刎ね、脳天を串刺す。近くで男の悲鳴が聞こえたのは美空が斬ったのだろう。
納刀をして楓は歩く。
四畳藩藩邸のある長屋を目指して。
その長屋の引き戸を蹴飛ばし、楓が目にしたのは。
眼鏡でジャージでそばかすでブヨブヨで髪もボサボサの。
死んだ姫を語る何者かが銃を手に、醜く笑っている様。
「やはりそなたが間者であったか。姫が不気味な女であっては先代が浮かばれぬしな。老中の四畳入りを維新志士に伝えたのもお主であろう」
楓は一度も忠を誓った事が無い主君に風のように斬りかかる。
長屋に血飛沫が舞い、首を刎ねた楓は血振りをして納刀。
否、納刀していない。
何か、楓の手袋から眼に見えない程に細い糸が出ておる。
血に塗れているからこそ漸く視認出来るような程に細い金属性の糸。
自由剣に伝わる秘剣。
刀を納めたまま敵を斬る暗殺術としての秘剣。
この秘剣、名を『食み風』という。
ボサボサの髪を掴み、討ち取った間者の首をそのまま海へと投げ、未だ戦闘中の美空と合流する。自由剣歴代最強の人斬りはこうして律儀にも長船の留守を守っていた。
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