第21話
◇
由美は昔から妹と共に評価される事が多かった。その妹と二人とも美人であったとは昔から言われているのでそうなのだろうなとも思えるようになっていた。容姿に価値があるのだなと、男はこんな見た目が良いのかと。辟易とした時代もあった。この容姿は男を惑わすより女を不安にさせる。自分の好きな殿方を盗らないでと言われているようにも思える程に露骨な視線での牽制なんか今までどれほどあった事か。
車内で寝ていたので背中に痛みを感じ覚醒する。
一段高くなった後ろの席では涙を流しながら寝ている亡くなった妹の亭主。
維新志士に捕まり強姦されかけ、自分で頭を撃ち抜いた妹の。
バカだと思った。そんなモン、この容姿ならば覚悟しておくもんだとも思った。そんな事はこの日本じゃ珍しくないだろと憤慨した。身勝手に死ぬ前に旦那さんの到着を待てとも思った。しかし許せなかったとも理解出来るからこそ憤慨するのだ。
愛する者以外に身体を触られる事がどれだけ女にとっての屈辱なのか。
愛する者以外に愛を説かれる事の無意味さとか。
妹はこの殿方を愛したからこそ自分を許せなかったのだろう。
その愛は見ていて痛い程にこの殿方に伝わっている。
そして何故妹がこの殿方を愛したのかも理解出来る。
不器用で空回りばかりだけど真っ直ぐで優しくて自己犠牲ばかりの、本物の侍だからだ。
その泣き虫な侍の涙を拭う様に頬に口づけをし。
席に戻った由美も静かに眼を閉じた。
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