第8話
◇
「あ!老中、遅くなりました!由美さんも一緒だったんですね!」
「よい。我等も屋敷を出たばかりだ」
「こんばんは竜胆ちゃん」
屋敷を出て門を閉じると丁度種子島がやって来た。さすがに外ではあの面積の小さなビキニでは無かったのでホッとする長船。もしも外でもあの恰好ならば正座をさせて大和撫子たるもの如何なる時でも無暗に肌を見せてはならぬと小一時間ぐらい説教をしてやろうかと考えていた。
薄手の半袖に太もも丸出し。
小学生が身に付けるような半ズボンを履いておる。
それなのに丈の長い外套を身に纏う辺りが理解不能だ。
寒いのか、暑いのか。
バカなのか、なんなのか。
この場合、バカなのは長船なんだけど。
「なんすか老中。その値踏みをするような目つきは」
「何故にこの島の娘は肌を出したがるのかと思ってな。皮膚呼吸を大事にしておるのか?」
「オサレでござるよ老中」
「これはなんと、オサレにござったか」
半ズボン履いてオサレ?
どうやら島の娘の脳味噌は逆回転をしておる様子。
いそいそと義姉は屋敷裏手の駐車場なる広場へと向かう。長船の屋敷は元々庄屋の物を改築したので広く駐車場も芋と豆を植えるぐらいには敷地面積がある。毎晩毎晩、楓が仲間と一緒に駐車場でクルマをグルグル回して遊んでおるので五月蠅くて眠れぬのだが。
其処は若者の文化、年寄が口煩くしては若者は育たぬ。
長船が楓の歳の頃。
眼も向ける事が出来ぬ程であったのだし。
しかし、駐車場にタイヤ痕を付けるのだけは止めて欲しかった。
ゴムの焼ける匂いは苦手なのだ。
人が焼ける匂いを思い出す。
「んじゃアタシはクルマを出して来るから此処で待ってておくれ」
「はーい由美さん」
「はーい義姉上」
太もも丸出しの姉ちゃんと運転手を仲良く待つオッサン。
長船だった。
「種子島。封鎖区画について何か解ったか?」
「白船を動かす為に必要なモノの洗い出しとかはしてますね」
「首尾は如何だ?」
「私と知り合いのエンジニアが白船の修理ならばと数名協力してくれると約束を取り付けました。ですが五年前の戦や封鎖区画について何か聞こうとしても村長さんは貝のように口を閉ざしています」
「網で炙ればよかろう。バターと醤油で食ってしまえば良い」
「村長ホタテじゃねえよ」
「ならば味噌汁にしても良い。肝臓に良く効く」
「シジミでもねえ」
種子島のツッコミ。
ふむ。
ボケを殺さぬその選球眼や良し。
「網といえば封鎖区画の金網なんですよね。高圧電流が流れてて中に入れません」
「義姉上も言っておったな。機械はよく解らぬが、そのエレキテルを流しておる根源を破壊すれば何とかなるのではないのか?」
「その電源が封鎖区画の中にあるんです。有刺鉄線があるから上から侵入も出来ませんし」
「封鎖区画周辺も藪や藤に覆われており危険ではあるな。俺と楓で整備しておこう」
ジャングルのように生い茂るあの雑草を何とかすれば人が多くは入れるようにもなろう。三人寄れば文殊の知恵ではないが人を集める事で何か打開策が産まれるというのは珍しい事ではない。あの藩邸の小屋に眠っておる回転する刃を持つ草刈鎌には白い燃ゆる水を入れておかねば。
いずれ屋敷の庭を畑にする際にも耕運機なる佐渡兵器に白い燃ゆる水を入れて使うのであろうから白の燃ゆる水は確保していて損は無いであろう。
ホームセンターで売っておる。
アヤツ、ホームセンターで売っておる。
南蛮由来め。
色々と工作機械に使えて便利じゃねえか。
「封鎖区画周辺ではスコスコプンスコシコシコヨシコの問題もあります」
「え、なにそれ」
「灰色熊です」
「日本に灰色熊なんかいねえ」
居たら大問題だ。
ヒグマより怖い。
そしてその名前。
ギリギリだ。
ギリギリであった。
「由美さんの妹さんが昔飼っていたペットです。大きくなって怖くなったから野に放ったとか。野に放って経験を積ませようとか。美香さんの言う事は理解出来ないですけどね」
「心配すんな。夫の俺でも理解不能だから」
熊を野に放つんじゃない。野生化したりしたら大問題になっちゃうでしょ。
長船、天国の妻を心の中で叱りつけた。
そしてそのネーミングセンスは間違いなく妻の物である。
臆病で可愛いツキノワグマではなく、ブイブイ言わせる暴走族みてえな灰色熊。
喧嘩になったらまず間違いなく勝てぬ。
「熊出たら危なくて白船どころじゃねえです」
「だな。本気で灰色熊だとは思えんが」
本当に灰色熊だったら終わりだ。
散弾銃を喰らっても平気でピンピンしておるような生き物なのだ。対峙すれば間違いなく美味しく食べられてしまう。「今日は黒田長船の踊り食いだクマ―」なんて言われて美味しく食べられてしまう。それだけは回避せねば。
「まずはヨシコの問題は置こう。お主にスッポンを喰わせねばならぬ」
「何処で食べるんですか?」
「揖保寺の住職とやらがやっておる立飲み屋だと義姉は言っておったが?」
「ああ。あの店なら確かに何でもありますもんね。料亭の座敷とかじゃなくて外で簡単なテーブルと簡単な椅子に座ってスッポン食って良いのかって思いますけど」
立飲み屋は当たり外れが大きいのだが。そもそも成り立ちが屋台の延長線にあるのだから仕方がないとも言えるのか。会津に居た頃はそういう屋台で道草をよく食っておった。愛馬のサツキが道端の草を食っておる時に長船は屋台で鰻と酒を飲んでおった。馬も飼い主によく似るということだろう。
道草は大事だ。旅の醍醐味であり、人生とは長き旅路である。
長船の場合、旅をしていたらぶっ飛びカードを使われて変な島に飛ばされたのだが。
もしくはバシル―ラ。
日本の公務員はバシルーラされるのだ。
年度末になるとバシバシバシルーラされるのだ。
これも参勤交代の名残であろうか?
と、長船。
種子島の爪の色が気になったらしく彼女の手を取りマジマジと眺めている。
「おや?セクハラですかい?」
「いや、爪の色が気になってな」
「マニキュアが珍しいのですね?」
「ああ。そういう爪の色ではなく」
マニキュアは妻も良くしておった。
それどころか爪に何かゴテゴテしたものも付けておった。
マニキュアぐらいオナゴはするだろう。
プリキュアみてえな恰好をしなければオサレの範疇だ。
「んじゃ爪が如何かしましたか?」
「爪の根元。白い部分が目立ってるだろ。お前、貧血気味だなあ。スッポンの他に鉄分の多い物を頼むとするか。まさか居酒屋に黄な粉餅とか信玄餅は無いだろうから、ほうれん草か乾燥させた果実でもあれば良いのだが。確実なのはほうれん草の卵とじなんだけど」
「老中は何でそんな事が分かるんですか?」
「そりゃ俺が戦う医者だからだろ。栄養学の観点から見れば貧血ってのは珍しくない病ではあるんだが、その分オナゴに多い大衆病だとも言えるんだ。貧血は冷えを呼び、冷えは更に貧血を悪化させる。血を作るのは土から取れる金属分だから野菜か果物を食うと良い。土の栄養素が染み込む川の物でも良いか」
沼の魚では栄養価の高い鯉が望ましい。泥をしっかりと吐かせて酢味噌で食えば普通に美味い。米沢藩の友人は鯉の肝を磨り潰して伸ばした物を乾燥させ丸薬にして使っていたのだったか。確かに鯉の肝は殺菌作用こそ無いが体調を整えるには良い食材だ。
苦くてとてもじゃないが長船は飲めなかったが。
米沢のアヤツは元気にしておるだろうか?
素朴で良い奴であった。
上杉公の御膝元だからか、素朴で欲の無い良い奴が多い。
それと美人が多い。
長船は個人的に会津のキツい感じの美人が好きであったのだが。
米沢のホンワカ系美人も視ていて癒されるのだ。
癒されて、妻に殴られるのだ。
「金属?身体の中に金属が入っているのですか?」
「血を舐めると鉄の味がする。それも血を作るのは鉄分だから当たり前なんだ。他にも味覚を正常に保つには亜鉛が必要になったり、骨を作るにもカルシウムが必要になったり、ミネラルという金属質は重要な栄養素であるのだ。そして女の身体は兎に角栄養素が身体の外に逃げ易い。俺等男は干し肉と酒だけで戦が出来るけど、女はそうもいかん。これは専門的な話になるが、敵の拠点を攻める際に行う合戦兵法で兵糧庫を焼き井戸に毒を混ぜる兵糧攻めってのがある。それは前線で戦う男より先に本隊を支える女を殺す為でもあるんだ。隊を支える女を先に苦しめれば三日も待たずに弱体化するからな」
「兵糧攻めってお腹を減らして力を出せなくさせるモンだと思っていました」
「当然、その効果も高い。しかし飲まず食わずの状態で先に倒れるのは女なんだ。有能な将であるほど支援要員として本隊には男には出来ない気配りが出来る女を加えるものだからな。そして有能だからこそ女が倒れたら即座に撤退をする。ま、戦の話だから関ヶ原辺りまで時代は遡るんだけど」
しかし今でも兵糧攻めは出来る。
長船がまだ若く、各地で暴れていた頃の話だ。
日本各地で望まず出会う喧嘩の相手の屋敷に忍び込み、井戸に毒を流し子を拉致し炊事場に鼠の死骸を放つぐらいは普通に行っていた。嫌がらせといえばそれまでだが、嫌がらせというのは形を変えた妨害工作である。拉致した子供の耳でも切り落として送ってやれば大抵の相手は大人しくなるのだが。
そんな話を種子島は望むまい。
兵器を作る職人でも兵器を使う戦士ではないのだ。
「あ、由美さん来ましたね」
「初めて見るな。義姉上のクルマ」
楓のランエボと違い、凄いデカい。
屋敷の物置小屋ぐらいありそうだが。
「由美さんサバーバン乗ってますからねえ。かっけえっす」
「いよいよ幕末にアメ車まで登場しなすったか…」
それも当然のように真っ赤なサバーバン。
グリル周辺には社外品のライトが複数。
なんかこうファンキーってかヤンキーみたいなイラストが幾つか貼り付けられておる。
ああいうのイージーライダーっつーの?
それともローライダーっつーの?
此処は日本だっつーの!
日本人が西海岸気取るんじゃねーよ。
九十九里浜をもっと大事にしろよ。
もうサバーバン全然関係ねえけどな!
「由美さんみたいに綺麗な美人さんが大きな車を乗ってると迫力ありますよねえ」
「センスは良いけど、さすがに島の細い道にサバーバンはデカ過ぎだろ…」
何処から輸入して来たんだろうか?
もうこの島に常識とか歴史とか求めないようにしてはいるが。
シボレーもムチャして製造してくれたんだろうか?
ゆったり乗れるから家族持ちには便利だ。しかしリアのウインドウだけが大きいデザインだけは何とかならんもんだったのか。まあ、そのチグハグさがアメ車っぽさだといえばそれまでなのだけれど。
義姉も義姉で運転する時には蜻蛉みてえなおっきなグラサンしてるし。
ターミネーターかお前は。
それとサバーバンはカラーリングをツートンカラーにするとオシャレなので是非。
「幕末に楓のランエボも似合わねえけど、アメ車の浮きっぷりと言ったら比じゃねえな…」
「日本の静かな原風景には意外に外車が似合うんですよ老中」
「それは欧州車でしかも旧車の場合だろ。シトロエン2CVは確かに田圃道に似合うが…」
「シトロエンはオサレですよね。ヨーロッパの丸くてちっちゃなデザインのクルマは農村部や山間部にポツンと置くと映えます。それだけで何かストーリーを感じると言いますか」
「デザインに嫌味が無いからな。だから悪目立ちしない」
「自然と調和するデザインだからこそ日本人に欧州車は無理が無いんでしょうねえ」
「まだ明治入ったばっかなんだけど…」
「この島にそんな概念は通用しねえっすよ老中」
マフラーもぶっといもんが入ってるらしく排気音がどてっぱらに来おる。どうやら山本家に騒音を気にする神経は無いらしい。義姉は一度屋敷前の道に出てゆっくりとバックで長船達に近付いてきた。車内から聞こえるウーファーの重低音も重ねてどてっぱらに来おる。ドゥンドゥンドゥンドゥン!と言っておる。車内ではきっと小さな妖精さんが和太鼓を叩いて遊んでおるのだろう。
「種子島。お主はああいうクルマは選ぶな。お前のキャラに合わぬ」
「私、フォルクスワーゲンのポロにしようかと」
ふむ。
そのクルマ選びの選球眼も良し。
若く美しい種子島ならば車体の色でも遊べるだろう。
「ポロか。スニーカー感覚で乗れる良いクルマだ。ただワイパーだのオイルフィルターだのの消耗品が高い事だけは覚悟しておけ。国産車の倍以上する事もザラだ。ただタイヤはピレリを履く事が多いから長持ちする。硬い分、なかなか減らん」
「ワザとインチダウンして扁平率を多くするのが良いんです。ホイールで遊ばずにタイヤで遊ぶのが良いと言いますか。それと消耗品は高いですけどイモビライザーだのの安全装置が標準で付いてますから税金とかは安いですからね」
これ、明治っつーか幕末の会話である。
もう歴史考証とかどっか吹っ飛んで行ったのだ。
「老中、楓君のクルマも弄ってますもんね。会津のお侍様はクルマ弄りも出来るのですか?」
「んー、多分、俺だけじゃねえか?」
「私も早く自分の運転で何処かに行きたいです。島が嫌なんじゃないですけど、色んな世界を見てみたいなって思います。色んな悩み在りますけど、そういうのを連れて一緒に旅をするのも良いかなって思うんです。その土地の美味しい物を食べてその土地で生きる人と会話をして、そうやって自分が生きる場所を明確にしたいというか。場所が明確になったら生き方も明確になるんじゃないかなって思うんです。知らない人に大きな声を出されてもブレないで生きていけたらいいなって思うんですよね」
「二十歳ならブレるのが仕事だ。ブレて如何生きたら良いのか解らなくなるのが良い。何か答えを出すならよし。出さないなら俺みたいにその場凌ぎで生きるのも良し。若さを大事にしろ。ギャンブルに手を出して金を手っ取り早く稼ごうとだけしないなら何をしても正解だ。二十代で問題に気づき、二十代で自分のやりたい事を朧気ながら見据え、三十代で自分の過ちに気付き、四十代で新しい事を試し、五十代で結果を残し、六十代で若者に受け継いで貰う。それが人の生き死にだ。色々やるのが若者の仕事なんだぞ?」
「スッポンを食うのもですか?」
「俺が二十代の頃は琉球でウミガメの卵を飲んだもんだ。『挑戦』、戦いに挑む。それは二十代の若者が持つ特権だ。海蛇食おうかとも思ったけど俺は滞在期間が短くて出来なかったが。怖い事にこそ率先してやりますと自分から言うのが若さだ。大久保卿や山縣、勝麟太郎も同じ事で妬むのであろう。『今の時代、若さがあれば』とな。だから若い時は色々やって色々失敗するのが良いんだ。自分に似合わない事をすると失敗をするが、自分の世界を広げるってのも二十代では必要だと俺は思うぞ?」
大いに遊べ。
大いに学べ。
知らない土地で外気に触れよ。
それで失敗しても良い。
失敗は優しくなる為の土壌だ。
失敗を恐れるな。
寧ろ、大いに失敗をしろ。
若者が優しい世を作る為に。
優しくない年寄には噛み付け。
困っている人には兎に角、声をかけろ。
声をかける事が怖いのはオッサンも同じだ恥じるな。
何が正しいのか何が正解なのかで悩むな。
何が優しいのか何がホンワカするのかのみを考え相手の立場に立って何をされたら嬉しいかを考えろ。
敵?敵などおらぬ。人生に敵などおらぬ。
敵だとする者は何よりも優れた教材だと知れ。
侍とは優しさに命を賭ける者だと知れ。
萌え?エロ?大いに結構。でも一般市民の目線こそが世間の目である事を忘れるな。
背は曲がったままで良い。世を僻んだままでも良い。
ただ一般市民に優しくない事だけはするな。日本人らしくない事だけはするな。
優しさ世界一と言われる日本人を忘れるな。己を犠牲にする事を損だと考えるな。
己を犠牲にする事こそ徳だと考えよ。目先の損こそ大局の得であると知れ。
「なら、私がそれを引き継いで海蛇を食えば良いんですね。怖い事こそやるのが若さだとは含蓄のある言葉です。人の嫌がる事を率先してやれって事ですね」
「自己犠牲を極め過ぎると仏門に入るのだが。仏門に入らず社会にそのままおれば、そうだな。勇者ぐらいには簡単になれるのだろう」
初めはただのお人好し。
次はお人好し過ぎて忌み嫌われ。
行き着く先に、侍という生き方がある。
失うを、極める事こそ侍道。
損する事を美徳とする事こそ、侍道。
「そして私はまだ十代です」
「ならば『葛藤』がお主の仕事だな。それも特権だ。世の中には四十を過ぎても葛藤をしている者がおるが、それはもう人とは呼べぬ。仏門に下り過ぎた怪物であろう」
「老中はそうなりそうな危うさがありますよね。奥さんを喪ったからなのか、元々そうなのか」
「葛藤などせぬ。欲しがる物は手に入らぬ。ただ、そうだな。『渇望』はしておるのかもな」
「まるで老中の生き方は償いですね」
その言葉に長船は瞬間虚を突かれたかのように止まったが。
停止する事は無かった。
「償いを生き方にしているからこそブレないのだろう。無知とは罪であるからな。妻は何にでも疑問を持つ娘でゲームしてても『なんで?』を口癖にしておったぞ?」
懐かしい。
会津の屋敷では妻はゲームをしてばかりであった。
ねえねえ!
なんで町中にゾンビが溢れてるって解ってるのに武器が拳銃だけなの?
散弾銃とかライフルとか火力の高い物をなんで持って来てないの?
押っ取り刀で駆けつけた?
ハゲか貴様。
そんなモン戦力にならんわ。
私、不思議なの!
凄いピンチなのに!
町が壊滅してるのに!
どうしてアイアンマンさんを呼ばないのかって。
社長は忙しい?
じゃあバットマンさんでも良いわ!
あの治安の悪い町だけでいっぱいいっぱい?
んじゃ何マン来てくれんだハゲ。
ラーメンマン先生か?
ラーメンマン先生、相手がゾンビでも戦えるんか?
あ、ピザまん買って来て!
ピザまん食べながら一緒にゲームやりましょう?
「ピザまん喰いてえな…」
「また急ですね老中」
「妻は一度ゲームをし始めるとのめり込んでな。よく俺がオヤツを買いにと走ったモンだ」
「完全に尻に敷かれてますよね。老中の場合、尻に敷かれてても嬉しそうというか」
「男は尻に敷かれているぐらいの方が良い。平時に尻に敷かれ、有事には背に匿えば良い。平時の主役はどうしても女だからな。逆に有事に主役になれない男に価値が無いのだとも言えてしまうのだから身体は鍛えなくてはならぬのだが。日本男児、鍛えた身体と練り上げた気で難に挑めばそれで良い」
「でも老中ガリガリじゃないですか」
痩せておる。身体のラインを出さぬ服装こそ和装であるから今までは目立たなかったが上半身をジャージにした事で上半身だけは痩せておる事がバレてしまった。
妻を喪った心労からか、痩せる一方。
頬はこけておるし、いつも寝不足のような不機嫌な表情。
義姉のサバーバンが屋敷の入り口にピタリと停まる。
一度大きくエンジンを吹かして。
「よし。んじゃその立飲み屋ってのに行くか。お前が助手席に乗っておけ」
「おっしゃー。食うぞー」
財布も持った。刀も差した。
なのに何処か忘れ物をしたのではないかという気持ちを払拭出来ないのは何故だ。
大切な忘れ物は会津に置きっぱなし。
白船を動かす。
それで忘れ物が自分のもとへ戻るのかは解らない。
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