第4話 若柳初枝と嶋本功の恋

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 甘い香り漂う喫茶店の一角で、初枝と篠宮綴は静かにお茶を楽しんでいた。初枝の笑顔は、若き日の輝きを失うことなく、篠宮綴の心を和ませた。


 篠宮綴と初枝は、休みの日でも会うほどに親しくなっていた。


つづりさん、ここは落ち着くわね」


 初枝は篠宮綴に微笑みかけながら、繊細な手つきでティーカップを持ち上げた。篠宮綴も微笑み、お茶を啜りながら初枝との楽しい時間を過ごしていた。


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「この喫茶店は、学生の頃からお気に入りの場所なんです。初枝さんが気に入ってくださってよかった。……初枝さんとおしゃべりすると、時間があっという間に過ぎてしまいます」


 篠宮綴も初枝の優しさに包まれながら、心地よいひとときを過ごしていた。年が離れた二人の間には、深い信頼と友情が芽生えていた。


「そういえば、どこまで話したかしら」

いさおさんと出会う少し前の出来事です!」


 初枝と綴が話題にしているのは、初枝の亡き夫、功との馴れ初めについての話だった。初枝は恥ずかしがっていたが、綴がどうしても聞きたいと頼み込んで、話を聞かせてもらう運びになったのだ。 

 

 初枝は、薄紅色の着物を身にまとい、緩やかな曲線を描く銀髪を撫でながら、顔を赤くした。

 

「功さんとの出会いは、私がまだ女学生だった頃。初めて出会ったあの日のことは、今でも鮮明に覚えているわ……」


 初枝の声は穏やかで、しかし確かなものだった。

 彼女の心は、若き日の出来事に戻っていた。

 

 初枝が女学生だった頃のことだった。初枝は、学校からの帰り道、風に舞う桜の花びらを愛でながら歩いていた。すると、突然、彼女の手からハンカチが滑り落ちた。


「その時、功さんが現れて、私のハンカチを拾ってくれたの。『お嬢さん、ハンカチを落としましたよ』って、渋い声で教えてくださったの。功さんの優しさと、ハンサムな顔立ちに、私の心は奪われてしまったわ。私、目があった瞬間、あの人に恋をしたの」


 初枝の声には、当時の想いが色濃く残っていた。そして、その出会いが、初枝と功の運命を大きく変えることになるとは、その時の彼女には想像もできなかった。


「私たちの結婚は、当時では珍しい恋愛結婚だったの。私の生まれは田舎だったから、親が結婚相手を決めるのが当然って風潮すらあったわ。だけど、私の親の反対を押し切って、私たちは駆け落ちをしたの」


 初枝の言葉は、静かながらも強い意志を感じさせた。彼女の瞳には、愛する夫との出会いによって生まれた喜びと幸福が宿っていた。そして、その幸せは、初枝の心に永遠に輝き続けることだろう。


「功さんの、プロポーズの言葉は、なんだったんですか?」


「それはね……」


 初枝は、篠宮綴の耳にそっと耳打ちして、こっそり教えてくれた。篠宮綴は、顔を真っ赤にして、「すっごく素敵じゃないですかー!」と叫んだ。

 

 初枝は、照れくさそうに微笑んでいる。そして、「秘密にしてね」と囁いた。その笑顔は、女学生だった頃の、可愛らしい笑顔と同じなのだろうと、篠宮綴は思った。


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