ep.28 死闘! 自由のための戦い

「もう逃げられないぞ。さぁ、大人しくそのガキを渡してもらおうか!」


 黒ずくめの男達から最初に何を言われるか、もはや予想するまでもなかった。

 サンドラがこのタイガの隣にある、かの巨大食虫植物達がいる方へと目を向けるが…


「ここに貴様らが隠れる事は、大いに目星がついていた! そんなこともあろうかと、あの森にいた人喰い草は数体、頭をぶち抜いてやったさ」

「そんな…! なんてひどい事を!!」


 見ると確かにあの食虫植物が複数、伸びた状態で倒れており、頭部や口元には無数の大きな穴が空いている。いつのまに、敵が遠くからヘリを使って銃弾を放ったのだろう。

 最低な奴らだ。これにはサンドラも怒りを覚え、手持ちの槍を構えた。


 次は最前線にいるキャミが、マリア達を守る様に片腕を伸ばし、睨みつける。


「目的は何だ? 何の罪もない命を奪ってまで必死なお前たちが、子供を渡したところで、大人しく帰ってくれるとは思えないが」


「き、貴様ら死にてぇのか!? そこにいるガキが一体、どれだけ危険な存在なのか知らないだろう!?」


「その『危険な存在』に仕立て上げているのは、寧ろ自分たちの方じゃないのか? 子供を追い詰めなきゃ、組織を維持できない様な輩に言われる筋合いはないな」


「なんだとぉ!?」


 キャミの静かな挑発に、男達は更なる怒りを覚えた様だ。

 今度こそ、銃口が一斉に向けられる。ここはバリーとティファニー、そして僕も戦線に立ち、魔法発動の準備に入った。


「やれやれ。彼らは聞く耳をもつ気はないようです」

「そうみたいね。大体あんなお利巧さんを、誰があんな野蛮な連中に渡すものですか!」

「あぁ。奴らは信用できない。いくぞみんな!」


 僕達は突進した。

 敵陣もそれに合わせ引き金を引く。瞬く間に乾いた破裂音が鳴り響くが、それで蜂の巣にされるほど僕達は弱くない。

 ティファニーのスロー魔法、バリーの念力による銃弾返送、そして僕の虹色蝶を用いた瞬間移動があるのだ。


 ダダダダダダダダダン、ダン、ダン、ダン… ダン…

「なんだ!? 急に、弾がゆっくりになって」

 バキッ!

「ぐおっ!」


 と、敵が銃弾のスローや念力のデバフに巻き込まれ困惑している隙に、僕が攻撃して動きを封じる。とにかくその繰り返しだが、自分達だけでなく、後ろにいるアニリンやイシュタにまで弾が流れないよう、護衛に徹するのだ。

 奴らは最悪、アニリンの命は奪わなくても、多少の怪我を負わせる事はいとわない考えなのが分かる。それでまた彼を追い詰め、力を暴発させ… って、もう本当に胸糞が悪い!


「応援! 応援!」


 敵の一人が、インカムを使って助けを乞う姿が見えた。この後もフェーズがあるようだ。

 だが、それで敵の全滅が訪れるまで、ずっと黙ってみているマリア達ではない。僕達が戦っている間、マリア達は安全確保のため、洞窟を出ては別の場所へ逃げる道を選んだ。


 ダダダダダダダダダ!!!

「ふぇえ~!」

「イシュタ、もっと身を屈めて! 頭を打ちぬかれるよ!?」

「ひっ!?」

「うぅ~! なんで、なんでこんな目に遭わなきゃいけないの!? もう嫌だよぅ!」

「アニリン!? お願い。君は何も悪くない。悪くないから、どうか自分を責めないで!」


 と、マリアが少年2人を相手に、必死に慰めながら走り抜ける。

 アニリンが自身の境遇に絶望したら、どうなるのか。一度その姿を見ているマリアにとって、もはや他人事ではないのである。しかし、


 パーン!

「うあっ!!」


 マリアが、応援にきた敵の一人に腹部を撃たれてしまった。

 彼女はその場で膝を落とすが、依然としてアニリンを守る事に必死。その間にも、遠方からは更に人の頭ほどの大きさをもつ飛行物体が、無数に飛んできた。あのドローン達だ。


「チッ、しつこいなぁ…!」

 ビリビリビリ~!!


 と、手の平から電気玉を生み出そうとするマリア。しかし、


 ズキンッ!

「ぐはっ…! がはっ!」

「お姉ちゃん!!」


 電流が、被弾した患部に激痛を走らせ、思うように効果を発揮できない。

 マリアの魔法は中断された。アニリンが泣きながらマリアの肩を持ち、声をかける。


 このままだと、こちらへ近づいてくるドローンが取り出してきた刃物の餌食に…!


 ジャキーン! バチバチバチ… カシャン!

「くるな! あっちいけー!!」


 イシュタだ。彼が手持ちの短刀を手に、怖いけど前に出てドローンを叩き割ったのである。

 アニリン達にとっては間一髪だった。


 イシュタはなおブンブンと刀を振り回し、無限に湧いてくるドローンを壊していく。

 戦闘面ではまだ非力といえ、いつまでもあしまといになりたくないのだろう。ドローンそのものはさほど強くないので、イシュタのそのつたない剣術でもなんとか倒せるが、数の多さで攻められるとかなり厄介だ。どこまで防衛しきれるか分からない。



「みんな…」



 アニリンは周りを見渡した。


 洞窟から少し移動し、タイガの森を抜けた境目。

 雪降る平地に、これでもかと敵がゾロゾロと応援に駆けつけてくる。その湧き方はまるでゴキブリのよう。


 バリーはそこから放たれた銃弾を、自身の念力を用いて制止。詠唱を行う。

 するとそれら銃弾が、ホーミング式に敵の方向へと向き、“返送”をお見舞いさせる。敵は自分らが放った銃弾の餌食にされ、次々と倒れた。


 だが、中にはそう簡単には倒れない敵もいる。見た目が人で、中身が機械の者達だ。

 その場合は、ティファニーの小宇宙とキャミの召喚獣によるデバフで対抗した。

 しぶとく動き回る敵を小宇宙に飲み込ませてスローにしたり、召喚獣に噛みつかせて敵の機体をフニャフニャにしたりしている間に、僕が一気にトドメを刺す戦法を用いた。まるっきし、第一部の富沢戦で僕がお見舞いしたやり方だ。


 それでも… 中には僕に機体ごとやられる前に、機体の頭部をパカッと開けて逃げ出すやつもいる。中で操縦していたのは、妖精の成れの果てである小さな悪魔達。

 彼らはなお、小さな体をさらけ出しても戦う事をやめなかった。悪魔は魔法を使えるので、物理で戦うのが難しい場合は、

「スフェード!」

 と、サンドラが魔法無効化の力で対抗していった。周囲に、どんどん魔法から変換されたスズランがポコポコ咲き乱れる。ながら、手持ちの槍で物理戦にも応じたのだった。


 それだけ、僕達の戦いは終わりが見えないのだ。

 どれだけ、敵を薙ぎ払おうと新たなフェーズがくる。

 これでは、いくら自分達の体力や魔力があっても足りない。仲間の一部は既に疲れが出始めている。



「…やめてよ」



 アニリンが、僕達の戦いを見て首を横に振る。肩を震わせる。

 子供に、よくないものを見せている自覚はある。だけどここで諦めたら、アニリンはきっと、また元の苦しい奴隷生活を強いられるだろう。それだけは避けたいのだ。

 敵は… アニリンを、「富や権力の道具」としか見ていないから。


「やめてよ! お姉ちゃんたちをいじめないで!!」


 アニリンは走った。

 被弾して、半ば倒れ込んでいるマリアの腕を振り払い、僕達を攻撃する敵陣へと突進したのだ。マリアが腕を伸ばすも、アニリンの足は思ったより早かった。



「やめろー!!!」




 アニリンが、敵陣へと飛び込んだ。

 彼の額から浮きだった血管が、相当な怒りを表している。そして――




 ドーン!! ドンドーン!!!



 アニリンのいる場所から、大量の鉄くずが放出された。

 あの時と同じ、ノイズ交じりの金切り声とともに魔法が暴発したのだ。


 その瞬間、優勢だった敵の群れが一瞬にして、鉄くずの波に飲まれていった。


(つづく)

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