ep.17 リミッター・ゼロ ―悪魔の封印は解かれた―
「マリア!」
「ジョナサン! どうしよう、目が覚めたらアニリンがいなくて…! 彼は何処に!?」
「それならそこ――」
「!?」
ジョンが目を向けた先、苦しそうに蹲ったケガだらけのアニリンを発見した。
マリアが泣きそうな顔で「アニリン!」と叫び、そちらへ向かおうとしたが…
――!!
ジョンの右目が、青く光った。
最悪の“未来”を予知したのだ。彼は、咄嗟にマリアの腕を掴んだ。
ガシッ!
「まてマリア! 今いったらマズい…!!」
「ちょ、なんでよ!? 離してよ! アニリンを置いていけない…!」
「もう無理だ! 間に合わない!! ここから離れるぞ!!」
「はぁ!?」
「あ、2人とも! なんでそこに――」
と、ここで僕とテラも漸く現地へと駆けつけた。
嫌な予感的中か、遠くではアニリンが苦しそうにしている。
だが、ジョンはアニリンが苦しんでいる場所から、敢えて真反対へと走り出した。
マリアの抵抗を無視してまで、彼はこう叫んだのだ。
「みんな逃げろー!!」
そして、日の出が上がってきた次の瞬間――
ドーン!! ドンドーン!!!
「「!?」」
アニリンが蹲っていた場所から突如、大量の鉄くずや鉱石、そしてブロックなどの硬いものが、噴水の如く飛んできたのだ。
僕達は言葉を失う。嫌な金切り声と、小さな地響きがなった。
「なんだよ、これ」
僕は絶望した。
大量の鉄くずや鉱石の噴出は、まるで1体の巨大タコを形成し、生きているかのよう。
まさに不気味で、周囲をあっという間に滅茶苦茶にするほど、強力なものであった。
「アニリーン!!!」
ガンッ!
「ぐあっ…!」
ドサッ!
「ジョナサン!」
ジョンとマリアは先にその場を離れていた。が、間に合わなかった。
刹那、飛んできた鉄くずの1つが、ジョンの頭を直撃したのだ。ジョンは苦痛の表情を浮かべ、その場へ倒れ込んだ。
マリアが、すぐに倒れたジョンの元へとしゃがむ。彼の頭部からは血が滴り落ちた。
すぐにアニリンの元へいきたい。けど、目の前ではジョンが倒れている。
それでも容赦なく、鉄くず達は弾丸の様に噴き上がり続けていた。
アニリンの元へ近づこうものなら、高速で飛んでくるデカくて硬いものに、自分まで撥ねられてしまう!
「やばいやばいやばい!」
僕はハッとなり、飛んでくる鉄くずというか、巨大タコから逃げる行動へと移した。
出来る事ならアニリンを助けたいけど、このままでは手も足も出ない。肝心のアニリンの姿も、鉄くずが大量に噴き出ているせいで全然見えないし、一体どうすれば…!?
「あぶない!」
その時だった。僕の目の前を、テラがカードをスライドした直後のポーズで前に出たのだ。
そして次の瞬間、僕達の方向へ飛んできた大きなブロックが、テラを直撃!
ガーン!!
僕は咄嗟に両腕を出し、ガードの体勢を作った。
が、目の前にいるテラは倒れていないし、僕にも当たっていない。
見るとテラの全身は先のカードの能力で鋼鉄化され、その場で静止。足元から釘を刺して根を張っている様で、頑丈に固定されていたのだ。
その勇姿は、まさに「魔法の銅像」。僕を守るために、盾になってくれたのである。
「アニリン! だめ…! どうか無事でいて…!!」
その頃。マリアは気絶しているジョンを安全地帯へ運んだのち、すぐさまアニリンがいる鉄くずの発生源 ―巨大タコ― へと1人向かっていた。
今にも泣きそうな表情で、真正面へと飛んでくるものから避けるため、半ば強引に電光石火を連続で使っている。ここまでくるともうヤケクソだ。
「そんな! 無茶だよ!!」
僕は手を伸ばした。けど、飛んでくるものがどれも硬くて厄介で、前へ進めない。
バーン!! バーン! バン…! バンッ
「はぁ、はぁ。アニリン!」
マリアの電光石火が、次第に弱まってきた。体力が奪われている証拠だ。
このままだと、マリアの回避スキルが巨大タコの飛来スピードに追い付かず、トラックに轢かれるのと同等のダメージを食らう事になる。そうなったら、流石のオーガノイドでも助からないだろう。
ビューン…
巨大タコが繰りだす鉄くずの飛来は、容赦がない。
遂には、今のマリアでは絶対に逃げられないであろう、重さ1,2トンはありそうな巨大な歯車が飛んできたのだ。このままでは、マリアは…!
ガシッ!
その時だった。横から黒い影が、猛スピードでマリアを抱きかかえ、飛んで間一髪回避したのである。正に一瞬の出来事だった。
「え!? お兄さん!!?」
僕もこの展開に驚いた。マリアを抱え、その場を回避したのは礼治であった。
そう。彼もこの事態に急いで駆けつけ、
「なんとか間に合った! じきに応援が来る。今は1人で無暗に近づいたら危険だ!」
「でも、アニリンが…!!」
「きゃあああー!!」「みんなにげろぉぉぉー!!」
ハーフリング達の叫び声――。
僕達がそちらへ振り向くと、タコが繰り出す破片の飛距離は、なんと少し離れた民家数軒にまで及んでいたのだ。住民達が次々と避難している。
あんな大きな鉄くず達が、大砲の如く民家を破壊していく。なんて力なんだ。
「ふんっ!!」
ジャキーン! ズサ!! バキ!!
だが、そんな民家への被害を最小限に抑えるべく、物理攻撃で鉄くずを切り刻んでいる男が1人。ローズであった。
ルカ達のいる法政ギルドから駆けつけてきたのだろう。屈強な彼は、その自慢のかぎ爪を備えた指で、ランダムに飛んでくる鉄くずや鉱物をザクザクと斬っているのである。
ガシャーン!! ガシャーン!!
巨大タコは、生み出した鉄くずを集合させているのだろう、更に大きくなっている。
最初の時より、確実に狂暴と化しているのだ。今の僕達の力だけでは、あの力を抑えるのは到底不可能――!
ドーン! ドドドーン!!
すると今度は、タコの飛来攻撃を受け止めるように、巨大な氷やイバラの壁が地面からブサブサと伸びてきた。
その威力は絶大で、あっという間に要塞のようなイバラの壁が出来上がり、飛んでくる鉄くずや鉱石を受け止めている。
すぐ近くには、左手指をスッと上へ伸ばし、魔法を詠唱したばかりのシアンが立っていた。
暗黒城から態々駆けつけてきたのだろう、少し息を切らしている様子だ。
「あの見覚えのある姿… くそ、やっぱりか!」
そういって、シアンは目にも止まらぬ速さで巨大タコの元へと向かった。
僕達はその姿を見届けながら、こちら民家にまで飛んでくる鉄くずから住民を守るため、避難を手伝う。
僕もマリアも太刀打ちできない。テラも鋼鉄化の解除に時間がかかるし、ローズはなんとか頑張ってくれているけど、それでもタコそのものの静止には踏み切れない。礼治だって負傷者の保護と避難で手が回らない。
そうなると、残るは僕達の中でも強い先代魔王クラスのみ。その先代魔王の一であるシアンが、自分1人でタコを抑えに行ったのである。
「はああああああああ!!!」
バシャーン! ドーン! ドドーン!!
アニリンの元へ辿り着くには、あまりにも暴発している鉄くずや鉱石の量が多すぎる。
それらを除去し、少しでも前に進むためには、致し方がない。彼はそんな葛藤を胸に自身の「奥の手」、アシッドアタックで、目の前に襲い掛かってくる鉄くず達を溶かしていった。
ながら触手のように降りてくる鉄くずをも、氷やイバラ攻撃で弾いたり、受け止めていく。
それでもなお、飛んでくる鉄くずたちの勢いは、シアンの魔力とほぼ互角。
一向に衰える様子がないのである。
(つづく)
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