ep.16 負の連鎖。一寸先は闇。
「うぅ~ん」
夜、海の家。アニリンはなぜか目が覚めた。
用意されたベッドのすぐ横には、マリアがソファの上でぐっすり眠っている。
閉まりきったカーテンを、ほんの少し開けて覗く。
空は快晴、美しい星々で彩られていた。
「きれい」
アニリンは何故か寝付けないのだろう、今の外の空気を吸いたくて仕方がなかった。
今の時間なら誰も近くを出歩いていないし、目の前の砂浜まで出歩く分には安全。そう思い、アニリンはこっそり玄関を出たのであった。
…。
「お母さんの星は、どこかな? お母さん… フクシア…」
シュワシュワと波打つ音。弧を描きながら移動していく、丸い月。
砂浜に出たアニリンが、静かに呟きながら、無数の星々を眺めた。
その中に、星となった母親の輝きを探しているのだろう。
家族がいた頃が恋しいのか、瞳の奥からは、もの寂しさが込み上げていた。
沿岸端の草むらに、何者かが潜んでいるとも知らず――。
――――――――――
――今夜、サリイシュ宅に来てほしいんだ。あまり賑やかだとイシュタが眠れなくなるから、一応先着3名まで。それじゃ!
なんてノアの連絡があったものだから、ローズ解放後、僕はすぐにサリイシュ宅へ向かった。
先着3名は少ないが、つまり今夜はイシュタの就寝時を、僕達で観察しようというわけか。自分が寝ている姿を皆に見られるって、嫌じゃないのかな…?
「あれ?」
今は暗い夜。
先住の小人達は法政ギルド近辺の建築か、もしくは地下で酒場を開いている時間帯。王宮付近を出歩いている人は、1人もいない。
…のだが、僕がサリイシュ宅へ向かう途中、王宮へと続くレンガ道で何やら神妙な面持ちで話している、アゲハとマニーとマイキの姿があった。
――どうしたんだろう? 3人とも、深刻そうな顔をして。
でも、今は目的地へ行かないとだ。
ノアと直接約束したわけじゃないけど、だからこそ優柔不断になっている場合ではない。アゲハ達の今の様子については、後ででも訊けるのだから。
「実は女王からきたオペレーションの続報を期に、ここの2人にも、俺達が使っているこのイヤホンの機能を教えたところなんだ。もちろん、2人にはイヤホンの件を誰にも口外しないよう約束してある。というわけで、今夜から宜しく」
そういって、パッケージの母機を弄るノアのその一声で、緊張気味に頷くサリバとイシュタ。
今の2人は寝間着で、本来ならこれから就寝に入る所だが、この通り部屋にはノア、キャミ、テラ、そして僕が訪問している。これだけの人数がいれば当然、
「もし、すぐに眠れなかったらごめんなさい。あと、あちらの世界に行けなかった場合も」
とイシュタが言うように、簡単には眠れなそうである。キャミが補足を入れた。
「母機には、デバイスをはめている者が脳内で描いた想像や、夢を記録する『録画機能』がついている。ほんの些細な夢でもいい。今日からイシュタの保護も兼ねて、この家で何日間か試験を行うから、今からでもこの環境に慣れてもらうぞ」
「…はい」
なんて言われると、よけい
僕だったら「
僕はノアの隣に座っているテラへと声をかけた。
「よく見たら、俺とサリイシュ以外みんな夜型…」
「うん。私は万が一、近くを例の悪魔やファントムが来た時に備え、徹夜するつもりだよ。
「そうか」
テラの腰には、心臓のような形をしたカードリーダー式のベルトがついている。
彼女の本業は霊媒師だ。彼女の固有天賦である破邪の力を様々な効果に変換でき、それらを発動させるのに必要なカードを用いて戦うので、物理で倒せない敵相手にはかなり有利である。が…
「…」
テラが、ある方向へと目を向け、数秒間口を閉ざした。
その方角は、海の家と、それを
僕は「どうした?」と声をかけた。すると、テラはゆっくり立ち上がり…
「なんか、妙な胸騒ぎが」
「へ?」
「なんだろう? 嫌な予感がする。私、ちょっと海の家へ寄ってくるよ!」
「え、海の家!? どういう事だよ。えーと… 俺も今から行ってきていいかな?」
僕がそうキャミ達に聞いている間にも、テラはすぐに外へ飛び出していった。
サリイシュはこの展開に疑問符を浮かべた。
「俺とキャミはいいけど、2人はどう?」
と、ノアが早速返事をした序で、訊かれたサリイシュもぎこちなくだが同時に頷く。
僕は今さっきのテラの行動を見て、なぜだか同じく不安になってきたので、続けてここを後にしたのであった。
――――――――――
「ごめんなさい…! ごめんなさい…! お、大人しく帰りますからぁ!」
アニリンが、泣き腫らした顔で全身を震わせ、その場で蹲っていた。
顔や手足には、鼻血や、打撲の跡が多く見られる。
なんと、自分より一回りも大きい子供のオーク3人が彼を囲み、暴力を振ってきたのだ。
「うるせぇなぁチビ! ここにお前の帰る場所があると思ってんの?」
「ひぃっ」
「てゆうかさ。最近、空の上がうるさい原因はお前だろ。お前が来てから、俺達うるさくて眠れないんですけど~?」
「ち、違います…! 僕は、僕は何も…!!」
その瞬間、残りのオークの子供1人が、アニリンの顔面を思い切り蹴り上げた。
アニリンは抵抗する間もなく、草むらの一角に倒れ込む。砂浜で星を眺めていた所を突如、この不良の子供達に後ろから髪を掴まれ、草ぼうぼうの平地へと引きずられたのであった。
「あー、口答えウゼェなぁ。フンだ、こっちは
「そうだそうだ! 俺達、そんな悪い奴を懲らしめる為に最近、この辺りを毎晩こっそり見張ってたんだぜ? そしたらマジで現れやがったし」
そういって、倒れているアニリンを、不良の子供の1人がペッと唾を吐いた。
アニリンがゆっくり上半身を起こすも、先の暴行で胸を痛めたのか、ゼェゼェと息を切らしながら胸を抑えている。不良の子供の1人が、ゆっくり自らの片足を上げた。
「そういう事だから、敵はさっさとここから出ていけ。さもないと…」
そういって、片足をアニリンの頭上へと向ける。
アニリンが苦しんでいるのに、頭を踏みつけるとでもいうのか。
が、その時――!
プシュン! ドーンバリバリバリー!!
「「うわぁ!」」「なに!?」
彼らのすぐ横を、オーロラ2色の電磁波をまとった1本の矢が降ってきた。
矢から雷鳴のような大きな音が鳴り、みな驚きざまに振り向く。アニリンは間一髪、踏み付けられずに済んだのだ。草むらから飛び出してきたのは、
「オイ! そこで何してんだオメーら!!」
ジョン・カムリだ。虫の知らせを感じたのだろう、彼が矢を放ったのである。
その瞬間、子供達はすぐにその場から走り出した。
「やっべ猫男だ! 逃げろー!!」「わー!!」
「おいコラ逃げんな!! …くそ、なんてすばしっこい奴らだ」
暗いせいか、すぐに見失ってしまった。そして同時に、
「アニリン!? アニリン、どこへいったの!!?」
海の家から、マリアが勢いよく飛び出したのだ。
ジョンはマリアと合流した。
(つづく)
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