第一章 ~少女騎士団誕生!~
騎士団長になったお姫さま
重臣が大勢集まる謁見の間では、きょうも国王マグヌス・クラウザー十八世が玉座にちょこんと腰を掛け、どこか退屈そうにして赤絨毯に届かない両足をばたつかせていた。
「──うむ。よきにはからえ」
定形の終わり文句を告げると、本日最後に訪れた使者が丁寧にお辞儀を終えて退室した。それを確認したマグヌス王は、すぐさま元気よく玉座から飛び下りる。
「あー、もう! やっと〝挨拶の儀〟が終わったぞよ! ウスターシュ、早く昼食にするぞよ!」
大きな白い口髭と手足が極めて短い低頭身のこの国王は、家臣たちに陰で〝マスコット・キャラクター〟とも
今もちょこまかと動き回るその姿はとても滑稽であったのだが、その場の者たち全員、無表情で静かに、ただその様を見守っていた。
「陛下、ご昼食の時間までは少々お時間がありますので、庭園を散歩されてはいかがかと」
宰相のウスターシュが、偉大なる王を敬いながら頭を下げて言う。
「庭園まで散歩とな!? 昼食まであと十分しかないぞよ!」
「陛下、昼食までの正確な時刻は、九分と四十八秒……四十七秒……四十六秒……」
大臣のひとりが、純金製の懐中時計を見ながら淡々と告げる。
「おまえは相変わらず細かいのう! それならば、なおさら昼食でよいではないか!」
「国王さまぁー、姫さまがおいでになられま……あっ、もう来たし」
突然、シャーロット王女付きの侍女レベッカが気だるそうにして謁見の間に姿を見せたかと思えば、ミモレ丈スカートの裾を軽く摘まんだカーツィの姿勢のまま、その身を横へとかろやかに
それと入れ替わり、ツンとした凛々しい表情のシャーロット王女が侍女のハルとドロシーを引き連れて
だが、王女はきらびやかな絹糸で織られた豪華なドレスではなく、騎士のようなハーフサイズのマントを羽織り、丈が極めて短い扇情的なプリーツスカートを穿いていた。膝頭まで隠れる長靴と腰に携えた細身の剣が、なぜか不思議と服装の調和を成立させている。
「な、何事ぞよ、シャーロット! その勇ましくもハレンチな格好は……いったい全体、何事ぞよ!?」
マグヌス王だけではない。重臣たちも、うら若き王女の奇抜な装いに目を丸くして驚いていた。
「お父さま、わたくしは今から旅立ちます」
「ぞよ!?
「えーっと…………そのようです」
笑顔ではあるが、どこか困った様子でハルが答える。となりに立つドロシーも、それにならって
マグヌス王は、あらためて愛娘の服装をまじまじと見つめてから、年輪が深く刻まれた
「我が愛しのシャーロット姫よ。旅行にしてはその装い……スカートが短過ぎなのでは? それに、剣は必要ないはずぞよ?」
ハルから聞かされていたのは、シャーロット王女が療養も兼ねて
「旅行?」
シャーロット姫が振り向いてハルのほうを見れば、緊張した面持ちのドロシーと目が合った。肝心のハルはというと、彼女の背後にぴったりと張り付くように気配を消し、背中も丸めて立って隠れている。
「……とにかく、わたくしは旅にでます」
王女は振り向いたままそう告げ、不機嫌そうな顔をゆっくりと前へ戻す。
「お父さま、それに皆の者!」
そして、続けざまに剣帯の鞘から勢いよくレイピアを抜き取ると、それを頭上に掲げて声たかやかに叫びはじめた。
「シャーロット・アシュリン・クラウザーは、ここに騎士団を結成する! その名も〈
天使なのに牙って──。
それに、獣なのかよ──。
唐突なシャーロット王女の宣言。全員の脳内に疑問符が大きく浮かぶのと同時に、
「ブハッ!」
ドロシーの肩に鮮血の
ハルが吐血して倒れたのだ。
「えっ、えっ、えっ? は、ハルさん大丈夫ですか!?」
慌ててハルを介抱するドロシー。彼女に上半身を抱き起こされた先輩侍女は、青ざめた瀕死の状態で「騎士団て」とつぶやいてから、首をガクンとさせて気を失う。
焦ったドロシーは、もうひとりの先輩侍女であるレベッカに助けを乞う目配せをするも、あからさまに冷たい態度で視線を逸らされてしまった。
「騎士団とはなんぞよ!? わざわざ騎士団を結成してまでする旅行って、いったい全体なんぞよー!?」
混乱のあまり、マグヌス王は深紅の絨毯の上を右往左往して駆けまわる。
「おそれながら、シャーロット殿下」
遠巻きでそんな様子を見守っていた精悍な顔つきの重臣が、一歩前へ出る。王国騎士団〈
「旅をなされるのであれば、我が王国騎士団から早急に精鋭を選りすぐりまして護衛を──」
「冒険の旅に護衛など不要。オルテガ、わたくしが留守のあいだ、この国とお父さまをお願いね」
そう言ってまだあどけなさが残る笑顔をみせたシャーロット王女は、レイピアを静かに納めてきびすを返し、慌てふためくマグヌス王を置き去りにして謁見の間をあとにした。
レベッカも手短にカーツィを済ませただけで行ってしまったので、残されたドロシーは失神したままのハルをなんとか背負うと、「失礼しました」と頭を下げてから、そそくさと逃げるようにして退室をした。
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