第9話 時代を超える声

ある晴れた日曜日、恵美とその家族は幸太郎の実家を訪れていた。家の片付けを手伝いながら、恵美は押入れの奥深くからひときわ古びた箱を見つけた。箱を開けると、そこには大量のカセットテープがぎっしりと詰まっていた。


「これなに?」恵美が興味津々で幸太郎の父、祖父の一郎に尋ねた。一郎はテープを手に取りながら微笑み、「これはね、昔のテレビ番組を録音したものだよ。昔はビデオ録画が一般的ではなかったから、ラジオのように音声だけを録音して楽しんでいたんだ」と説明した。


一郎は古いカセットプレーヤーを取り出し、テープの一つをセットして再生ボタンを押した。部屋には懐かしいテレビドラマのセリフや、当時の人気番組の音楽が流れ始めた。恵美は目を輝かせながらその音に耳を傾け、時代を超えた声に驚いた。


「おじいちゃん、どうしてこんなにたくさん録音したの?」恵美が尋ねると、一郎は懐かしそうに話し始めた。「テレビ番組は家族みんなで楽しみ、特に好きなショーやドラマは何度も聞きたくてね。これらのテープは、僕にとって大切な記録なんだ」と語った。


一郎はさらに、当時の生活や家族で過ごした時間についてのエピソードを恵美に語り聞かせた。それぞれのテープには、特定の日付や番組名が記されており、一郎の若かりし日の声や笑い声も録音されていることがあった。


恵美はその話に引き込まれ、「おじいちゃんの若い頃の声も聞いてみたいな」と言った。一郎は少し探した後、自分が友人と話している様子を録音したテープを見つけて再生した。その声には、今の一郎とは違う若々しさと活気があふれていた。


恵美はこの日の経験を大切に日記に記録した。「おじいちゃんの若い日の声を聞くことができて、時間を超えて会話ができたみたい」と書き留める。また、カセットテープの中に保存された声が、世代を超えて家族の絆をつなぐ架け橋になったことを感じ取った。


この日、恵美はただの古いカセットテープが、どれだけ価値のある宝物になり得るかを学び、過去と現在が繋がる貴重な瞬間を家族と共有した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る