第5話 母のハンドクリーム
春の風が窓を通してやわらかく吹き抜ける日曜日の朝、恵美はリビングのテーブルで日記を書いていた。ふと、彼女は母・美咲が普段使っているハンドクリームの香りに気づく。その甘くて落ち着く香りが部屋に広がっていた。
「ママ、そのクリームいい匂い」と恵美が言うと、美咲は微笑みながら答える。「これ、おばあちゃんからもらった特別なハンドクリームなのよ。手をいたわるために使ってるの。」
恵美は興味津々で「どうして特別なの?」と尋ねる。美咲はクリームのチューブを手に取り、「このクリームは、家族が集まった時だけ使うんだよ。大切な人との時間を思い出させてくれるの」と説明する。
その日の午後、美咲は恵美に小さな容器にハンドクリームを少し分けてあげる。「恵美も使ってみる?」と提案する。恵美は喜んで受け取り、丁寧に手に塗り始める。クリームが肌に馴染むと、すぐにその温もりが感じられた。
「ママのようになれるかな?」恵美が笑いながら言うと、美咲は「もちろん、恵美もいつか特別な思い出をこのクリームに込めることができるわ」と答える。
二人はその後、庭に出て春の日差しの中、ガーデニングを楽しむ。手が土で汚れた後、美咲は再びハンドクリームを取り出し、恵美と共に手に塗る。その瞬間、母娘の絆を深めるような、温かい時間が流れる。
夕方、恵美は日記にその日の出来事を書き留める。母のハンドクリームから教わった家族の大切さ、そして共有した小さな幸せについて綴る。彼女はクリームの香りがするたびに、今日のような特別な日を思い出すだろうと感じた。
「母のハンドクリーム」というタイトルの下、恵美は自分の成長と家族との深い繋がりを感じながらページを閉じる。この物語は、単純な日常の中にも特別な意味を見出すことの美しさを、静かに伝えていく。
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