第七話 “駆除”

「なんだ……今の音!?」


 アドルは音の鳴った方向……〈ルオゥグ村〉に反射的に走り出した。

 アドルに続いて仲間たちも走り出す。


「村の方から煙が上がっています!」

「くそ! 俺が空から先に行って確かめてくる!」

「駄目だヴァンス! 空に飛べばまとになる恐れがある。

 侵略されている可能性を考慮しろ! が居ることを想定して、冷静に行動するんだ!」


 黒煙は次々と上がっていく。

 アドルはもう村の状態が何となくわかってしまっていた。それでも、僅かな希望を持って〈ルオゥグ村〉にたどり着いたが……



「そんな……わたしたちの村が――」


 目に映る死体、壊滅した村。

 知人、友人、家族。セレナの祖父、この村の村長の死体はわかりやすく村の中心に四肢を分解して磔にしてあった。


「お、おじいちゃん……」


 魔物を殺す時、必ずおこなうことがある。それは首を斬ること、頭(脳)を潰すこと、そして心臓を穿つことだ。三つの急所を破壊することで確実に魔物を殺す。


 〈ルオゥグ村〉の住民の死体にはまったく同じことがやられていた。


 人の殺し方ではない。侮蔑を孕んだ、尊敬の意が一切ない……そんな無残で醜い殺され方をされていた。磔にされ、服を剥かれた後、串刺しにされた首なしの死体が並んでいた。


「ひ、ひどい……」

「あんまりです……こんなの――」


 惨状を前にして意気消沈し、同時に怒りがこみ上げる一同。

 その中で、真っ先に声を荒げそうなヴァンスが、静かに構えていた。


「アドル、みんなを連れて逃げろ!」

「は? どうしたいきなり――」


 こつ、こつ、と二人分の足音が聞こえる。

 その足音に続くよう無数の音が聞こえてくる。

 磔にされた村民の間を縫って、奴らは現れた。


 王都騎士団団長サーウルス。

 副団長オメス。


 彼らが率いる騎士団だ。


「一日振りだね。アドルフォス君」


「サーウルス……!」

「テメェがやったのか、騎士団長さんよぉ!」


 竜の牙をむき出しにしてサーウルスを威嚇するヴァンス。


「醜い。いやねぇ……これだから魔族は」

「魔物風情に説明するのも面倒だが、仕方あるまい。

 ――〈ルオゥグ村〉、およびその村民は我が王国の要人数名を攫い、殺害した罪で滅ぼすこととなった」


「要人、殺害……」


 アドルは思い出す、火口での出来事を――


――『これで軍事予算の拡大に異議を唱える者達は始末した。後はこの罪を奴らに擦り付けるだけ……』


 サーウルスの言っていた“奴ら”。

 それが自分達のことだと瞬時に理解する。


「オレ達を、嵌めるために――」


「ふざけないで! 火口で姫様を殺したのはあんたらでしょ!」

「やはり見ていたか。あの後、帰り道で新しい足跡を見つけてもしやと思っていたが……」


 サーウルスは錆びた剣を構える。

 すると同時に錆びた剣を赤色の風が包み、形状を変化させた。


「〈竜滅〉」


 錆びた剣は緑色の剣、竜の鱗に似た素材で作られた剣に変化した。


「この村に居る者は全て抹殺した。

 老若男女問わずにな……君たちが守るべきモノは無い。大人しく殺されろ、化物……!」


 放たれる無量の魔力。

 魔力に反応してヴァンスが体の30%を竜に変化させた。


「行け! アドル!!!」

「馬鹿! 一人で勝てる相手じゃねぇだろ!!!」


 ヴァンスは静かな声で、諭すような口調でアドルに言う。


「アドル、行ってくれ」


 覚悟のこもった声。アドルはヴァンスに背を向け走り出した。


「逃げるぞみんな!」

「ヴァンスを置いて行く気!?」

「……わからないかセレナ、ヴァンスは禁じ手を使う気だ。ここに居たら邪魔になる」


 禁じ手。

 それは完全に己の体を魔物と化すこと。


 通常〈魔物喰いイビルイーター〉は体の半分ほどしか魔物化させない、それ以上体を魔物化すると体への負担が尋常じゃ無くなるからだ。


 100%魔物化すると通常では得られない強大な力を得ることができるがその代償として理性を失い、己の魔力が尽きるまで暴走する。暴走が終わった時、体はボロボロとなって、最悪の場合二度と魔物の力を扱うことができなくなる。


 ヴァンスが完全竜化すれば全員で協力するより勝率は上がるだろう。

 アドルはその事実を冷静に処理し、相手の戦力を分散させるため逃走の選択肢を取った。


「そういうことなら僕達は邪魔になる。速くここから去りましょう」

「うん……ヴァンス、絶対――絶対に生きてまた会おうね」

「死んだら殺すからね……ヴァンス!!!」


 ヴァンスは親指を立てる。

 アドルは言葉を残さず立ち去った。


(なにも言う必要はない。また会うんだからな……親友!!!)


 仲間たちを見送り、ヴァンスは心置きなく全身を変化させていく。


「愚かだな。そんなことをしても私には勝てん」

「――愚かで結構だ。それで仲間を守れるならな……」


 ヴァンスの体積が十倍、二十倍、三十倍――百倍へと膨れ上がる。多くの種類の竜を混ぜ合わせたキメラドラゴンがサーウルスに立ちはだかる。


「喰い殺してやるよ! サァァァァァァァァウルスゥゥゥッーーーーーーーー!!!!!!!!」

「オメス。奴らを追え。私はこの化物を駆除する」


 サーウルスは目の前に現れたキメラドラゴンを、酷く冷ややかな目で見上げた。


「……気色の悪い」



---



 森林を走り抜ける四人。


「アドル! どこに行くの!?」

「虫食い洞窟だ! あそこは迷路みたいに道が分岐するから頭に地図が入っているオレたちが有利に動ける! セレナの剛鉄を使えば道を塞ぐこともできるからな!」


 目指すは地元の洞窟。

 彼らの背を追うのは馬に乗った複数の騎士。先頭には副団長のオメスが居る。


「逃がさないわよぉ~~~~!」


 オメスが赤黒い杖を構えるとオメスの周囲を漂うように紅い炎の塊が作成された。


「炎魔法!? 相性悪いわね!!!」


 セレナは地面に両手をつき、剛鉄を地面に伝わせ騎士団の馬の足元から白銀の壁をせりあげた。


「あら! 面倒なことするわ!」


「ナイスだセレナ!」

「このまま洞窟へ入りますよ!」


 オメスから放たれた爆炎がすぐ足元で炸裂する。

 アドルたちはフィルメンの風魔法によって背中を押され、爆炎を躱し洞窟へ突入した。


「よし、ここまでくれば……」


 そうフィルメンが言った時だった。

 すぱん。と瑞々しい気持ちの良い斬撃音が鳴った。


「あれ、地面が近い――」


 同時に眼鏡の少年の首から血しぶきが飛び、ストンと眼鏡と共に生首が地面に落ちた。

 突然の出来事でアドルもルースもセレナも固まってしまった。


「へへへ、オメス様の考え通り、ここに逃げ込んできたか。魔族め……!」


 鎧を着た男達が洞窟の中で待ち伏せしていた。


「そんな……」

「フィルメン――」


 絶体絶命、絶望を後押しするように巨大な爆炎球が背中より迫る。


「冗談だろ……」


 アドルは手元から剣を滑り落とす。


「オメス様!?」

「そ、それ! 俺たちも巻き込まれますよぉ!!!!」


 騎士団味方も巻き込むオメスの爆撃。躱すことも防ぐこともできない、明確な死の塊……



――終わった。



 アドルは静かに目を閉じた。




 ――――――――――

【あとがき】

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