第34話 五芒星の悪夢(ペンタグラム・ナイトメア)
ソフィアはラルク君に事情を聞いた。
「ドアがノックされて。知らないオジサンたちが、僕を連れて行こうとして。そうしたらラナが助けてくれたんです。僕がドアを開けたから……。僕のせいだ。いつもお父さんに、いきなりドアを開けないように言われていたのに……」
イヴさんが割って入った。
「そいつらの身なりは? 青の飾りのついたポーラータイ、あっ、……ひもみたいなネクタイをしている人はいなかった?」
すると、ラルク君は涙を拭いながら頷く。
「やっぱり」
イヴさんが、すごく怪訝そうな顔をしている。
わたしが理由を聞くと、そのやり口が、イヴさんのお姉さんを弄んだ貴族のお爺さんに似ているとのことだった。
貴族の中には、高貴な血筋を表すという『青』の装飾を好むものが多いらしい。ラルク君の家を訪れたのも、貴族の子弟なのではないかということだった。
こんな片田舎の村で、貴族など、そうそう出くわすものではない。
だとしたら、やはり……。
普通なら一族のものが直接くるとは考えにくい気もするけれど、それだけ横暴だということなのだろうか。
イヴさんが口を開いた。
「姉貴のことがあって、わたしも最初は爺さんに復讐しようと考えたんだ。それで色々と調べているうちに、悪い噂を聞いてね。本当に悪食で、気に入れば大人子供、男女関係ないらしい。手に入れるためには手段を選ばないという話だった。もしかしたら、ラナさんも同じなのかなって」
イヴさんは腕を組んで、俯いてしまった。
そして、声のトーンを下げ、続ける。
「だとしたら、わたしのせいだ。わたしがあのジジイを見逃したから……」
そんなことはない。
少なくても、イヴさんは被害者だ。
だけれど、このまま放置していいとは思えない。
それはさておき、ラナさんのことが心配だ。
ラナさんは、快活で綺麗だ。
そんなお爺さんに連れて行かれたら、何をされるか分かったもんじゃあない。
イヴさんはお姉さんの話と重なったのだろう。
今にも家を飛び出しそうな形相で、何やらナイフや火薬等、物騒な物を見繕っている。
ラルク君のご両親の帰りは明日の夜の予定だという。
相手は貴族だ。
仮に帰りを待ったとしても、そもそも解決できるかも分からない。
早くしないと、ラナさんが……、取り返しのつかないことになってしまう。
やっぱり、できるだけ早く動かないと。
わたしは、まず、事の経緯について、セドル君に手紙を書いた。
早馬で届けて貰えば、明日の昼過ぎにはセドル君のもとに届くだろう。
それと、できるだけの準備を。
今すぐにと言いたいが、無謀すぎる。
わたしは、今にも飛び出してしまいそうなイヴさんを制止した。
「イヴさん。すぐに行っても何もできません。明日の朝まで準備して、それからにしましょう」
明日の早朝まで、できるだけの準備をしてそれからラナさんを助けに行こう。
ラルク君には今日はうちに泊まってもらおうと思う。
うちのお母さんも心配だし、ラルク君に家にいてもらった方がわたしも安心だ。
わたしは自分の部屋に引きこもり、準備に取り掛かる。まだ解析中だった術式の完成。
それに、ラルク君に持ってきてもらった魔法書。本当は報酬でもらうはずだった『一瞬先の未来を見る魔法』の習得と改良。
『今日は徹夜になりそうだな』
わたしはため息をついた。
それに、これは……。
五芒星の幻影を改良、いや、改悪した『五芒星の悪夢(ペンタグラム・ナイトメア)』。
起きている人間に強制的に昏睡に陥れ、覚める事のない悪夢を見せる魔法。
好奇心から術式を完成させていたが、こんなかたちで役に立つ時がくるとは。
短時間で昏睡から覚醒させられねば、対象は正気を失う事になる。
こんな残酷な魔法、想像するだけで動悸がして吐き気を感じる。だけれど、これが必要になる最悪のケースも考えなければならない。
わたしは、おばあちゃんからもらった杖をぎゅっと握りしめる。そして、自分に言い聞かせるのだ。
『魔に囚われるな。魔を従えるのだ』
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