第33話 姉弟

 

 ケンさんが家族を紹介してくれる。

 奥さんは外出中ということで、今いるのは2人のお子さんだ。


 「上の女の子らラナ、下の男の子はラルクといいます。ほら、おまえら。ソフィアさんにご挨拶して」


 2人はペコりといかにも形だけの挨拶をすると、お互いに舌打ちして、2階に上がって行ってしまった。


 ケンさんは深いため息をつく。


 「私はただ、仲良くして欲しいだけなんだけれどね……」


 わたしは、ケンさんにお願いして、個別に話を聞かせてもらうことにした。


 ラルク君はケンさんの実子で、ラナさんは奥さんの連れ子ということだった。


 まずは、弟のラルク君だ。

 扉の前に立ちノックする。すると、さっきとは打って変わって明るい声が聞こえた。


 「はーい」


 ガチャ。

 上目遣いで、かわいい顔立ちの男の子が迎えてくれる。


 部屋に入ると、どうぞと席を勧めてくれた。

 男の子の部屋というと散らかっているイメージだったけれど、ちゃんと整理整頓されていて小綺麗だ。


 『わたしの部屋よりずっと綺麗……』


 ソフィアは簡単に自己紹介をする。そして、お父さんの依頼の件を伝えた。


 すると、ラルク君もベッドに腰をかけて、ため息をついた。

 「ボクも、お父さんの気持ちは分かるんだ。でも、アイツがいけないんだよ。人の気持ちも考えずに好き勝手ばかり……」


 それによると、最初はラルク君も、お姉さんができたことは嬉しくて、仲良くしたいと歩み寄ったらしい。しかし、ラナさんは、家事も家業も手伝わずに好きなことばかりしているという。


 ラルク君は、立ち上がると太もものあたりをパンパンと払った。そして、続ける。


 「そのくせさ、父さんってば、アイツの顔色ばかり窺って。本当の子供はボクなんだよ?」


 なるほど。

 ラルク君は、色々きっちりしないとイヤなタイプなのね。

 

 今度はラナさんのところに行く。

 すると、足音が聞こえたのだろう。ノックをする前に扉が開いた。


 「はーい」

 扉が開いた後に声をかけてもらった。


 ラナさんは、年はわたしより少し上くらいだろうか。

 ウェーブのかかった赤髪で、茶色い大きな目が印象的だ。目鼻立ちがはっきりしていて、整った顔立ちをしている。いかにも快活といった感じの美人だと思う。


 ラナさんの部屋は……なんとなく親近感を感じた。

 いい感じに散らかっている。


 でも、よくみると、適当に棚に放り込まれている物もある。……片付けられないわたしと違って、単に大雑把なだけなのかな。

 

 同じようにラナさんにも事情を聞いてみた。


 「ラルクね。あの子、細かすぎるんだよ。なんでもアナタの理想通りには行きませんよって思うんだ。アタシも最初は嬉しかったんだよ? 弟欲しかったし」


 ラナさんも最初は仲良くなりたいって思っていたのかな。でも、口うるさいラルク君に嫌気がさしてしまったらしい。


 ラナさんはそういうと、部屋の中をウロウロして、棚に投げ込まれていた飛行機の模型を手に取った。


 「あの子さ。あのままじゃダメだと思うんだよ。うちの母さんの前で、嬉しそうに実の母親の話をするんだよ? 母さん一生懸命尽くしてるのに、無神経だよ」 


 わたしはラナさんの部屋を出た。


 なんだろう。この違和感。

 仲が悪くても、お互いに無関心という訳ではない気がする。

 

 すると、ケンさんが話しかけてきた。


 「今日はありがとうございます。これから夫婦で出かけないと行けなくなってしまいまして、続きはまた今度ということでも良いですか?」

 

 わたしも少し考えたかったので、2階の2人にも挨拶をして家に帰ることにした。


 外に出ると、もう空が茜色になっていた。

 ムクドリが群れになって飛んでいる。キュルキュルと賑やかだ。


 そういえばわたし。

 ……1人で外に出られるようになったよ。

 前は1人で外に出るのが、あんなに怖かったのに。

 


 家に帰って、今日会った2人のことをイヴさんと話す。

 すると、イヴさんは懐かしそうな顔をして、思い出話をしてくれた。


 「わたしね。実は姉貴とは血が繋がってないんだよ。最初は色々あったんだ。お互いに……、というか、わたしが姉貴を受け入れられなかった。自分の都合を色々と押し付けてしまってね」


 初耳だ。


 「でも、イヴさんとお姉さんは仲良しじゃないですか」


 「赤の他人なんだよ? それがいきなり同じ家族に放り込まれて、仲良くできる方がおかしいんだよ。うまくいかなくて当たり前。だから、その2人は、むしろ普通なんだと思う」


 「どういうキッカケで仲良くなれたんですか?」


 「うーん。喧嘩をしながら、ちょっとずつだよ。気づけば普通に話せるようになってた。今思えば、きっと、姉貴は最初からわたしのことを大切に思ってくれてたんだと思う。わたしがガキだったんだね」


 そういうものなのか。

 わたしには兄妹がいないから、よく分からない。


 すると、イヴさんはニコッとして明るい声で話しかけてくれる。


 「まぁ、姉貴は命をかけてわたしの生活を守ってくれたんだ。今は本当の姉以上だと思ってるよ。血が繋がってなくてもね。ソフィア。あなたとのこともそうだよ。迷惑かもしれないけれど、わたしは妹のように思ってる」


 迷惑なんかじゃないよ。

 ……嬉しい。


 イヴさんは胸を張って腕を組む。


 「だから、あなたがどうでも良いような男を連れてきたら、わたしが追い返してやるからね!」


 それは困る……。

 セドル君が追い返されちゃう。


 するとイヴさんは、にまぁーとして。

 「あれ? いま、セドルさんのこと思い出したんじゃない〜?」


 「ち、ちがうし……」


 わたしは、咳払いをすると本を読み始める。

 イヴさんにもらった「動物と話せる魔法」の本だ。


 これによると「会話というものは……」。

 あ、そういえば、お母さんと話してた防御魔法。あれもテストしないとなぁ。


 なんだか、思考がパラパラと解けてしまって考えがまとまらないや。わたし、セドル君の名前で動揺してるよね。


 やっぱり、わたしは……。


 

 (バタン!!)


 突然、扉が開いた。

 ラルク君だ。


 咳き込みながら肩で息をしている。

 ここまで走ってきたのだろう。


 ラルク君は、わたしの顔を見るなり泣き出してしまった。


 「あいつ、……ラナが変な男達に連れていかれちゃった。お父さんもあの人も、隣村まで行ってて連絡がとれなくて。お姉ちゃん魔法使えるんだろ? 助けて……」

 

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