第20話 わたしの願い事

 この制服も久しぶりだなぁ。


 制服はジャケットにプリーツスカートの組み合わせ。普通のデザインだと思う。


 だけれど、田舎の村でジャケットを着ている人は少ないので、少しだけ目立つ。


 通りがかる人が挨拶してくれる。

 わたしは、軽くお辞儀をしてネコ耳のフードを深くかぶる。



 エマがきた。

 挨拶をすると、一緒に歩き出す。


 隣村までは歩いて30分くらいで行ける。

 途中の道は整備されていて、頻繁に人とすれ違う。


 村の中と同じくらい安全なんじゃないかなと思う。


 エマは、申し訳なさそうにしている。

 沈黙を続けることは、エマの自責じせきに便乗したことになるのだろうか。


 だから、わたしから話しかけた。


 「いきなりわたしが行ったらビックリするかな?」


 「んー。どうかなぁ? 転校生かと思うかも?」


 悪意のないジャブ……。

 ちょっと悲しい。


 いや、事実なんだけどね。


 「そ、そうだよね。わたしほとんどいってないしね」


 「あ、ごめん。そういうつもりじゃ……」


 隣村に入ると、露店が出ていた。

 ミサンガが売っている。


 ……かわいい。

 

 わたしが店頭で悩んでいると。


 エマが駆け寄ってきて、おじさんに声をかける。

 「おじさん、これ2つください。一番幸運になれる色のね。ところで2つ買ったら、いくら安くなるの?」

 

 エマはおじさんと交渉して、安くしてもらったらしい。さすが商人の娘。わたしに小さくピースサインをする。


 そして、わたしの左手首をとる。

 手首をみると、エマとお揃いのミサンガが巻かれていた。


 わ、わたしは。

 エマを許したわけじゃないし。


 でもね。

 なんか嬉しくて笑顔になってしまうよ。



 そうこうしているうちに、校門についた。

 わたしは、門の前で立ち止まってしまう。


 苦しい。

 眩暈めまいがする。

 深く息をしても苦しいままだ。


 ちょっとくじけそう。


 すると、エマがわたしの左手をつかまえて、不意に中に引っ張った。


 わたしは、バランスをくずしてしまった。

 タタッと前のめりの駆け足になる。


 わたしは何も考えられない。

 ただ、視界には繋いだ2人の手。

 そして、結ばれたミサンガが2つ見えている。


 気づけば、校門の中にいた。

 エマはニコッとする。

 わたしがエマを助けに来たのに、さっきから助けられっぱなしだ。



 ここから巻き返さねば!


 

 エマが声をかけてくる。

 励ましてくれるのかな?


 わたしが勝手にそんな想像をしていると。


 「ソフィアちゃん。さっきは言いそびれちゃったんだけどね。そのネコ耳のフード、校則的に大丈夫?」

 

 え。

 ダメなの?  


 「こういうの着てる子いない?」


 「いや、いるにはいるよ。ちょっとグレちゃってる子とか……」


 え。うそ。

 どうしよう。


 わたし、これ無いと無理だよ。


 エマは続ける。


 「大丈夫。久しぶりに学校きたら、急に派手になってる子とかもいるし。そういうの、なんとかデビューっていうんだっけ」


 いや、それって。

 全然大丈夫じゃないよー!!




 エマに誘導されて、廊下を歩く。

 すると、見慣れぬ顔だと思ったのか、何人かはこちらを振り返った。


 ヒソヒソ何か話している。


 まずは、職員室にいった。

 担任の先生に母さんに貰った封筒を渡すと、わたしの顔を見て露骨に驚いた顔をされた。


 お母さんが復学の挨拶を書いてくれたらしい。

 


 その後、教室に行く。

 わたしの席は……。


 一番後ろだ。

 空席になっている。


 花瓶とか置かれてなくて良かった。

 席に座ると、背の大きな子が話しかけてきた。


 「あんた、転校生? アタシはスージー。あんたの名前は?」


 わたしは立ち上がる。

 すると、わたしの目の前には、彼女の首があった。

 

 「……わたしは、ソフィア」


 エマは、少し離れたところで、わたしを心配そうに見ている。


 そうか。

 さっそくマウントを取りにきたか。

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