第19話 ソフィアのねがいごと
あれからエマの現状について聞いた。
学校では、できるだけリーダー格の子の視界に入らないよう静かにに過ごし、1人でいることが多いという。
教科書がなくなったり、へんな噂が流れることも多いが我慢している。下手に逆らうと、その何倍もの仕返しをされるらしい。
話を聞いていると、自分のことのような気持ちになる。胸が締め付けられて痛む。
気持ちが打ちひしがれてしまう。
聞いていられない。
エマとの相談の続きは翌日にしてもらった。
1人で少し考えてみる。
イジメとは何なのか。
皆で仲良くすることはできないのだろうか。
蟻の世界では、常に一定の割合で働き者と怠け者がいるらしい。怠け者が居なくなると、不思議なことに他の蟻が怠け始める。
イジメとどこか似ているように思う。
カーストの上位の者は、その威力を誇示するために、下位者を必要とする。
だから、下位者がいなくなったら、他の者にターゲットをうつさねばならない。
リーダー格が居なくなったって同じだ。また、違う子がリーダーになるだけだと思う。
もちろん、イジメなんてない方がいいに決まっている。だけれど、いつもどこかにはあって。
程度の違いこそあれ、存在しないことが想像できない。
そう考えると、イジメって。
なくてはならない必要悪なの?
イジメがなくなると、社会はおかしくなってしまうの?
もしそうならば、人間は救いようがない。
でも、少なくとも、わたしの知り合った人達にそんな考えはないと思う。セイラちゃんもリンちゃんも、ジェイドさんもセドル君も。
王様も偉いのにすごく優しかった。
……難しい。
わたしにはちょっと分からない。
だけれど、わたしは大丈夫。
今まで会った皆んなを信じられている。
ソフィアは両手でパシンと自分の頬を叩く。
これは、きっと、人に生まれると押し付けられる宿題なんだ。答えがあるのかないのかも分からない。
そして、たぶん。
他人の答えから何かを導ける
だから、頭の中で色々考えても仕方がない。
わたしがすべきはエマを救うこと。
わたしには、ここで話しをするだけで問題を解決できるような力はない。むしろ、対人スキルは低い。
……エマの力になるには、あれしかない。
気は進まないけれど。
それは、登校。
学校の中から状況を見て、対策を考えるのだ。
この辺りの学校は、隣村にひとつしかない。だから、わたしもエマと同じ学校、そして同じクラスだ。
幸運にも……、制服も学用品も全て揃っている。
あとは行くだけ。
わたしは人間関係ができるほど学校に通っていない。だから、どこかのグループに分類されていないし、エマと一緒にいても不自然ではないと思う。
だけれど……。
頭では必要なことだと理解しているのに。
気が重くて踏み出せない。
エマへの
だけれど、それだけではない。
自分を奮い立たせたいのに。
わたしの勇気は涙で
ベッドの上で右往左往する。
枕に顔を押し付けてゴロゴロしていたら、いつの間にか寝ていた。
夢を見る。
あれ?
ここは知っている場所かな。
近所の広場だ。
夕暮れ時の広場。
辺りは朱色に染まっている。
そこには、小さな女の子が膝を曲げて座っている。両手で目を擦って泣いているようだ。
直感的にわかってしまう。
あれは、子供のわたしだ。
わたしはわたしに話しかける。
すると、その女の子は言うのだ。
「寂しくて辛いよ。外がこわいよ。おねえさん。わたしを助けてくれないの?」
その子は、わたしを見上げ、涙で濡れた手を伸ばしてくる。わたしは、その手をとろうとする。
…………。
目が覚めた。
そんなに長い間眠っていたのかな。
外はもう明るい。
朝まで眠ってしまった。
部屋の入口を見ると、軽食が置いてある。
バナナとヨーグルトと丸パン。
ヨーグルトには、特別な日でもないのにハチミツがかかっている。
メモが添えてあり「次のデートはいつなの?」と書いてある。なんだか拍子抜けしてしまう。
どれもわたしの好物だ。
お母さん、ありがとう。
気づけば、不思議に迷いはなくなっていた。
これは、子供のわたしからの依頼だ。
身内だものね。
報酬は出世払いということで、今回だけはタダで引き受けてあげるよ。
昼になってエマがやってきた。
いくつかの取り決めをする。
1、学校の中では、友達として振る舞うこと。
2、問題が無事に解決したら、今後は誰かを仲間外れにしないこと。
3、一緒に魔法の練習をすること。
エマは意外そうな顔をして。
少しだけ口元を緩めると、快諾してくれた。
これらは、朝起きて思いついたことだ。
子供の頃のわたしが喜びそうなこと。
そして、きっと解決の役に立ちそうなこと。
いや、半分は。……いまのわたしの願望か。
明日の朝は、エマと待ち合わせをした。
そして、一緒に学校に行くのだ。
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